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HOME私の提言> 第17回

共通の目的を持つならば, 受入国政府の能力強化計画を
一緒にテーブルについて考えてみよう


 

世界食料計画(WFP)ラオス事務所
学校給食 企画担当官 田島 麻衣子さん


略歴

オックスフォード大学院修士課程終了(MSc in Forced Migration)。新日本監査法人KPMG東京事務所、NGO法人JEN等を経て、2006年よりWFP勤務。現在はWFPラオス人民共和国事務所においてプロジェクトマネージャーとして、11万人余の子供たちに学校給食を届けるべく、20人ほどのWFP多国籍スタッフと共にプログラムを切り盛りする。またWFPラオス事務所全体のプログラムに対する包括的なモニタリング評価システムの計画立案始動にも携わる。    


1.背景
2.ラオス人民共和国教育省への 能力向上支援
3.問題点

4.問題分析
5.提言


1.背景

10月29日、ラオス国教育省政府関係者150人を招いて行われたワークショップを無事終えて、首都ビエンチャンに戻って来たところである。ワークショップの目的は、プロジェクトの持続可能性を目的とした、教育省スタッフの能力強化。今回は、ワークショップのコンセプトの設定からプログラムの構成に至るまで関わり、その中でいろいろと反省し、また考えたことも多い。 


能力強化、または能力の向上−すなわち、持続可能な方法で独自の目標を設定し、問題を解決し、また目標を達成していくために必要な学びの過程−この概念が持続可能な発展実現への展望と共に、熱を持って語られるようになって既に久しい。こちらからの押し付けではなく、相手の必要性に応じて尊重されるべき学びの過程。残念ながらこの先何百年も現場に存在し続けることは出来ないであろう援助機関にとっては、受入国自身の能力強化は重要課題だ。 


周りを見渡せば、1995年国連総会決議(Res.50/120 para.22)に始まり、2005年援助効率化に関するパリ宣言(para.22)に至るまで、数々の宣言や決議が能力開発支援に関わる活動を援助機関の重要項目として位置付けている。また近年の国連改革議論の中では、こうした活動が個々独立してではなく、援助機関の協調関係のもと行われることを提言している(2005年パリ宣言、2006年UNDGポジション宣言、国連ハイレベルパネルレポート等)。

 

2.ラオス人民共和国教育省への能力向上支援

援助の効率化を謳うパリ宣言に引き続き、ラオスでもビエンチャン宣言が2007年に採択され、援助の無駄を如何に省き、プロジェクト単位ではなく分野ごとの包括的なサービスを受入国に提供していくことに対する援助機関の士気は高い。 

私が所属する教育分野におけるワーキンググループでも、援助機関の支援を受けて、教育省が2009年から2015年に至るまでの長期的な重点戦略項目を現在立案している。教育省の自主性を最大限尊重して作成されつつあるこの重点項目は、援助側また受入国にとっても限りなく大きな成果だ。この立案のために各援助機関と受入国政府間に立って数々の調整に関わったスタッフの功績は計り知れず、敬意を表したいと思う。 




筆者作成:教育小学校給食プロジェクトアニュアルワークショップ:2008年10月27日―29日)



3.問題点

それが重点項目である以上、一度立案された計画は実行に移されていかなければならないのは明らかだ。しかしながら、この計画を実行していくための能力を如何に誰が培っていくかに関する具体的な議論は、少なくとも私の所属する分野においては、援助機関内において十分に熟したとは言い切れない。

 
それぞれのプロジェクトの運営を徐々に受入国に移転していくために必要となる能力は、通常が似通っておりプロジェクトごとに大差があるわけではない。具体的には、計画立案や予算を編成する能力、物品調達や総務を効率的に運営する能力、人事制度を効率的に運営する能力、モニタリング評価を実施しレポートを作成する能力などが挙げられる。しかし、現在の能力向上の一環として行われている活動は、物品の提供また個人に対するトレーニングが主流で、これらの活動は個々のプロジェクト運営の観点から必要最低限のものが、プロジェクトの必要性に応じて暫時的に提供されるのが現状だ。これらが教育という分野において、長期的視点に基づき必要性を吟味した上、包括的に立案され、計画的に実行されるまでには至っていない。受入国側の中央政府・県・市町村の各レベルに対して、出来うる範囲で援助機関がそれぞれの強みによって立ち、能力向上に対する支援を教育省に包括的に行っていくことは、長期的視点に立てばこの貧困の鎖を断ち切る近道にはなりえないだろうか。数々の決議や宣言が論じる援助効率化の観点から見ても大きく外れているようには思われない。しかし、そこへ至るまでの道のりは長い。 


現在ラオスの教育省では、世界銀行が主導で、中央国家・県・市町村における能力調査を実施し、重点分野に対する立案を行っている。しかし受入国政府の認証の問題もあり、これが日の目をみるまでには、まだほんのしばらくの時間がかかりそうだ。 



4.問題分析

分野ごとにおける包括的な能力向上支援計画が作成され実行されるに至っていない原因の一つとしては、能力強化という概念が受入国にとって、政治的に微妙な問題と映ることが挙げられる。支援機関から派遣されたコンサルタントが政府内に入り、能力評価を通じて支援が必要な分野を洗い出していく作業は、裏を返せば、如何に受入国政府が能力に欠けているかを公にすることと同意義に陥りやすい。ゆえに、総論として支援が必要であることに対しては異論はなくとも、個々の分野において具体的な計画を立案していく作業に難色を示す政府高官は、教育・医療・環境等の分野にかかわらず、少なくないと聞く。 


第二に、援助機関同士の調整が困難である点が挙げられる。何を共同で達成すべきであるかを議論することは、どの機関がどのようにこれらの目標を具体的に達成していくのかに関する議論に比べれば、遥かに容易だ。また、介入に関するモニタリング評価が必要となれば、指揮命令系統や基幹の財務人事システムまた重要戦略項目が異なる機関同士が歩調を合わせ現場で共に支援を行っていくことは、理論を机上で唱えることほど容易ではない。

 
第三に、能力向上支援に関する経験の深いスタッフが少ないことが挙げられる。特別な知識と経験を持った彼らは、援助機関と短期の雇用契約を結び仕事を請け負うことが多く、計画を立案し文書を書き上げた後は次の仕事場へ移る。戦略文書だけは存在するが、それがその後どうなったのか、誰がそれを実行するのかわからず、政府関係者と共にうーんと首をひねる、ということを私は全く経験したことがないわけではない。


第四に、資金の不足が挙げられる。井戸の提供、学校給食の配布、教科書の配布、教員に対する教育法のトレーニング等、それぞれのプロジェクトの目的に直接関係する活動に対する資金を提供するドナーはいても、このプロジェクトの持続可能性に注目し能力強化に対する支援活動に特別な資金を提供しようというドナーは多くはないのではないか。これの活動は、短期間で効果が見えにくいこともあり、現在の目に見える結果を重視したプロジェクト運営の流れの中では、周りの賛同を得にくいことも一因だ


5.提言

i.  短期的視点

現在運営されている分野ごとのワーキンググループは、それ自体非常に有用なものと思う。これにより、同じ最終的な目的を持つ援助機関が同士が集まり、課題について議論することが出来る。これをもう少し、機能的なフォーラムにしようということは、筆者の欲張りであろうか。折角の機会を、抽象論を交わす時間にしてしまっては勿体無いと思う。その時その時で、議題をしっかりと定め、問題提起を行い議論する。その中で受入国政府に対する能力向上のための包括的な支援計画を積極的に議論していくというのは、どうだろう。 


加えて、能力向上のための努力は、個人に対するトレーニングや機材の提供のみに終始するわけではない。また、それは押し付けではなく、相手側の必要性に応じて彼らの参加の下、提案されていくものでもあるだろう。また、手段はトレーニングやワークショップに限らず、プロジェクトスタッフを派遣しOJTを行うことやガイドラインの作成、積極的な情報提供や政府スタッフのスタディーツアーなど、多くある。企画を運営する側としては、行動の提案については順応性高く対応したいと思う。 

 

ii.  中・長期的視点

分析の点でも触れたが、政府関係者の理解は支援計画の実施に当たっては必須だ。能力向上のための努力は、能力に欠けることを公表する手段などではなく、現在、既に存在する受入国政府の能力を更に伸ばしてゆくものであることを説明し、彼らの信頼を勝ち得てゆく作業は怠ってはならないと思う。努力は、何もない場所に能力を無理やり外部から移植するのではなく、元々存在する芽、すなわち元からある可能性を更に伸ばし育んでゆくものだ。この仕事も結局は、人と人の付き合いである。途上国や援助側といった立場の違いや枠に捉われず、相手にプライドを傷つけることなく、誠実さとそして向こうの懐に飛び込んでしまう位の思い切りの良さや勇気が、私達にあって良いと思う。 


また能力強化は、現在教育水準の向上を目的する全ての援助機関に関係するにも関わらず、ラオスでは、立案はほんの数名により独立して行われているのみだ。これが、最終的な目的を同じにする援助機関共通の意思であることを共同歩調で政府に伝えていくことも、明日に前進するための力となると思う。強化されるべき能力の分野を洗い出してゆくためのアセスメントフォーマットを援助機関内で統一していくことも、共同歩調の鍵となるだろう。 


能力強化の分野における経験値の高いスタッフの不足または回転率の高さに対しては、このフォーラムの他の方の提言でも同様に指摘されていたが、能力強化の分野でも例外ではない。この過程が非常に長期の努力を要する以上、活動を通じて得られた知識や思考の過程を文書化し、一機関内のみならず各援助機関内でフォーラム等を通じて積極的に共有化していくことは大切であると思う。 


またドナーの賛同も重要だ。計画の実行に関しては資金が必要である限り、彼らの理解と支援は不可欠ではないか。WFPでは現在、従来の食料配給といった手段を選ばず、能力強化自体を目的としたプロジェクトが試験的に3本運営されている。今後も、ドナーの賛同の下、こうした試みが増えていくといいと思う。 

 


参考文献一覧
Lao Ministry of Education (2008), Draft Education Sector Development Framework 2009-2015, Lao PDR, unpublished
OECD (2006), The Challenge of Capacity Development “Working towards Good Practice”
Paris Declaration on Aid Effectiveness, 2005
UNDG (2006), Enhancing the UN’s Contribution to National Capacity Development: A UNDG Position Statement
UNDG (2006), Position Statement: Enhancing the UN`s contribution to National Capacity Development
UNDG (2006), Capacity Assessment Methodology User Guide
Vientiane Declaration on Aid Effectiveness, 2007
WFP (2008), Update on Capacity-Building: Strategic Objective 5 ‘: UN doc. WFP/EB.A/2007/6-H/1
WFP (2008), Summary Report of the Evaluation of WFP`s Capacity Development Policy and Operations: UN doc. WFP/EB.A/2008/7
WFP, WFP Programme Guidance Manual (accessed on 15 September 2008)
World Bank (2008), Capacity Development Framework Workshop Report, Lao PDR, unpublished
World Bank (2008), Capacity Development towards Aid Effectiveness Briefing Note, Lao PDR, unpublished



 

2008年12月14日掲載
担当:中村、菅野、宮口、藤澤、迫田、奥村、荻、高橋

 



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