ヨルダン・スタディ・プログラム

4.2.1.1. 難民支援の概要

4.2 各課題に対するヨルダン政府の対応・支援団体の活動
4.2.1 難民キャンプでの支援

4.2.1.1 ヨルダンが抱える難民をめぐる問題の概要

1)難民とヨルダン

難民とは、政治的な迫害、武力紛争や人権侵害から逃れるために他国に庇護を求め、逃れた人を指す。世界には 7,080 万人の難民がおり、その数は増加傾向にある1

ヨルダンは、中東地域の安定の要として重要な役割を果たしており、抱える難民のバックグラウンドも様々だ。UNRWAが管轄するパレスチナ難民は220 万人で、ヨルダンにいる登録難民全体の74.5 % を占める。

残りの難民はUNHCRが管轄しているが、その中で最も数が多いのが シリア難民で、UNHCRに登録されているだけで 66 万人, 未登録も含めれば 130 万人以上いるとされる。その他、イラク難民が 7 万人、 イエメン難民1.5 万人など、57の異なる国と地域の難民が存在している(いずれも、UNHCR 登録難民)2

2) 難民キャンプ概要

  • 地図
  • 難民キャンプの数
    • パレスチナ難民キャンプ10箇所
    • シリア難民キャンプ3箇所
  • 場所:ヨルダン北西部(8割が都市難民で北部のアンマンなどに集中している)
  • 居住地:ヨルダン国内に居住する難民のうち約17%がキャンプに住み、残りの約83%が都市部のアパートなどに住む都市難民である。
  • 主な難民支援の主体
    • 政府機関:ヨルダン政府、ヨルダン計画・国際協力省(MoPIC)
    • 国際機関:国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)3、国際連合世界食糧計画(WFP)4、国際移住機関(IOM)
    • 非政府・非営利組織、市民社会
    • ヨルダン地域社会

  ※脚注のない機関は第3章を参照のこと

難民キャンプの概要まとめ

キャンプ名 アンマン・ニュー・キャンプ5 バカア・キャンプ6 ザータリ難民キャンプ7 アズラック難民キャンプ8
対象 パレスチナ難民 パレスチナ難民 シリア難民 シリア難民
開所年 1955年 1968年 2012年 2014年
敷地面積 0.48平方キロメートル 1.4平方キロメートル 5.3平方キロメートル 14.7平方キロメートル
収容人数 57,000人(2015年時点; 以下同様) 119,000人(2015年時点; 以下同様) 76,143人(2019年時点; 以下同様) 35,850人(2019年時点; 以下同様)
各地区の設備 学校・病院 学校・病院 学校、コミュニティポリス、その他のサービス、病院 学校、病院、その他のサービス
居住難民の属性 不明 不明 ダラア出身者80%、ダマスカス郊外出身者14%、ホムス出身者2%、ダマスカス出身者2% アレッポ出身者20%、ホムス出身者.19%、ダラア出身者15%
子どもの比率 不明 不明 59%。うち5歳未満は20% 60%。うち5歳以下は22%

4)ヨルダンにおける難民問題の特徴

まず、特筆すべきはヨルダンにおける難民の数の多さと、その背景の多様さである。もともとヨルダンの国民の半数以上が、中東戦争9を逃れて移住したパレスチナ難民とその子孫であったが、2003 年のイラク戦争と2011 年のシリア内戦により、さらに多くの難民がヨルダンに流入した。ヨルダンは資源に乏しく、安定した収入源がない上、急な人口増加に伴う公共サービスの負担も大きくなっており、ヨルダン政府の財政は危機的状況である。失業率も労働者全体で 18.4% と、国として余裕がない状況で、多くの難民を長期に渡り抱えている。

また、支援体制の複雑性も特徴である。国連の中でも複数の機関が支援に携わること、その他多くのNGOが関わることは、世界中の難民問題で共通のことであるが、ヨルダンでは特に、パレスチナ難民を多く抱える点で、支援体制はより複雑になっている。上述の通り、パレスチナ難民への支援は UNRWA が中心となって行い、シリアをはじめとするその他の難民支援は UNHCR が管轄するという分掌である。

様々な団体が支援に関わることで、支援内容が重複したり、限られた資本が分散されたりと、支援が非効率的になってしまうリスクもある。これは、アズラック難民キャンプやザータリ難民キャンプにおけるヒアリングから窺い知ることができた。また、パレスチナ難民キャンプにおいては、緊急人道支援の一貫として作られる難民キャンプが長期化していること、キャンプを援助をするドナー国の政治的意図が支援に大きく影響していることも、課題として挙げられる。そして、そこには常に難民キャンプをどこまで発展させるかという課題がある。難民キャンプでは、将来的に帰国をすることを前提に支援が行われている一方、難民生活の長期化に伴い、住環境の改善も行われる。受入定住国やドナーは、これが、キャンプ生活の常態化につながるのではと懸念する。しかし、現状は帰国どころかパレスチナ難民キャンプはおおよそ半世紀に渡り運営されており、帰還の兆しは全くない。この課題はシリア難民キャンプにも伺える。難民生活が9年目に突入する中、シリア難民もいずれパレスチナ難民のように長期的に滞在することになるのではと想像出来る。その点で、パレスチナ難民キャンプはシリア難民キャンプの半世紀後の姿を表しているのかもしれないと感じた。

           

[1] UNHCR Global Trends, 2018、https://www.unhcr.org/5d08d7ee7.pdf, accessed on 11 January 2020.

[2] The Jordan Times(2019年7月28日)https://www.jordantimes.com/news/local/jordan-remains-second-largest-refugee-host-globally-%E2%80%94-unhcr, accessed on 11 January 2020.

[3] 1950年に設立された国連の難民支援機関である。パレスチナ難民以外の全ての難民を管轄し、ヨルダン国内ではシリア難民を中心に対応している。紛争や迫害により故郷を追われた難民・避難民を国際的に保護・支援し、難民問題の解決に対して働きかけている。世界約135か国で支援に従事しており、支援対象者は、約7,480万人にのぼる。下記を主要業務とし、活動する。①難民に対する「国際的保護」── 難民の諸権利(強制送還の禁止・就業・教育・居住・移動の自由など)を守り、促進する。②緊急事態における「物的援助」、その後の「自立援助」──衣食住の提供、医療・衛生活動、学校・診療所など社会基盤の整備。③難民問題の解決へ向けた国際的な活動を先導、調整する任務。

[4] 飢餓と闘う世界最大の人道機関として、食糧支援を専門に扱う国連機関である。ローマに本部を置く食糧農業機関(FAO)と国際農業開発基金(IFAD)の2つの機関と緊密に連携しながら活動を行う。今まで世界の80カ国以上の国々において食糧援助を通じた緊急事態に対応し、経済社会開発を支援に貢献してきた。

[5] UNRWA, https://www.unrwa.org/where-we-work/jordan/amman-new-camp, accessed on 21 December 2019.

[6] UNRWA, https://www.unrwa.org/where-we-work/jordan/baqaa-camp, accessed on 21 December 2019.

[7] UNHCR, https://data2.unhcr.org/en/documents/details/72612, accessed on 04 January 2020.

[8] UNHCR, https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/70789.pdf, accessed on 04 January 2020.

[9] パレスチナ問題の歴史的背景④、https://note.com/07masahiro/n/nbf812323cb43, accessed on 8  February 2020.