ウガンダ・スタディ・プログラム

第5章 フィールドスタディ(OBF) 3 経済

第5章 フィールドスタディ(OBF):仮説とその検証結果

5.3 経済
5.3.1 勉強会での学び

第5回勉強会では、ウガンダにおける経済面での課題を概観しながら、ウガンダの持続可能な発展やWell-beingを実現させるためのレバレッジポイントを考察した。

Well-being
Well-beingの定義は、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(世界保健機関憲章前文, 1946)」や「よく生きる(⽥瀬和夫、SDGパートナーズ「SDGs思考」, 2020, P44-47)」ことを意味する。世界大戦以降、健康の定義が見直され(身体的のみならず精神的・社会的な健康状態)、1980年代には社会保障を重視し、個人の生活の質に着目がされた。2000年代には主観的幸福が重視され、GDPに変わるWell-beingを測る指標も多様化した。

<ウガンダの経済産業-基礎情報->
まずはウガンダの近年の経済状況について確認した。

全体の概況
(1)ウガンダの経済成長は著しい反面、財政債務残高は増加傾向である。
(2)生産年齢人口は多い反面、失業率が高い…人口増加率世界4位、平均年齢15.9歳、生産年齢人口割合が49.5%と将来を担う世代が豊富な反面、18-30歳の失業率が13.3%もあり(一般社団法人日本ウガンダ経済推進協会 2016, 在ウガンダ日本国大使館 2017, 外務省 2020)、人口の8割はインフォーマル経済(政府の関与・課税を受けず、国民総生産統計等にも表れない経済活動)に身を置いている(Palladium 2020)。今後は高付加価値産業への就労強化が求められている。
(3)人々の起業家精神が高く、ビジネスチャンスは多いと言える。
(4)法整備などのガバナンスが不十分である。
(5)インフラの不整備:経済活動の基盤となる道路・交通手段の整備、灌漑設備、電力の整備は、地域によって大きな隔たりがある。

主産業である(1)農業、(2)製造業、(3)観光業
(1)農業は労働人口の約7割が従事し、ウガンダのGDPの1/4を占める基幹産業。過去5年間で農業GDPは年間平均3.4%の成長率を記録した(NATIONAL PLANNING AUTHORITY 2020)。
(2)中小企業は都市部に集中。製造業の成長率は、GDPに反比例して年々減少している。
(3)観光業のポテンシャルは高い(豊かな自然と文化、低物価、治安も比較的良い)。インフラ・人材育成・広報が課題となっている。

貿易・海外との経済
(1)海外からの直接投資:資金需要の高い第一次産業より、第二次産業に多く集まっているミスマッチが存在する。理由としては、小農が多く、投資可能な大規模な企業的農業がほぼ実施されていないためである(高山晃郎, 2019)。
(2)輸出入:第一次産品を多く輸出、第二次産品を多く輸入しており、貿易赤字が続いている。
(3)地域共同体:東アフリカ共同体(EAC)や東南部アフリカ市場共同体(COMESA)といった地域機構により、自由貿易と域外からの投資を促進させ、域内の保護と振興を図っている。

<ウガンダのNDPIIIから見る経済政策>
ここでは、「ウガンダビジョン2040」を実現するための五カ年計画である国家開発計画(NDP)の成果と課題を(1)農業、(2)製造業、(3)観光業の3カテゴリーに分けて鑑みながら、現状では設備不足、フォーマル市場やサービス・投入材へのアクセスの難しさ、制度の枠組み等の課題から農業の産業化が進まない事や、製造業・観光業共に制度や人材、技術、インフラといったソフトとハード両面の課題により十分な産業化ができていない実情を学んだ。

<ウガンダの経済産業:COVID19が与えた影響>
最後にCOVID19禍での状況に関しては、一定の感染の封じ込めに成功したウガンダだが、経済封鎖は経済に大打撃を与え、今後貧困増加の恐れがある。農業では、COVID19だけではなく、サバクトビバッタの侵入、洪水等の被害により、サプライチェーンの混乱をもたらし、農業関連中小企業、農業従事者に打撃を与えた。製造業では中国の工場閉鎖などの影響で需要の急落や労働者の雇用に大打撃を与えた。観光業ではウガンダの観光業では今後5年以内に50億ドル以上の損失が見込まれている。ウガンダ政府は国連貿易開発会議(UNCTAD)や国連開発計画(UNDP)と連携し、デジタル化、eコマースを推進し、新たな生計手段を生み出している。

<ディスカッション>
「あるウガンダ人にとっての経済産業とWell-being」と題して、個々人の農業、製造業、観光業それぞれの従事者のシチュエーションを例にそれぞれの人々にとって経済発展(NDPIIIの成功)がどのような影響を及ぼすのか、ウガンダが「個々人のWell-being」を実現しながら、どのように発展していくことができるのかを話し合った。

参加者が実際に一人の当事者になりきって考えるプロセスの中で、「ウガンダ人」や「北部地域の人」、「難民」といった集団単位の捉え方ではなく、個人の主観的幸福を想像し考察し、より実際に現地へ赴き検証することへの動機付けとなった。

5.3.2 その中で抱いた仮説

  • ウガンダの経済発展やWell-beingを高めるためには、ユース層の起業家精神を効果的に活かし、彼らが自主的にビジネスをしていく仕組みづくりが必要ではないか。
  • 海外からの直接投資等をウガンダの持続可能な経済発展に生かすためには、税制や法整備をはじめとしたガバナンスの強化や、雇用の創出などの労働環境の整備が必要ではないか。
  • 内陸国であることや、交通網の不足により、地方ごとの経済格差を生んでいる点から、道路等の交通網の整備によって物流を発展させることがウガンダ経済発展のレバレッジポイントとなるのではないか。

5.3.3 オンラインブリーフィングでの質問内容と回答サマリ

経済開発分野では、国際協力機構(JICA)、世界銀行、国連開発計画(UNDP)、ビジネス分野では、Ricci EverydaySaraya East Africaとのオンラインブリーフィング(OBF)を実施した。以下、各OBFの質疑応答より抜粋した質問内容及び回答をまとめる。

(1)JICAウガンダ事務所(次長 内山貴之氏)
Q.ウガンダの強みと弱みは何か。
A.強みは、ウガンダは民族ごとに言語が異なっており、英語が国民間の共通語として機能していること。また、ウガンダ人は誠実で、我慢強く、人当たりが良い。一方で、内陸国であることが経済発展をする上で弱点となっているが、COVID-19の影響によりITやモバイルマネーの普及が加速化しており、今後活用領域が広がれば内陸国の弱点が減ると予想される。
Q.他の東アフリカ共同体(EAC)加盟国との連携や協力関係はどうか。

A.国単位の規模が小さい東アフリカにおいて、域内統合は大きな開発のアジェンダであり、関税免除、共通通貨、EACインフラプロジェクト等、域内の経済成長に資するプロジェクトを優先的に推し進めている。JICAEACの拠点があるタンザニアに専門家を派遣してEACとしての能力強化を行っている。

(2)世界銀行(松浦みき氏)
Q.世界銀行は地方分権の推進及び地方政府の能力強化・構築のためにどのような施策を行っているのか。

A.ウガンダは憲法で地方政府の役割が定められていることから比較的に地方分権が進んでおり、世界銀行はウガンダ政府がすでに持つ法律の枠組みの中で地方政府が上手く機能できる環境作りや体制整備のための支援を実施する。地方政府が抱えている課題には、予算が不十分であること、その配分が不平等であることなどが挙げられるが、世界銀行は、ウガンダ中央政府が策定した地方財政改革プログラムのうち、教育、保健、水・環境、小規模灌漑分野に対して融資を行い、プログラムの内容は財務省による財政確保から、分配後の地方政府での適正な財政管理や人員確保、公共サービスの提供まで広範囲に及ぶ。

(3)UNDP Uganda(Innocent Fred Ejolu氏、他ウガンダ事務所職員)
Q.UNDPはどのように若手起業家育成に取り組んでいるのか。

A.30歳以下の若者の人口が78%を占めるウガンダでは、若年層の失業問題の解決が重要である。そこで、2020年8月に、若者がイノベーションやビジネスソリューションを生み出し、雇用創出と起業を促進することを目的に、現地の大手金融機関と連携のもと「Youth4Business」という機構を設立した。これにより5万人の若者が雇用に求められるスキル育成の確保、そして2万人分の新たな雇用創出が可能になり、若者にとって働きがいのある仕事と暮らしが実現されることを期待されている。

(4)Ricci Everyday(代表 仲本千津氏)
Q.ウガンダと日本の二国間でのスタッフの連携やマネジメントはどのようにしているのか。

A.課題に直面した際、自分で解決して自走できるようなメンタリティ・スキルを持っているウガンダ人スタッフが多く彼女たちに支えられている。いかに彼女らを信頼して仕事を任せ、何か問題が発生したらマネジメントとして責任を取ることを心がけている。また、ウガンダ側のマネジメント層の人材を育成することにも注力している。

(5)Saraya East Africa(ゼネラルマネージャー Fortunate Collins氏)
Q.どのような時に仕事に対して挑戦的である、またはやりがいがあると感じるか。

A.COVID-19の感染が拡大し始めた頃、市場の需要が急激に高まり、供給が追いつかなかったことに加え、国民を守るために十分な製品を生産することで政府からの要望と期待にも応える必要があり大変であった。現在では、生産ラインの変更や生産工場の拡大により需要を満たす供給が可能になった。同時に、設立当初は知名度の低かったSarayaの消毒液が、COVID-19の感染拡大により、政府や国際機関など様々な人から必要とされ、国民の命を守ることに貢献していること、そしてウガンダ国内の消毒液商品として最も選ばれていることにやりがいを感じている。

5.3.4 回答によって得られた仮説検証結果、考察

経済開発及びビジネス分野のOBFを受けて得た学びから、仮説検証、考察をするために振り返り会を実施した。以下、2つの仮説について考察結果を述べる。

(1)現地人材の育成及び活用において重要なことは、ビジネスに対する共感を得ること、信頼関係を構築すること、そして、ビジネスを通じて現地スタッフが成長できるような環境や仕組みを整えることである。

OBFを受けて、現地でビジネスを成功させるためには現地人材の活用が必要不可欠であり、極力現地スタッフだけでビジネスが回るようにする必要性はコロナ禍で一層増しているとという印象を受けた。優秀な人材が民間よりも国際機関等に就職する傾向があるウガンダで、優秀な人材をいかに獲得するかが重要になると考えた。

現地人材の採用について、Saraya East Africaの職員は、「企業の理念やビジョンに共感してもらえているかを最も重要視しており、これは多国籍企業として、そしてチームとして業務にあたるうえで非常に重要な点である」と発言していた。Ricci Everyday代表は、現地スタッフを雇う際にやる気があるかを重要視しているそうだが、採用基準は全てウガンダ人のスタッフに任せていると話していた。起業当初から雇用している現地スタッフを信頼し、高い意欲と責任感を持つ彼女らを中心に、現地の事業運営を進めているとのことであった。

また、SarayaとRicci Everydayに共通してみられたのは、現地スタッフの意見や考えを何よりも大事にし、尊重することである。現地スタッフを単なる労働力とみるのではなく、彼ら彼女らの個性や能力を活かし、信頼して仕事を任せることで、単に収入を得る以上に、仕事を通じて彼らが内面から成長し、自負心を高められることに繋がっているのだろう。これらのことから、外資企業が現地でビジネスをするうえで基盤となる現地人材の育成及び活用について重要なことは、企業の理念やビジネスに対する共感を得ること、現地スタッフを信頼し、事業運営を任せることであり、結果としてスタッフ自身の能力向上や自信につながるのではないだろうか。

(2)Well-beingの向上及び持続可能な経済発展を実現するためには、ガバナンスの強化及び雇用の創出などの労働環境の整備が必要である。

労働環境の8割強をインフォーマルセクターが占めているウガンダにおいて、COVID-19の感染拡大の影響により、脆弱な立場にいる若者や女性が失業を余儀なくされ深刻な問題に直面している。この課題から迅速に復興し、持続的な経済活動を実現するためには、国際機関や政府、そして国内外の民間企業等の多様なアクターとの連携とともに、ガバナンス強化及び雇用創出や労働環境整備のための仕組み作りが極めて重要であると考える。UNDPウガンダ事務所は、2020年8月に「Youth4Business」という若年失業問題への対処と起業支援に取り組む機構を立ち上げ、5万人もの若者向けにスキル育成を確保することで2万人分の新たな雇用創出の可能性を生み出したほか、ICTを活用して、インフォーマル市場の販売者とその顧客をつなげるeコマースプラットフォームの創出に取り組み、カンパラ市内7つのインフォーマル市場における1500以上の販売者をつなげる枠組みを構築し、デジタル経済を促進している。

また、上記仮説(1)の考察で述べたように、持続的な経済活動のためには現地の人々の存在と彼らに対する理解が必要不可欠であり、彼らにとって快適な労働環境作りが重要であると考えた。Ricci Everydayでは日々のコミュニケーションを通じて現地スタッフの要望を聞くことで彼女らの不安を取り除くことを一番大事にしている。例えば、子どもの学費をまとめて支払うことができない従業員には、無利子ローンの制度を作り、従業員がお金を借りて給料から支払うことができるように制度を整えている。シングルマザーである彼女たちにとって、子どもの学費を必要な時に支払えること、子どもを学校に通わせ続けられることは、大きな不安要素取り除き、仕事に対する満足感や意欲の向上につながっているのだろう

COVID-19の感染拡大により深刻な影響を受けている経済活動であるが、脆弱な立場にいる人々を取り込み、人々のWell-being向上とともに持続可能な経済発展を実現するためには、国際機関をはじめとする様々なアクターによる支援のもと、ガバナンス強化及び整備された労働環境の構築に取り組むことが重要である。