ネパール・スタディ・プログラム

第1項 ネットワーキングカンファレンス

執筆者:石井大河、木村仁美

1.はじめに
ネットワーキングカンファレンス準備にあたり、各自が渡航して感じた疑問に対して消化不良であった点や、さらに議論したいと思った点を一人一つずつ挙げ、その中で多くの人の興味があった課題に対して発表することとした。

2.発表内容
2-1. 途上国における高度人材育成
ネパールの防災・災害復興を考える上で、ネパール復興のためには人材を育てることが不可欠であるという結論に達した。しかし、ネパールにおける人材育成には様々な問題があり、それはネパールに限らず途上国における普遍的な問題であると言える。

ネパールは世界屈指の頭脳流出国である。ネパールは海外留学、海外移住が盛んである。その背景にはネパールの経済は高度人材、出稼ぎ労働者を問わず海外で働く親族からの送金に大きく依存しているということが挙げられる。各家庭、少なくとも1人は外国で働いている人がいると言われており、送金額はGDPの約30%に相当する。国を復興・発展させていく上で、指導的立場となる高度人材の存在は不可欠だが、頭脳流出のためネパール国内で復興を支える人材は不足している。

その背景についてNSP参加者は、3つの仮説を立てた。1点目は、国としての一体感が保ちにくいという点。民族的、地理的、言語的、政治的にも国民は分断されており、国としてまとまるよりも家族や民族を重視しており、国として一体となって発展していくモチベーションの醸成が難しいという事情がある。2点目としては、公平な競争をするのが難しい状況が挙げられる。カーストや民族による差別や格差、汚職や地方政府の機能不全による政策実行能力の低さから、国内で頑張っても報われない不公平感がある。3点目としては産業が少なく既存の活躍の場が少ないこと、労働条件が不利であることが挙げられる。

以上を踏まえ、小グループに分かれて参加者とディスカッションを行なった。途上国における人材流出のメリット・デメリットを考えた上で、人材流出は防ぐべきものなのかどうか、また途上国はどのような行動をとっていくべきなのかについて話し合った。参加者からは、情勢不安定な国においては、一家のリスクヘッジのために各国に子弟を分散させているという意見や、海外で活躍している者と国との、心理的・物理的なつながりをいかに保つかが重要であるという意見が出た。

2-2. 多民族国家/宗教国家の発展のためには
ネパールの言語状況:10以上の言語があり、100以上の民族が混在している。

ネパールの宗教現状:ヒンドゥー教80.6%、仏教徒10.7%、イスラム教4.2% 等

渡航前に我々が勉強した内容によると、ヒンドゥー教特有のカースト文化は2011年に法律で禁止となったはずだが、実際に渡航し現地視察をした結果、カースト文化は未だに根強く残っている印象を受けた。

カースト文化は未だに根強く残っていることを裏付ける体験:

  • 特定の人が井戸に水を汲みに行くと周りの人が逃げる
  • 足が悪い老人が明らかに周囲の人間より不自由な立地の離れた家に住んでいる(坂を登った明らかに不便なところ)
  • わざわざ名前を変える人がいる (Nepalさんが多い)

このような問題を解決するには中央政府と地方政府の連携、そして政府がリーダーシップを張って変えていくことが求められる。ところが、我々が実際に各国際機関から話を聞いたところ、地方政府は10年も前から議員は変わらず、殆ど機能していないことが分かった。この背景には各地方政府の在り方に対する考えが中央政府で決まっていないことがある。更に意思決定の遅さの背景は、中央政府の議員が多民族で形成されており各議員が自分の出身地域をひいきにする為、意思決定が難しいと考えられる。

宗教問題<地方政府<中央政府<多民族問題が連鎖的に生じているとみられることを踏まえ、小グループに分かれて参加者と一般的に多民族国家/宗教国家が発展していくためにはどうしたら良いかをテーマにオープンディスカッションを行なった。

一案としては宗教問題は市民の慣習に根深く残るもので一長一短には変革することができないので政府がリーダーシップを張って、長期的視点で根気よく変えていく必要がある。更に身近な事例としては日本の喫煙に対する考え方が挙げられた(屋外、飲食店内での禁煙を根付かせるのに相当な時間が掛かったが、徐々に価値観が変化した好事例)。