ヨルダン・スタディ・プログラム

4.2.3. 環境

4.2.3 環境問題

1)ヨルダンにおける環境問題に関する問い

人々のウェルビーイング(心理社会的幸福)を高めるためにヨルダンではどのような環境対策や持続可能性に関する事業が行われているか?その問題点とは何であり、解決策として何が考えられるか?

2)渡航前の学びおよび仮説

渡航前の4回の勉強会を通じて環境問題に関する問いおよび仮説が浮かびあがった。

まずヨルダンという国は、豊かな土壌・水・緑地面積の不足が目立ち、加えて中東地域石油や天然ガスなど自然資源にも恵まれていない。水源の維持、緑化促進、砂漠化対策といった自然環境そのものを扱うマクロな環境などへのアプローチは、ヨルダンでも長期的に着手が求められている。

一方で、受入れ難民への支援や自国民及び難民双方の雇用政策といった対策とそのための財源確保が喫緊の課題となっている。

このような状況下で「環境」を考えるには、まず公衆衛生など人の暮しと密接な、身の回りの外的環境の充足へのアプローチを通じて「ミクロな環境」に対する意識を構築し、その上に「マクロな環境」意識に繋げるステップが望ましいのではないかという意見を渡航前の仮説として持つに至った。その理由は、ヨルダン政府自身の財政難などを原因として、マクロな視点での環境保護のための改革は困難であることから、ミクロな視点での人々の生活環境をより良くしていくことにどのような可能性があるのかを検討し、またそのことがマクロなレベルでの環境保護にもつながっていくと考えたためである。

すなわち、ヨルダンという国に住む人個々人のウェルビーイングを高めることが、結果として自然環境や資源を含めたその土地における社会と環境の双方にとってのレジリエンスを高め、持続的な発展のあり方に通じるプロセスになりえると考えた。

3)現地渡航における学び

JSPでは、人のウェルビーイングに係る環境事業として、(i)国連開発計画(UNDP)が実施している廃棄物処理事業と、(ii)国連人間居住計画(UN Habitat)が実施しているザルカ市の公共空間整備事業を訪問することができた。以下、それぞれに事業の概要と現地渡航で得た学びについて整理する。

i)UNDP廃棄物処理事業

概要:UNDPは早期復興(Early Recovery)の一環として1、危機中・後の地方自治体における廃棄物処理事業(municipal solid waste management in crisis and post-crisis)を行っている2。ヨルダンにおいても、シリア難民の急激な流入により、特に北部地域において、地方自治体が行うべき廃棄物管理などの基本的なサービス提供が滞っているとされる。このような状況を踏まえて、カナダ政府の支援を受けて、同事業が開始された。

UNDPが行う同事業の特徴は、廃棄物処理にかかる機材提供やインフラ設備支援、能力開発のためのトレーニングのみならず、ヨルダン人や難民、女性を雇用することによって持続的な生計支援を行うと同時に、社会的結合(social cohesion)を高め、避難を強いられた人々の再統合(reintegration)を支援することである。すなわち、単なる技術支援だけではなく、女性のエンパワーメントや、難民とホストコミュニティの間の信頼関係を高めることを目的としていた。

なお、JSPが訪問したのは、2019年9月16日であったが、その6週間後に事業は終了し、地方自治体に権限が移管されるとのことであった。

(写真)UNDP管理棟2階からの事業地外観3

現地での学び:今回の訪問では同事業で雇用されている人々にお会いすることは叶わなかったものの、UNDP職員から説明および事業地を車で回るということが可能になった。UNDP職員からの説明とその後の質疑応答で分かったことは以下のとおりである。

  • 女性の雇用:同事業に関連する分野は伝統的に女性に開かれたものではなかったため、開始直後は反対の声も多かった。しかし、徐々に取り組みを広げていったことで、女性にも安定的な職を提供できると同時に、プレス・マシーンやグラインダーなどの機械を用いた仕事に従事している女性もいる。女性の雇用という観点から見れば、この取り組みは新しいものであるとされる。
  • 難民とホストコミュニティとの関係性:同事業では、出身国で制限することはなく、ヨルダン人、シリア人、イラク人など異なる背景を持つ人々を雇用している。事業開始当初は難しい側面もあったが、現在ではお互いの文化や生活について理解するように努力したり、家族ぐるみでの交流がある人々もいるようである。30名程度を対象とした規模ではあるが、その中では、お互いの相互理解が深まっているようである。
  • 環境的な観点からの持続可能性:発生した廃棄物を堆肥に変え、それを梱包し、地域の農業や植林のために利用している。輸送費の削減およびそのインパクトを向上させる、農業や畜産が盛んなマフラック県で実施されている。事業としても無理の少ないものであり、持続可能性が期待できるものであった。

しかし、懸念点もいくつか存在する。同事業の周辺は強烈な悪臭が立ち込めていた。まだ行き届いていない部分はあるものの、水質汚染・空気汚染のモニタリングが行われていたり、また簡易診療所において健康診断などが行われているものの、この環境の中で働いていくことは、精神的・身体的に負担が大きく、健康面での不安が指摘できよう。

また、先述のように、同事業はすでにUNDPの手を離れ地方自治体に移管されていることが想定される。円滑な移管のための準備は行われているが、国連やその他国際機構が行う事業の難しさとして、(1)資金を集め続けること、(2)移管した技術の維持などが考えられよう。さらには、(3)オーナーシップを担うべき裨益者がその事業の必要性を内面化していない場合もある。今回は裨益者に会うことができなかったため、同事業がその人たちにとってどのような位置を占め、どのように感じているのかを聞くことはできなかった。同事業が今後も持続可能であるかどうかは注視する必要があろう。

ii)UN Habitatザルカ市公共空間整備事業

概要:UN Habitatは、世界各地で急速な都市化が進行する中、都市化や居住に関する様々な問題に取り組む国連機関である4。ヨルダンでは、低価格住居の提供や、政府とともに共同で策定した国家都市化政策(National Urban Policy)の実施、硬質配管敷設事業、難民キャンプにおけるWASH(水と衛生)サービスの提供などの様々な活動を行っている5

JSPが今回訪問したのは、ザルカ(Zarqa)市のアルグウェイリ(Al-Lghwerian)地区の公共空間緑化事業であった。アルグウェイリ地区は、ザルカ市の中でも最も人口密度が高く、失業率や貧困率も高い地区である。シリア危機後に人口が急増したザルカ市住民の14人に1人は難民であり、不十分な市民サービスの提供、インフラの劣化など、難民とホストコミュニティ間の緊張が高まっていた。また、ヨルダンにおける課題の一つとして緑化活動も挙げられており、世界保健機関(WHO)が定める健康指標では、一人当たり9㎡の緑が必要だとされているが、ザルカ市では一人当たり0.49㎡しか緑が存在していない。

すなわち、(1)急激な人口増加に伴うインフラの劣化、(2)同時に高まっている難民とホストコミュニティ間の緊張感、(3)ヨルダンで享受できる自然の緑の少なさなどを改善することを目的とした事業であった。なお、JSPが訪れたのは、2019年9月16日であったが、公園の基盤は10月に完成予定とのことであった。

現地での学び:UN Habitatは、ザルカ市の地方開発ユニットと協力して、同事業を行っている。その目的は、アルグウェイリ地区が所有する公共空間に、老若男女問わず憩うことのできる公園を作り、シリア人、エジプト人、イラク人、ヨルダン人など近隣に住む住民の生活の質と社会的結束を高めることであった。

これらの目的を達成するために、同事業全体で積極的かつ包括的な参加型アプローチを採用し、女性、男性、若者、高齢者、障がい者全員が意思決定に参画できるようにした。特に、3日間の参加型ワークショップを実施して、デジタル技術を利用しながら、公共空間の目的や設計に対して、若者が実際に関わっていくことを可能とする方法論を採用していた。この過程の中で、公共空間で女性や少女が暴力を受けることなく安全に楽しむことができ、女性や若者の参加および権利認識を高め、安全な公共空間を運営するためにコミュニティの能力を高めることが期待されている。

(写真)ザルカ市アルグウェイリ地区公園の建設途中の様子

公園の訪問および質疑応答で以下のことが明らかになった。

  • コミュニティのエンパワーメントについて:全員を対象としているものの、特に重視しているのは、若者、女性、高齢者である。意思決定に様々な立場の人々を巻き込むことで、「自分たちの公共空間である」という意識を高め、運営のための意識付けを行っている。また、オンライン上のツールをうまく使うことで、外出が難しい人々を巻き込むような工夫も行っている。
  • 雇用について:建設現場での雇用が中心である。ガザに同趣旨の事業が存在し、一定程度の成功をおさめている6
  • 社会的結束を高めるための方策:砂場などの子どもの遊び場や、バザーなどを開催できるイベントスペース、市民の憩いの場という3つの空間を想定している。現時点で具体的なイベントが企画されているわけではないが、出店やバザーなどを公園で行うことによって、アルグウェイリ地区に住む人々同士が知り合う機会を提供できるのではないか。

このように様々なアプローチが実施されている同事業ではあるものの、公園完成後の展望が住民任せになっていることに対する懸念は否定できないと思われる。確かに、子どもをはじめとする周辺住民は公園の完成を心待ちにしていたものの、公園をどのように利用し、またその維持をどのように行っていくのか、具体的な政策方針について質問したものの、明確な回答は得られず、住民の自発的な運営に任せるとのことであった。しかし、事後のモニタリングについては継続してUN Habitatが一定程度関与していくことが重要であると考えられる。また、雇用についても建設関連が中心となるのであれば、中長期的な雇用創出を想定したものではなく、持続性にも課題が残るものであろう。

4)現地渡航を踏まえた渡航後の考察と問いに対する検討

日本で想像される産業廃棄物処理事業や公園建設事業とは異なり、難民を雇用するなど「社会問題に対してもインパクトを与えるプロジェクト」の印象が強かった。しかし、一般的に考えられるのが事業期間後のプロジェクトの継続性である。現地NGOや地方自治体などに事業を引き渡した後の、その事業が現地政府や住民の手によって運営されていく際には困難が付きまとう。先に述べた2つの事業に関して継続性の観点で考察した。

i)UNDP

同事業が完了に近づく中、UNDP職員に事業の引き渡しと運営資金について聞いたところ、「同事業の管理については地方行政団体に委託する準備を進めているが、資金を集め続けることは課題である」との回答であった。UNDPが早期復興の一環として行なっている「危機下あるいは危機後の地方自治体における廃棄物処理事業7」では、地方自治体の能力向上、廃棄物由来製品の生産と販売に関するコミュニティおよび廃棄物収集者に対する研修、料金徴収システムの確立などが重要な過去の教訓として挙げられており、成功事例としてフィリピンおよびインドネシアの産業廃棄物処理事業が指摘されている。また、継続性の重要な要素として「リサイクル品や廃棄物由来製品の市場開拓」が検討されている。ヨルダンにおいても堆肥のパッケージングを女性が仕事として行い、近郊のマフラック県にて、その堆肥が農業や畜産業に使用されている。地方自治体と地域コミュニティのつながりを重視するとともにヨルダン国内において廃棄物処理を循環型事業の核とすることを目指していると考えられる。

ii)UN-Habitat

UN Habitatは、社会的結束などコミュニティにとってプラスになる要素を取り入れて事業を実施している。ヨルダンに直接適用できるかは検討の余地があるものの、バングラデシュやアフガニスタンなどコミュニティ主体の事業の成功例を参照し8、本事業の継続性について People’s Process、すなわち「住民主体の活動」の考えを用いて検討してみたい。まずは、地域の人々に対するトレーニング・ワークショップを行い、公園の整備・管理方法やゴミの分別方法など、自治体の運営方法および住みやすいまちづくりに必要な技術についての議論を行なう。同時に、年齢や性別、出身地などに関わらない人々から成る自治体を結成し、また幅広い住民が議論に参加することを促す。このような自主的な公園の運営過程を通して、コミュニティの人同士の繋がりが生まれることで、「共通の目標」を持って協力する機会が創出され、より包摂的なコミュニティになることが期待されている。その過程の始まりや営みの場がザルカパークで、その象徴がザルカパークであるならば、この事業が目指していたものが実現されることになると考えられる。

結論として、JSPでは環境に関係するものとして廃棄物処理事業と緑化事業を含む公共空間整備事業を訪問した。いずれも環境にかかわる事業ではあったものの、環境保護にとどまらず「人々」に焦点を当てたものであったことが印象的であった。環境保護は人々の生活と密接に関連し、廃棄物処理や公園の維持は住民が自らの手で行っていくことが求められる。確かに、能力開発を含めた事業の継続性について地域コミュニティはもちろん、施設管理を運営保守する自治体、および運営資金を拠出する団体との相互強力関係が不可欠であるが、地域コミュニティで暮らす人々は、これらの事業が継続的に運営されていく際の中枢となる。しかし、人々がその役割を果たすことを可能にするためにも、その前提として住民のウェルビーイングを追求していくことが求められよう。両事業はまさに、周辺環境と人々のウェルビーイングを両立しようとする取り組みであった。住民の手にその運営・維持が移管された両事業について、持続的な取り組みが住民のオーナーシップのもと行われていくのか、数年後にまた確認してみたい。

          

1 早期復興は、国連を中心とする人道支援メカニズムにおけるクラスター・アプローチにおいて、UNDPが担当している支援分野である。早期復興においては、人道支援から持続的な開発への橋渡しが円滑に行われるよう、Cash for Workなどの生計支援、地方政府の能力向上支援などを行っている。UNDP, https://www.undp.org/content/undp/en/home/librarypage/crisis-prevention-and-recovery/undp-in-early-recovery.html, accessed on 24 November 2019.

2 UNDP, https://www.undp.org/content/undp/en/home/librarypage/poverty-reduction/municipal-solid-waste-management-in-crisis-and-post-crisis-setti.html, accessed on 24 November 2019.

3 左の池が、ゴミから抽出した水分を蒸発させる場所(Olive mill)で、右の黒い池のようなものはOlive millの蒸発散を促進させるツールを用いた後の池の様子。そこかしこに植林されている箇所が見られる。

4 UN Habitat, https://www.fukuoka.unhabitat.org/, accessed on 24 November 2019.

5 UN Habitat Jordan, https://unhabitat.org/jordan/, accessed on 24 November 2019.

6 ガザ地区における、マインクラフト(仮想空間で公共空間などのデザインを行うことができるデジタルツール)を通した、人権の促進と公共空間設置を目的とした事業のこと。詳細は、以下のウェブページを参照。UN Habitat, https://unhabitat.org/utilizing-minecraft-as-a-tool-for-community-participation-to-design-a-public-space-in-gaza-strip-2; UN, https://www.un.org/unispal/document/un-habitat-and-un-women-held-a-closing-ceremony-of-the-joint-programme-utilizing-digital-tools-to-promote-human-rights-and-create-inclusive-public-spaces-in-the-gaza-strip/, accessed on 15 December.

7 UNDP (2016) Guidance Note: Municipal Solid Waste Management in Crisis and Post-Crisis Settings.

8 野田順康「アジアにおける参加型居住開発プロセスに関する考察 : 国連ハビタットの活動を事例研究として」『都市・建築学研究』18号(2010年)、1-10ページ。