ネパール・スタディ・プログラム

第5節 国連食糧農業機関(FAO)

2016年11月22日
11:00-12:30 ブリーフィング(ヌワコット郡内のホテル)
14:00-17:00カリアンプール(Kalyanpur)村の灌漑システム修復プロジェクト訪問/カダカバンジャン(Khadkabhanjyang)村の水道管設置プロジェクト訪問
2016年11月23日
7:00-10:30 ラチャン(Lachyang)村の苗木育苗施設訪問/タナパティ(Thanapati)村のビニールシート配布拠点・灌漑システム復旧作業現場視察

執筆担当者:永島杏紗、亀山香穂

概要
FAOは1945年10月にローマで設立。ネパールにおける重点分野は(1)食と栄養の安全・安心、(2)制度面・政策面の支援、(3)マーケット志向・競争力、(4)天然資源保護と利用の4つ。ネパール地震緊急対応の目的として「最も被害の大きかったヌワコット郡など合わせて6つの郡の被災コミュニティの農家の復興支援」を掲げている。

ヌワコット郡は人口28万人で、地震で大きな被害を受け優先復興地域の一つに指定された。丘陵地帯に位置し、未開発の土地も多く、おもな産業は農業。

主要な論点
1.プロジェクト概要
地震による農業への被害は(1)作物・設備への被害、(2)備蓄への被害、(3)家畜への被害、(4)女性が課長となっている農家への被害に分けられる。FAOはヌワコット郡災害救援委員会(DDRC、District Disaster Rescue Committee)などの行政機関や開発・実施パートナーと連携し被災コミュニティの農家の復興支援を行っている。FAOの緊急プログラムでは野菜・水稲・小麦等の種子の配布やミニ耕耘機・脱穀機・飼料・トタン板などの提供を実施している。農家にビニールシートを配布している拠点を訪問したが、ビニールシートを被せることによって雨風から守るだけでなく、さらに暖かくして樹木が育ちやすくする役割も兼ねていた。

2.小規模灌漑スキーム(SSIS、Small Scale Irrigation Schemes)について
FAOではカリアンプール、カダカバンジャン、タナパティの各村で灌漑システム修復プロジェクトを実施していた。現地の水道利用者(WUG、Water User Groups)が積極的に復旧作業に参加していて、実地調査や設備計画・見積作業でFAOが援助を行っている。現場では水田や生活用水として必要な水をくみ上げる水道管の設置作業が進められていた。

3.地震発生後の樹木苗育苗施設(Tree Nursery)の支援について
ラチャン村では、一度崩れた崖が地震によって余計に崩れ、水道管がむき出しになってしまい、見渡す限り大小の崖くずれが連なる現状を垣間見ることが出来た。ここでは若木を植えることで地滑りを減少させ、地割れを防ぐことで土壌を安定化させることを目標に復旧活動が進められていた。この活動は共同体森林利用者(CFUG、Community Forest User Group)の起業家精神の高揚にもつながり、苗木育成費用を森林の生産物で賄う能力も同時に強化することに繋がっている。訪問した施設では、地形・標高に応じて崖崩れ防止に効果的な植物を展示しており、根が網のように広がる植物が最も適しているとのことだった。

所感
生活のいたるところに地震の爪痕が残っていて、特に地方での被害の大きさを実感させられた。プロジェクト実施に際して、まずは何か支援するときに政府に支援することがあるか聞き、現地のニーズを聞き、組織が仲介で入るイメージがうまく現実で回っていると感じた。
組織が仲介に入る際、現地に住む人達の要望や意見を熱心に取り入れようというFAO側の姿勢が印象に残った。
片道一時間ほどかかる山道の上にあるTree Nurseryにもよく足を運んでいるというお話だったので、現地の受益者との関係性、その時の最善策を実施することに重きを置いていることが感じられた。
地元住民と協力して、一つのプロジェクトを回している、「草の根」団体という印象が強く残った。急な山肌に家が立ち並び、車一台がギリギリ通過できる山道を数時間走り続け、棚田が一面に広がる山をいくつも超えて辿り着いた先が、Tree Nurseryで、まさに「秘境」であった。管理人用の宿泊施設も隣接しており、水の管理など日々のメンテナンスを行なっていた。限られた交通手段で物資を運び、地元の方と協力しながら最も適した土地で、Tree Nursery を作り上げたとのこと。
FAOの方曰く、今回訪問した Tree Nursery は、彼らが支援しているプロジェクトの中でも割とアクセスしやすい方だとおっしゃっていて驚いた。気力と体力ともに必要な仕事であることを痛感した。