ウガンダ・スタディ・プログラム

ウガンダ・スタディ・プログラム  第五回勉強会レポート

ウガンダ・スタディ・プログラム  第五回勉強会レポート
「Well-being(よりよく生きる)の実現ーSDGs時代の経済・産業の望ましい成長のあり方を考えるー」

 ー世界の社会経済システムを考え直さないといけないー COVID-19の影響により、これまでの資本主義の見直しをより一層迫られる中で、人間の尊厳、社会、次世代についてもより一層重視されるようになった昨今。「人々の幸福を中心とした経済」はどのように実現可能なのか。

 ウガンダ・スタディ・プログラム(USP)では、11/8(日)に第五回勉強会を開催しました。
今回のテーマは、「Well-being(よりよく生きる)の実現ーSDGs時代の経済・産業の望ましい成長のあり方を考えるー」。ウガンダという国から、上記テーマの解明にチャレンジしました。
 SDGs達成のために重要な要素であるWell-beingという概念についての理解を深め、さらに、これまでの勉強会では扱ってこなかった、ウガンダの経済産業分野について詳しく見た上で、最終的には、これまでの全ての勉強会の総括として、ウガンダの持続可能な発展を実現するための政策を考え、発表を行いました。
 なお、今回もプレ勉強会と本勉強会の2部構成となっており、10/30(金)に行われたプレ勉強会でWell-beingについて、本勉強会では経済産業分野について主に取り扱いました。

5th-workshop


目次

1.プレ勉強会(Well-being/調査報告):Well-beingの歴史と定義を知る
2.プレ勉強会(Well-being/議論):自分にとってのWell-being、ウガンダ人にとってのWell-beingって何だろう?
3.本勉強会(ウガンダの経済産業/調査報告):ウガンダの経済政策とCOVID-19がウガンダに与えた影響
4.本勉強会(ウガンダの経済産業/議論):ウガンダ人モデルから考える、個々人のWell-beingを実現するための経済発展とは?
5.勉強会総括としてのディスカッション:ウガンダが持続可能な発展を実現するための政策とは?
6.今回得た学び
7.所感

1.プレ勉強会(Well-being/調査報告):Well-beingの歴史と定義を知る

 勉強会はまず、Well-beingという概念の理解から始まりました。
 Well-beingは人の豊かさや在り方を表す包括的な概念であり、Happiness、Wellness、Welfareといった言葉よりも幅広い概念であることまた、Well-beingという概念が、第二次世界大戦中に、より高次の「健康」を表す概念として生まれたこと、個人の生活の質や社会保障を重視する戦後の時流の中で途上国開発に適用されるようになったこと、現在では、客観的指標で測れない「主観的幸福」が注目されるようになっていることを学びました。
 概念と歴史を踏まえ、経済力だけでは測ることのできない「豊かさ」を測るGDPの代替としてのWell-being指標についても見ていきました。ここでは、これまでの開発指標で測ることができない個人の「自由」の拡大という視点を取り入れた「人間開発指数(HDI)」や、個人レベルでの生活の質の決定要因を測る「Better Life Index」といった指標が紹介されました。

2.プレ勉強会(Well-being/議論):自分にとってのWell-being、ウガンダ人にとってのWell-beingって何だろう?

 続くディスカッションパートでは、Well-beingの概念を理解した上で、実際に各々の生活に立ち返り、「自身のWell-beingに最も影響する要素は何か?」を考えました。健康や安全、経済の不自由がないと行った基礎的な内容だけでなく、社会との繋がりや、個々人の選択の自由が最も重要なのではないかとの意見が多く出てきました。
 自分自身のWell-beingを踏まえた上で、「自分がウガンダ人だった場合」についても議論を行いました。ここでは、各チームで地域/性別/職業/収入レベル/属性を設定し、そのウガンダ人になりきって、「どのような項目がWell‐beingに影響しているか」を考えました。今回は、どちらかというと基本的ニーズ、特に収入や教育といった面に重きを置かれているのではないかとの議論が多くなされました。経済発展期にあるウガンダでは、日本の高度成長期のような、物質的金銭的豊かさが幸せなのではないか、との意見もありました。
 これらの議論を通して、捉えることの難しいWell-beingという概念について改めて主観的に捉え直すきっかけとなりました。

3.本勉強会(ウガンダの経済産業/調査報告):ウガンダの経済政策とCOVID-19がウガンダに与えた影響

 本勉強会ではまず、ウガンダの発展を考える上で欠かせない「ウガンダの経済」についての基礎知識をインプットしました。特に、今回の勉強会では、ウガンダ政府の推進する主要な産業であり、参加者の関心も高く、産業多角化の観点からも可能性のある農業、製造業、観光業を、第1次、第2次、第3次産業としてそれぞれフォーカスしました。 ウガンダ経済の概要としては、若年層が多いながらもその失業率が高く、高付加価値産業への従事が求められることや、労働従事者の8割がインフォーマル産業へ従事していることなどの課題がある一方、スタートアップが盛んであるといった強みも紹介されました。
 その上で、現在ウガンダがどのような経済発展を目指すのかという指針として、国の経済政策である「国家開発計画(NDP)III」を取り上げ、その中の各産業の取り扱いについて見ていきました。
 NDPIIIの中で、人口の約7割が従事する農業は、現状では自給自足農業の割合が高く、今後商業化と高付加価値化を目指す方針が、また、低付加価値商品の製造に留まる製造業では、国内製造の強化と輸出強化の方針が、ポテンシャルが高く観光資源も多いながらも活かしきれていない観光業では、商品開発、インフラ強化、人材育成といった方針が示されています。なお、NDPIIIでは「ウガンダ人の世帯収入の増加と生活の質の向上」を目標として掲げており、国としてもSDGsの達成や、Well-beingの実現を目指す姿勢が読み取れます。
 続けて、こうした国の方針がありながらも、それを阻害する要因として、COVID-19がウガンダ経済と各産業に与えた影響を見ていきました。ウガンダは、厳格なロックダウン措置により、COVID-19の封じ込めには成功したものの、これにより経済活動が停止し、GDP成長率の低下といったマクロの課題だけでなく、特に都市部の貧困層へは甚大な影響を与える結果となりました。
 各産業においても、農業においては、サバクトビバッタや洪水の被害もある中での三重苦であることや、製造業においては、特に従業員解雇が大きな問題となっているだけでなく、原料輸入や投資においてこれまで大きく中国に頼ってきた中で、ウガンダ企業に対し直接的な打撃となったこと、観光業においても5年以内で50億ドル以上の損失が見込まれるなど、それぞれ甚大な影響があったことが明らかになりました。他方、ウガンダ政府は新たにデジタル化を推進し、新たな生計手段の創出に取り組んでいることも分かりました。

4.本勉強会(ウガンダの経済産業/議論):ウガンダ人モデルから考える、個々人のWell-beingを実現するための経済発展とは?

 これらの学びと、プレ勉強会の学びも踏まえ、ウガンダの個々人の視点に立ち返り、改めて、農業、製造業、観光業従事者の視点から、NDPIIIが個々人に与えるポジティブな変化や、コロナによる影響、Well-beingを踏まえて政策上で留意すべき点についてディスカッションを行いました。その上で、ウガンダの各産業の特性や強み・弱みを活かし、どのように発展していくことが可能かを考えました。

5.勉強会総括としてのディスカッション:ウガンダが持続可能な発展を実現するための政策とは?

 本勉強会最後のパートでは、今までの勉強会の総括として、各チームに分かれて、「ウガンダが持続可能な発展を実現するための政策」をまとめ、発表を行いました。議論がまとまったチームもそうでないチームも、各チームこれまでの学びをフル動員して、非常に白熱した議論が展開されました。
 今回は特にコンテストなどは行いませんでしたが、個人的に面白いなと思ったチームの政策方針を抜粋してお届けします。

チーム①
ムセベニクスの3本の矢
(1)インフラ整備(道路・水・電気・ネット環境などのハード面と雇用の創出というソフト面
(2)セーフティネットの整備による、希望職種との並走
(やりがいがあり、自己肯定感のある仕事に就けていて、持続可能な経営が実現できている)
(3)資格や提供するサービスに基準を設け、品質向上とともに、個人の目標設定や達成後の満足度の向上

→こちらのチームは、Well-beingを実現するために必要な要素を洗い出した上で、基礎的なインフラから自己実現まで幅広い内容を、キャッチーにまとめていたのが印象的でした。
プレゼンの際にも本人たちが楽しんでいる様子が伝わり、ワクワクする案でした!

チーム②
・ウガンダ政府としてウガンダ人全員で共通に認識できるビジョンをつくる
・ウガンダとして国としてどのような立場を目指すかを考える
・自分たちの生活に問題意識や課題をもち、将来設計や希望を持てる教育の仕組みをつくる

→こちらのチームは、日本での震災復興のケースを元に、個々人のWell-beingに立ち返り、それをいかに政策に落とし込むかを検討していたのがとても印象的でした。
自分事として考える際に、渡航したことのない国について想像する際に、(背景や状況の違いはあれど)日本に引き寄せて考えるのは、より具体性が増すように感じました。

6.今回得た学び

 今回は、Well-beingと経済という2つの大きな軸がありましたが、Well-beingという概念の捉え方、また、経済産業というマクロのテーマを個々人のWell-beingにどう落とし込んでいくのか、などこれら2つを同時に扱う難しさを感じるチャレンジングなテーマとなりました。どちらもそれだけで勉強会ができる骨太なテーマでしたが、リサーチにおいても、ウガンダの政策の中でWell-beingが一つの柱として作られているなど学びが多かったですし、新たな資本主義の可能性について想像し、未来に考えを巡らせる機会となりました。
 特に印象的だったのは、アドバイザーの方から最後に、経済発展こそがWell-beingではないという点についてコメントいただいた事です。頭では理解しているつもりであったものの、無意識でそのような思考が前提になっているという指摘から、自身の思考の前提を疑ってみる必要性を改めて感じました。

 このWell-beingというテーマについては、勉強会後もかなりモヤモヤが残った部分ではあったので、次回、2月7日に開催予定の冬のネトカンでも取り上げる予定です!
気になった皆様は、ぜひ予定を空けておいてくださいね。

7.所感

 今回はオンラインブリーフィングが始まっていたこともあり、これまでの勉強会に比べても、より現場視点で考えることができたと感じます。また、今回の学びを踏まえ、オンラインブリーフィングにおいてもより深い質問をすることもでき、時期的に様々なコンテンツが重なり大変ではあったものの、結果的に相乗効果だったのではないでしょうか。
 個人的には、初めて勉強会のストーリーラインを考えるところから関わり、勉強会の組み立てや構造化、それぞれのメンバーの意見をいかに組み入れるかといった点でも、非常に勉強になりました。
 USPもいよいよ終盤に差し掛かり、オンラインブリーフィングでの学びだけでなく、いよいよ報告書やネトカンでの活動報告などのまとめに向かっていきます。
 最後までこちらのブログでも活動について発信していきますので、引き続きお楽しみに!(久富)