ネパール・スタディ・プログラム

第10節 国連世界食糧計画(WFP)

2016年11月24日

議事録担当者:大渕和憲

概要
WFPは、飢餓のない世界を目指して活動する国連の食糧支援機関。自然災害や紛争などの緊急事態が発生した場合、食糧援助を実施し、緊急事態が過ぎ去った後は、食糧を用いて経済・社会の復興、開発を促進する。1961年の設立以来、世界の飢餓を解決するための最良の方法を追求するため、食糧事情分析、栄養学、食糧調達・物流など様々な分野において技術開発を行っている。ネパール地震の緊急支援では、国連WFPは164の団体に対し、支援における「物流のリーダー」として各団体の活動をサポート。支援物資がネパールに届く段階から、遠隔の被災地へ届ける段階まで、徒歩やラバなどあらゆる手段を使用して物資輸送の手配を行った。

主要な論点
○9:00~9:45ブリーフィング(Araniko Hotel)
Amrit Gurung氏(WFP)とShubha kamana Mandal氏(Save the Children、Project Cordinator)からnutrition programmeに関するブリーフィングを受けた。

*TSFP(Targeted Supplementary Feeding Program)は中等度の急性栄養不良(Moderate Acute Malnutrition, MAM)の状態にある生後6~59か月の子供に対する支援活動。

*シンドパルチョーク(Sindhupalchowk)郡はネパールの中でも最も開発が遅れ、かつ最も地震の被害が深刻であった地域の一つ。10カ所のOTC(Out-patient Therapeutic Center)と16カ所のTSFC(Targeted Supplementary Feeding Center)を展開し食糧・栄養支援を行っている。

*支援対象はシンドパルチョーク郡内の生後6~59か月の子供26,843人。現地自治体の保健局とネパールのNGOであるNTAG(Nepal Technical Assistance group)、UNICEFによって2016年2月から12月までの期間でプロジェクトが進められている。

*Chautara Hospitalでは、他のTSFCの技術的サポートのほか、すぐに食べられる栄養補助食品(Ready to Use Supplementary Food)を備蓄し、配布している。

*生後6~59か月の子供を登録把握するとともに、各コミュニティを巡回して重度の急性栄養不良(Severe Acute Malnutrition, SAM)やMAMの子供に対して処置を行っている。

*MAM状態の子供は1,339人(男348、女791)で治療を受けたのが692人(男273、女419)。検査を受けた総数は22,466人に上る。

*課題としては「TSFP拠点のロケーション」「人的資源不足」「子供の両親の収入が低い」「険しい地形」など。これらに対し「定期的なモニタリング」「現地でのコーチング」「物流的改善」「新規雇用のヘルスワーカーの教育充実」などを対策として実施。

○health post見学(地方病院、チョータラ村)
このChautara HospitalではOTC(Out-patient Therapeutic Center)とTSFC(Targeted Supplementary Feeding Center)を兼ねていた。

*栄養補助食品を4種類用意し、栄養不良の程度が重度であるか中等度であるかによって使い分けを行っていた。

*検査は上腕周囲径(MUAC)測定で実施。帯状に色が並んでいて、子供の腕に直接巻き付けて測るもので、腕回りが12.5センチ以上は正常(緑)、11.5cm以上12.5cm未満は中程度の栄養不良(黄色)、11.5cm未満は重度の栄養不良(赤)と色で栄養不良のレベルが分かるようになっている。

*生まれて間もない子供を徒歩片道1時間半ほどかけて連れてくる母親らに対して、子供の栄養状態に合わせて粉末の食糧を支給し、成長を促す取り組みを行っている。
「友達から聞いて、生後42週の子供を連れて2時間かけて歩いてきた、早産だったが栄養プログラムを信頼して今日まで過ごせている」

*「基本的に支給される食糧は無料」

*「ボランティアは経験年数50年以上のリタイア組だが、月給6万ルピー程度で、政府のより十分なインセンティブが必要」

○支援を受けた子供が住む家庭の訪問

2人の赤ちゃんについて健康調査
1人目:生後16か月
(父親はタクシードライバー、母親は家事や農作業に従事:子供の面倒みられない)
→MUAC測定は緑(正常)だった

2人目:生後15か月
(やはり父親はカトマンズでタクシードライバーをしていて不在)
→MUAC測定は黄色(栄養失調の危険有り)だった

*病院に来られなくなったら職員がトレースに行く

*カウンセリングをすることは毎日できない、歩いて1時間かけて病院に行くため

○16:45-18:00 Humanitarian Staging Hub(カトマンズ)
カトマンズ国際空港の北東側に隣接する支援物資の物流拠点(Humanitarian Staging Hub)は、緊急時への備えとして地震の1ヶ月前に完成したばかりであったが、地震発生後、緊急対応の支援拠点となった。今も諸団体の救援物資を受け入れ、被災地へ発送している。この拠点があったおかげで、なかった場合と比べて、支援物資を数週間早く被災者に届けることができたとされている。

*日本人職員の前川直樹さんらからブリーフィングを受け質疑応答や施設見学を行った。

*カトマンズの空港が国内唯一の国際空港であるため、この場所に飛行場があることは拠点を作る上での重要なファクターとなっていた。

質疑応答
Q.援助物資の運搬について、車両が使えない場合の手段として動物を使うこともあるということだが、ネパールでの運搬状況はどのようになっているのか?
A. 車両が使えない場合は人が担いで運搬するが、ラバを使用したケースもあった。

印象的な言葉
支援活動の決定に際しては、現地受け入れ側と事前に「何の支援ができて、何ができないか」をきちんと協議するミーティングを大切にしている、という点が印象に残った。そのためか敷地内には多くのミーティングルームが設置され、種々の協議が行われていることが推察できた。

所感
訪問した物流拠点は文字通り空港のそばにあり、巨大な倉庫からいつでも物資を搬出できる体制が整っていると感じた。訪れたのは日没時であったが、アスファルトを敷く作業が行われており、今後さらに充実した拠点となる雰囲気があった。今後いつ起きるかわからない余震に対しても、十分な備えとなるであろう。