ネパール・スタディ・プログラム

第3節 国連開発計画(UNDP)

2016年11月21日 9:30-11:30(事務所訪問)

執筆者:加賀初音、伴ちひろ

概要
UNDPは1966年の設立以降、主に途上国の開発の支援を行い、単に所得を向上するだけには留まらず、人が人としての尊厳にふさわしい生活を送るべく支援をする、「人間中心の開発」を掲げ活動を行っている。

ネパールでは震災後、開発に取り組む機関として、早期復興クラスターのリードを取ると共に、災害後復興ニーズ評価調査(PDNA、Post-Disaster Needs Assessment)の実施、NRRP(国家復興再生政策、The National Reconstruction and Rehabilitation Policy)の作成、また震災後の5ヵ年の復興枠組み(PDRF、five-year Post-Disaster Recovery Framework)を準備した。

主要な論点
・震災の被害を受けた14郡の内、26%の住宅が女性中心の家庭であり、41%がダリット(不可触民)や少数民族、23%が年長者に属するものであった。

・UNDPは開発機関であり人道支援機関ではないが、緊急人道支援と開発支援は密接につながっている。人道危機や災害を防ぐための開発支援を目指すと同時に、災害・人道危機から早期に復興し強靭且つ持続可能な開発を促すような支援に取り組む。

・UNDPでは、震災後以下の4点を優先事項とし活動を行った。

1.がれき駆除
-UNDPにとっては新領域であった。
-道路の瓦礫や破片を撤去し、他の機関が支援に行きやすいようにした。
-また仮設住宅の提供も行った。
2.公共建築物と生活の再建
-対象は地震後に支援を受ける手段がなくなった人々としている。
-公共サービスを提供する政府の建物も壊れたため、基本のインフラストラクチャーを提供した。
3.公共事業の回復
4.早期復興クラスターコーディネーション
-震災の翌日から開始。緊急人道支援のフェーズから、早期復興に繋げるためのクラスター。
-UNDPとネパール政府の協力のもと行われた。

・UNDPは2015年6月に世界銀行、EU、ADB、そしてJICA等と協力してPDNAを作成した。この調査では震災後にどのような支援がどれくらいの規模で求められているのか等を調査し、大体2ヶ月かかった。ネパールではデータ収集の方法が不足しており、通常より難しかった。

・PDNAの中でも、UNDPはPDNA 事務局と4つの分野(disaster risk reduction, human development impact, environment and governance)において技術協力を行った。

・政府は震災後の緊急支援でも、かなり活動的で時々率先して行動してくれた。国際機関は政府のリーダーシップをサポートする立場にある。

・NRRPもUNDPは世銀等と一緒に作成を手伝い、2016年5月に始まった5ヵ年計画(PDRF)を準備した。

・UNDP は震災直後から最初の6ヶ月間行われた支援に加え、4年間の包括的な復興計画を作成し、ネパール政府をUNDP復興計画として支援している。この計画では、被災した人々への支援やネパール政府が復興に向け調整、計画、そして管理を行えるようサポートし、ネパールが「持続可能な開発への道」へと戻れることを目標としている。プログラムの4つの柱は以下のとおりである。

1) 復興計画、調整、そして国家再建当局(NRA)の強化
-まずPDNAを通してニーズを特定し、ニーズに合うようにフレームワーク(PDRF)を作成。その際にUNDPの専門家が政策やガイドライン作成を一緒に行った。 復興事業には、様々なドナーやNGOが技術協力や資金協力をしており、効果的・効率的な支援の運用のために、復興支援調整へのサポートも行っている。
2) 生計の回復
-震災で被害を被った人々のために、雇用や技術向上、事業回復の支援を行った。
-具体的には、小規模なビジネスの起業を促進するプログラム(Micro-Enterprise Development Programme)やコミュニティーのインフラや生活を回復させるためのプログラム、そして震災リスクを管理するプログラムなどが実施されている。
-起業を促進するだけでなく、支援を受けている人と市場を繋げたり、能力開発の支援を行ったりしている。
3) ガバナンス及び公共サービスの復元
-崩壊した地方政府の施設の代わりに、仮設ではあるが備品を揃えた施設を建設。
-地方政府が緊急・早期復興フェーズから復興フェーズへと移行する際に技術支援を提供。
4) 震災リスク減少とレジリエンス
-震災リスク管理の法制度のために支援を行っている。
-都会と地方どちらでも災害に強い建築方法や土地利用の仕方について住民に情報を提供する。

質疑応答
Q. Micro-Enterprise Development Programmeではビジネスを支援しているのか?
A. ネパールで利用可能な資源があればそれを利用してできるビジネスを支援している。もともと住民達が受け継いできた伝統的な技術とそれを買いたいと思う潜在的な市場が存在していることを条件としている。

Q. 社会的な回復も早期回復や再建なのではないか?
A. UNDPではカウンセリングを行っている。女性たちに自信をつけてもらっている。経済的なエンパワーメントが社会的なエンパワーメントにつながると考えている。

所感
事務所の訪問では、日本人職員である遠藤さんとトップである事務所長から直接話を聞くことができ、非常に充実した時間であった。開発分野から長期的に支援するUNDPは、今後もネパールでの震災復興過程で重要なアクターになっていくだろうと感じた。また、UNDPは震災以前からネパールの地方分権化や開発政策に携わっており、中央政府だけでなく、地方政府とも関わりがあったことから、今回の震災復興の際にも現場を知るためのアセスメント実施を初めとした現場での活動が比較的容易に行えたのではないかと考えられる。