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第56回
コソボ紛争10周年に考える −国際紛争と日本人
中村 恭一さん
文教大学教授、同大学院国際協力学研究科教授兼任
一学生が見たコソボ: 若い世代に知ってほしいこと
岡崎 詩織さん
コロンビア大学国際公共政策大学院


第55回
国際保健と人間の安全保障
〜ヘルス・システムの強化に関するグローバル・アクション〜

武見 敬三さん
ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員、
日本国際交流センターシニアー・フェロー 
マイケル・ライシュさん
ハーバード大学公衆衛生大学院国際保健政策教授、
武見プログラム担当教授


第54回
国連の前線から日本の国内に何を伝えるのか
〜日本が国連にできること、国連が日本にできること〜

紀谷昌彦さん
(外務省総合外交政策局国連企画調整課長)
玉内みちるさん
(ユニセフ本部人事部)
松下佳世さん
(朝日新聞社 ニューヨーク特派員)


第53回
平和構築人材育成事業の新たな展望
中込 正志さん(外務省総合外交政策局国際平和協力室長)

第52回
国連と世銀の危機管理対策での
パートナーシップ:進展と課題
黒田 和秀さん 
世界銀行脆弱・紛争影響国ユニット
上級社会開発専門家
第51回
国連の限界、国連の未来
The Politics of International Solidarity
ジャン=マルク・クワコウさん 
国連大学ニューヨークオフィス
ディレクター
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HOME勉強会 > 第57回

「平和構築-復興から開発への移行」

山本 愛一郎さん
JICA米国事務所長

黒田和秀さん
世界銀行脆弱・紛争影響国家ユニット上級社会開発専門

児玉千佳子さん
UNDPジェンダーチーム・プログラム・マネジャー

司会: 田瀬和夫さん
国連人道問題調整部 人間の安全保障ユニット課長

2009年4月11日開催
於: 日本国際協力機構(JICA)米国事務所内
DC開発フォーラム/国連フォーラム共催 合同勉強会

 はじめに
■1■ 山本さん 問題提起
■2■ 児玉さん 問題提起
■3■ 黒田さん 問題提起
■4■ 意見交換、質疑応答 
 さいごに

■ はじめに

今回は初の試みとして、DC開発フォーラム及び国連フォーラム共催の勉強会がワシントンDCにある日本国際協力機構(JICA)米国事務所にて実施された。JICA米国事務所の山本愛一郎さん、世界銀行の黒田和秀さん、そして国連開発計画(UNDP)の児玉千佳子さんを講師にお招きし、「平和構築-復興から開発への移行」をテーマにお話を伺い、質疑応答では講師と参加者間での活発な意見交換が行われた。

■1■ 山本さん 問題提起


「紛争と開発」という言葉はここ10年間で言われるようになった。1998年から2003年の間に発生した世界の紛争の約7割が国内紛争であり、紛争の形態が軍人同士の戦いから市民が犠牲となる形に変わってきている。しかし、このような紛争をどのように解決していくか、はっきりした方法論が確立していない(公理なし)。東ティモールやアフガニスタンなどの経験から学び新しい紛争にどう立ち向かって行くか検討している段階である(帰納法的)。また、皆が手を取り一緒に解決していかなければならないチャレンジングな問題でもある(挑戦)。

「紛争」と「開発」の関係について

私がJICAに入社した1979年当時は東西冷戦中であり、核戦争の恐れはあったが、全体として世界が平和を享受していたと言える。従って、貧しい国をどう助けるかを純粋に考えていくのがいわゆる開発であった。ところが冷戦後、民族、社会、経済に関連した紛争が増加し、徐々に紛争が開発に近づいてきたといえる。例えば、1980年代以前のJICAの主な仕事はインフラの整備や行政機構の訓練など大きな枠組みでのプロジェクトが主であり、住民や社会、コミュニティーなどについてはほとんど考えることがなかった。しかし、ここ10年間は純粋に「開発」だけを考えるのではなく、住民や社会、軍事など様々な分野の視点を入れていく事が重要になってきた。

「開発」と「紛争と開発」の違いについて

JICAが紛争と開発に取り組むようになった直接のきっかけは2000年に発生した東ティモール紛争である。それ以前は紛争という概念がJICAにはほとんどなかった。平和構築が謳われ始めた1996年くらいからJICA内で私を含む4-5人程のメンバーで勉強会が発足され議論を重ね始めた。そして、日本政府の東ティモール支援が決まったことをきっかけに勉強会が組織となり、それ以降アフガニスタン、イラクと活動を重ねてきている。

紛争と開発に関わってきた中から感じた課題を3点挙げたいと思う。

1.カウンターパートの欠如

JICAが技術協力をする際は必ず相手国にカウンターパートをたてて行っているが、紛争地で活動する際は国家機能自体が破壊されており、そのカウンターパートがいないという問題がある。例えば、東ティモールでは政府関係者がほぼインドネシア人で占められていたため、2000年に国連が介入した時には、残っているのは運転手やメッセンジャーのみという状態であった。何かを伝えたくても相手がいないという状況の中で、時間をかけて現地の人を訓練し、二度と紛争が起こさないようなガバナンスを確立していくことは非常に難しい。現場で働く援助関係者が悩むところである。かといって、仕方がないから自分達で解決してしまおうという自己完結型の援助では、撤退した後の持続性がない。これらは、紛争と開発における大きな命題の一つである。

2.住民の期待値が高い

2003年、JICA職員第1号としてヨルダンのアンマンから陸路でイラクに入った。ヨルダンの貧困地帯を通過し、国境を越えイラクに入ると、石油の享受を受けインフラの整備された近代的な国家を目の当たりにした。もちろん、爆弾で穴が空いていたりもしたが、同時に「こんな国に援助するんだ」と思った事も事実である。バクダッドでは、米軍による復興が遅れていたため、紛争前に高水準な生活を維持していた住民の不満はピークに達していた。紛争後の開発においては、住民は元々のレベルもしくはそれ以上のレベルへの復興を援助機関に期待しており、半年経っても目に見える形で生活が良くならないと、自国政府でなく援助機関に批判が集まる。他方、純粋な開発援助の場合は、元々住民の期待度があまり高くない。

3.セキュリティコストが高い

自分たちの身を守るために、援助機関は民間の警備会社を雇い、防弾チョッキを購入するなどのコストを負担している。軍隊に頼むと逆にターゲットにされるなどのリスクがあるからである。イラクでは1ドルの援助に対して5ドルのセキュリティコストがかかると言われており、実際の人道援助とのコストバランスが疑問視されている。イギリスやアメリカでも海外援助におけるセキュリティコストの割合に対して批判が高まっている。紛争と開発に取り組む際のセキュリティは誰のものなのかを問題として提起したい。

■2■ 児玉さん 問題提起

まずは、”普通の”途上国と脆弱国の違いという視点で、脆弱国の特徴について3点述べたい。

1.治安があるかないか 脆弱国では個人の権利を守る手段を国が提供できていない。また、侵害された時の救済手段がない。今までが法の支配(rule of law)でなく、力の支配(rule of power)であったため、紛争後においても、対立が発生した際に暴力以外の方法で解決していくという考え方や文化がない。これらを変えていくのは非常に難しく時間がかかる。

2.パワーバランス 複数のアクター間のパワーバランスが安定せず緊張感がある。 中央政府、軍閥、宗教指導者、NGOなどあらゆる場面で複数のアクターが活動しているのに加え、政府の正当性の源がはっきりしないことが多い。

3.政府のキャパシティがない “普通の”途上国にもキャパシティがないことが問題となるが、脆弱国では個人の能力だけでなく組織や制度などの枠組みがない。

こうした脆弱国の特徴国家建設の際にチャレンジとあいまって、これから述べる大きなジレンマも生み出すと考える。

平和構築の鍵となる紛争後の国家建設(state-building)においては、権威をどうやって政府に集中させるか、国民の政府に対する信用や正当性をどのように確保していくか、国民の声に応える事の出来る政府機能をどうやって回復させるか、個人をどうやって保護していくか、など様々なジレンマがある。全ての紛争に当てはまるというわけではないが、これらジレンマへの効果的なアプローチや更なる課題について、パレスチナやアフガニスタンでの自身の経験から述べたいと思う。

1.中央集権と地方分権

通常ガバナンスにおいては地方分権が推進される。しかし、初期のアフガニスタンでは、新政府にキャパシティがなく地方の有力軍閥との間で緊張関係があったため、まずは中央集権を押し進めないといけないという気運が強かった。従って、国際社会は中央政府に権力(authority)を取り戻すような支援(選挙の実施、憲法制定、中央政府のキャパシティ強化など)を行った。軍閥解体や治安強化などもstatebuildingの一環として推進された。しかし、首都カブールでの状況は改善されたものの、地方においては改善が見られなかったため、地方政府のキャパシティ強化も並行して行われるような双方向のアプローチがとられるようになった。

2.市民社会の形成と国家への信用醸成

国家への信用をどのように回復させるかは紛争後の国家建設において重要である。例えば、アフガニスタンやパレスチナのように政府が公共サービスを提供できていない場所では、NGOが国家の代わりにサービスを提供するという状況が生まれる。そのため、国民は国からではなくNGOからサービスを受けていると感じるような状況になり国家への信用醸成につながらない。そこで、アフガニスタン政府は復興支援をできるだけ政府経由で進めるようドナーに強く働きかけていた。たとえば、地域開発プログラムではいったんアフガニスタン政府に対して支援し、農村復興開発省が地方レベルでのプロジェクトを進めていくというアプローチがとられるようになった。紛争後の国ではNGOがサービスプロバイダーとなる事によって、NGO支援がサービス提供の手段の一環となり、NGO本来の役割(市民社会形成、アドボカシー等)のためのNGOの能力形成の機会が失われる事も懸念の一つであった。

3.国家機関強化とインフォーマルな機関の強化

通常、国家建設においては、国家機関の強化に関心が集まる。パレスチナでも、治安・司法分野における国家機関、例えば司法省、警察、裁判所、刑務所などへのキャパシティ強化の支援が進められた。しかしそうした国家機関が実際に治安・司法サービスを提供できるようになるまでには時間がかかるため一般市民はインフォーマルな機関による紛争解決に頼る状態が続く。また国家機関が提供する治安・司法サービスに対する一般市民の認識、信用を変えるのには時間がかかる。そのような中、インフォーマルな機関は、必ずしも人権や男女平等に関する国際基準に則って行動しているわけではない。そのため、移行期においては、国家機関とインフォーマルな機関を並行して支援していくアプローチが必要である。ただし、インフォーマルな機関の支援は国家建設を阻むもの(undermine)ととらえられる危険性があるので注意が必要。

4.国際的規範と現地における伝統的な規範と価値観

国際社会が支援する国家建設においては、国際的規範と伝統的規範がぶつかる場合がある。国際的規範の押しつけとの見方もあるが、変化を促すチャンス(Window of Opportunity)と捉える事も出来る。例えば、アフガニスタンにおける復興支援の一つに、コミュニティ支援を実施する際コミュニティ開発委員会を立ち上げそこでコミュニティ開発計画、案件の優先順位付け、実施を行うものがあった。その際、コミュニティ開発委員会のメンバーを投票によって選び、女性の参加を確保したり、もしくは男女別々にコミュニティ開発委員会を立ち上げ女性の意見も反映されるような配慮がなされた。憲法策定の際も、女性議員を増やす、女性の投票率をあげるなどジェンダーへの配慮がなされ、大きな変化をもたらした。ただし、反発への対応にも気をつけないといけない。

最後に、本来は紛争予防の一環として国家建設が行われるが、これらのジレンマをきちんと把握した上で支援を実施していかないと逆に紛争を招いてしまう場合がある事を伝えたい。そのような事態を防ぐために、紛争予防の視点を主流化していく必要がある。例えば、多くの人がパレスチナは紛争下にあり平和構築支援プログラムに取り組んでいると考える。しかし、紛争下(もしくは紛争後)の地域・国における支援が必ずしも紛争予防の視点を主流化しているとは限らない。ここで、In-crisis, On-crisis, Around-crisisの概念を使って説明したい。先ほども述べたように、パレスチナにおける支援は危機化における(In-crisis)支援であったとしても紛争の原因、歴史、アクター、紛争の引き金などを分析した上(On-crisis)での支援、紛争を予防するための支援とは限らなかった。そうした分析を踏まえた上で紛争を予防するためには紛争の原因に直接対処するのではない方法(Around-crisis)が有るということも重要である。 

また、紛争予防における対話の重要性も強調したい。パレスチナやアフガニスタンでも対話を通じた平和構築支援プログラムがいくつかあった。例えば、パレスチナにおいては選挙法をいかに改正するかをテーマに、すべての政党間の対話や政府と市民の間の対話と促進するプログラムがあった。この場合テーマは選挙法であるが、こうした対話の試みがさらなる紛争予防につながると考え計画・実施されていた。

■3■ 黒田さん 問題提起


2008年5月の安全保障理事会で、平和構築に関して国連事務総長より1年後に報告書の提出を要請する、との決定があった。提出期限が迫る中、現在に至るまで世銀、国連内で議論を重ねているがなかなか纏まらない状況である(2009年4月11日現在)。特に、平和構築において下記の3つのギャップを平和構築の報告書でどのように明確にしていくか、国連、世銀のトップレベルで話し合いが行われている。

平和構築とは:交通事故を起こして病院に運ばれた重体患者(脆弱国家)を取り囲む複数の医者(援助機関)がどのように手当てしていくかを考えること

1)平和構築の戦略がはっきりしていない

平和構築を行う上では、世銀や国連などの援助機関と援助国の意見を一致させなければならないが、はっきりした解決方法がないため、一貫した戦略が欠如している。一国に国際社会が介入した場合はしっかりとした戦略を持つ事が重要。様々な利害関係者が存在する中で、一つの戦略を作っていくのは非常に難しいが、何らかの形で整理しないと受け入れ側も対応しようがない。

2)受け入れ国のキャパシティが低い

キャパシティビルディング、ナショナルオーナーシップと言われているが、紛争後の復興開発を行う場合、脆弱国家側に主導権を渡すのは難しい。特に、暫定政権の場合はどの程度主導権を与える事ができるのか、主導権を渡しても受け入れ国側が発揮できるのかどうかが問題となる。また、世銀と国連の見解が少しずれているという実態がある。世銀は国連と比べると長期的な視点を重視するように思われる。一方、国連の場合は緊急に迅速に結果を出さなければいけないため、ノウハウを持たない場合はNGOなどに委託しどんどん事を進めていく。世銀内ではこの様な省庁外でのパラレルシステムに依存しかねないと懸念している。

3)資金調達

早期に資金を用意する事が重要であるが、資金を調達するプロセスに時間がかかりすぎるという批判が出ている。資金の額と調達のスピードが一つの課題である。 

この3つのギャップを埋める事によって、次の紛争が起きた場合、もう少し迅速かつ効果的に国際社会が援助できるのではないかと思う。

■4■ 意見交換、質疑応答

質疑応答へ 

■ さいごに


3名の講師の方より多角的な視点から平和構築におけるジレンマや課題などについて問題提起をして頂いた。今回伺ったお話、また質疑応答での活発な議論が今後の皆様のご活躍のお役に立てればと思う。

議事録担当:成松
ウェブ掲載:渡辺



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