ネパール・スタディ・プログラム

第13節 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)

2016年11月25日

議事録担当者:加賀初音

概要
国際連合教育科学文化機関(UNESCO)では1945年の設立以来、人類共通の貴重な財産である遺跡や建築物、あるいは無形文化遺産とされる伝統的な音楽や演劇等を守る取り組みを行ってきた。カトマンズ、パタン、バクタプルの3都市を含むカトマンズ盆地は、1979年にUNESCOの世界遺産に登録された。盆地に位置する寺院や広場の建築物は、ネパール盆地の宗教、政治そして生活文化を豊かな建築様式で表現しており、今回はそのうちのダルバール広場(Durbar Square of Hanumandhoka)の修復プロジェクトを見学した。

主な論点
・この修復プロジェクトはUNESCOとネパールの考古学局が中心となっており、費用の一部は日本の信託基金が提供している。
・地震によって、カトマンズ盆地の191の記念建築物に被害があり、その内の34の建築物が全面的に崩壊、157の建築物が一部崩壊した。一番被害が大きかったのがダルバール広場で、39の建築物が何らかの被害を受け、その内の12の建築物が崩壊した。現在も建物の一部は崩壊しており、ところどころにひびが入っていた。
・地震後の作業では、まず瓦礫の中から扉や窓に使われていた木材を探し出した。しかし、それらの木材をバラバラに積み上げたので、その後にどの木材がどの寺院のものであるか判別しなければならなかった。またこれらの部品を泥棒や自然から守る必要もあったため、UNESCOが考古学局と協力して重要な部品を保存した。今後は建物の修復作業を行うとともに、建築物の耐震強度を上げるために、建物の土台を修復する予定である。
・修復作業も、ただ元通りの形に戻すのではなく、1つ1つの建築用材がどこに使われていたのかを確認し、元の位置に戻すようにしている。地震の被害によって、修復不可能になってしまった建築用材は出来るだけ同じ太さや種類の用材を探し使用している。しかし、かつて使われていた木材が近年採れなくなってきており、同じ条件の木材を見つけることが困難である。
・ダルバール広場の建築物の特徴として、細かい木の彫刻が挙げられるが、現在このような彫刻を施せる職人の数も減ってきており、問題を抱えている。

質疑応答
Q. 大量の鳩が世界遺産建築に巣を作っているが、鳩の糞による被害はないのか?
A. 鳩が木材建築物に糞をしないように、一部には網を張っている。しかし、世界遺産に登録している建物に網を張ることで建物に変化を与えてしまうのはいいことなのかは分からない。
かつては、ダルバール広場周辺地域もダルバール広場の建築物に合わせて低めの建物が建てられていた。しかし、経済が発展するに伴い、周辺に住む人々が高い建物を建て始めた。現在は法律によってダルバール広場の建築物より高い建物を建てることが禁じられている。

所感
訪問したダルバール広場はお祈りする人や友人と建物の下で語らう若者などが多く集っており、「市民の憩いの場」である印象を受けた。修復作業の話を伺うと、想像以上に時間がかかるもので、十分な資金と修復できる人材を揃えるのに苦労するのではないかと感じた。途上国において文化財の修復は、復興や開発戦略において他分野よりも後回しにされることが多いと思う。今回、遺産を訪問し、その緻密で丁寧な建築物の美しさに感動した。カトマンズ盆地の古い町並みや寺院を守り、伝統、文化を受け継ぐ場所を大切にしていってほしいと強く思わされた訪問だった。