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第61回
人間の安全保障とユース〜Take Action for One Step〜
長谷川祐弘さん
法政大学法学部国際政治学科教授
田瀬和夫さん
国連事務局OCHA人間の安全保障ユニット
原ゆかりさん
外務省総合外交政策局国連政策課外務事務官


第60回
人間の安全保障について
佐藤安信さん
東京大学教授 大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム
大菅岳史さん
国際連合日本政府代表部公使


第59回
女性差別撤廃条約の30年 ― 成果と課題
林 陽子さん
弁護士、女性差別撤廃委員会委員

第58回
平和構築分野におけるキャリア形成
篠田 英朗さん
広島平和構築人材育成センター事務局長
(広島大学平和科学研究センター准教授)
長瀬 慎治さん
国連ボランティア計画(UNV)
東京駐在事務所 駐在調整官
第57回
平和構築-復興から開発への移行
山本 愛一郎さん
JICA米国事務所長
黒田 和秀さん
世界銀行脆弱・紛争影響国家ユニット
上級社会開発専門
児玉 千佳子さん
UNDPジェンダーチーム・プログラム・マネジャー
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HOME勉強会 > 第62回

「国際刑事司法の動向と新しい流れ」

藤原広人さん
国連旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)検察局犯罪分析官

2010年1月19日開催

於: ニューヨーク国連日本政府代表部会議室
国連日本政府代表部/国連フォーラム共催 合同勉強会



■1■ はじめに
■2■ 国際刑事司法のこれまでの動向
1) 歴史
2) ICTYの実際
■3■ 国際刑事司法のコンテキストと論点
1) 社会的コンテキスト
2) 国際刑事裁判論の論点
■4■ 国際刑事司法の新しい流れ:修復正義と被害者信託基金
1) 修復正義 (ないし修復的司法、Restorative Justice)
2) 被害者信託基金 (Trust Fund for Victims)

 質疑応答 

 

■1■ はじめに

 本日の勉強会では、主に以下の3つの目的を持って、国際刑事司法についてお話ししたい。
1.「国際刑事司法」を身近に感じること
 国際刑事司法の中心的組織の一つである、国際刑事裁判所(International Criminal Court)の略称ICCをGoogleで検索すると、International Cricket ClubやInternational Chamber of Commerceが先に出てきてくる。このことからも、国際刑事裁判所、また国際刑事司法そのものもあまり知名度が高いとは言えない。
 一方で国際刑事司法の現場に身を置くものとして、国際刑事司法は「絵に描いた餅」でなく、現実に動いており様々なドラマを持つものである。実例のいくつかをを紹介することで、身近に感じてほしい。
2.国際刑事司法独自の性格
 「刑事司法」という言葉で通常想起される「国内司法」と、国際刑事司法も含む「国際司法」とは、かなり性格が異なる。特にその差について理解してほしい。
3.新しい流れ=被害者信託基金
 国際刑事司法が適用されるのは主として紛争後の社会。したがって、国際刑事司法が独立して動いて上手くいくわけではなく、平和構築や開発といった分野と結び付けて位置づけられる必要がある。



■2■ 国際刑事司法のこれまでの動向

1) 国際刑事法廷の系譜
イ.WWII後の戦勝国による国際法廷(Victor’s Justice)
 はじまりは、WWII後の戦勝国によるニュルンベルグ裁判(1945)、東京裁判(1946)であった。
ロ.国連安保理決議に基づく国際法廷(1993、1994年)
 WWII後遅々として発展はしなかったが、冷戦後、安保理決議が出るようになったこともあって、特定地域に関する管轄権を持つ国際法廷が設立された(旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)、ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR))。
 実際に設立された当初は、関係者ですらどのように動かしていけばいいか(成否如何についても)未知数で、全てが手さぐり状態であったようである。95年に講師(藤原さん)がICTYに入った時も、まだほとんど予算がついておらず、オランダの保険会社の建物の数部屋を借りて作業している状態であった。
ハ.国際条約に基づく常設の国際法廷
 2002年、締約国に関しては時間的・地域的管轄に制限のない、常設の国際刑事裁判所
(ICC)が設立された。
二.国際・国内混合型法廷
 一方で、 国際裁判に特化することの問題点が顕在化してきた。例えば、ICTYでも裁判の審理対象となっている地域(バルカン半島)と法廷所在地(ハーグ)が遠いため、フィードバックがうまくいかなかったり、捜査にお金が非常にかかっている。
 そのため、国際・国内司法の双方の要素を含めた混合型法廷が、当該事件が起きた現地に設立され、運用されている。
ホ.特定事件型法廷
 ハリリ・レバノン元首相の暗殺事件のみを事項的管轄として持つ国際法廷が2009年開廷した。後述するが、この法廷の出現は「国際社会の安全に対する脅威」が、誰によって、またいかなる基準において決定されているか、ということの裏返しと言えよう。

2) ICTYの実際
 当初は保険会社ビルの一部のみで稼働していたICTYも、現在ではビル全てを借り切り、3つある法廷もフル稼働で作業している。オランダの刑務所の一部使わせてもらうことで、ICTYで審理中の未決囚の拘置所も保持している。ハーグの中心部からさほど遠くない場所にあるこの刑務所は、ヨーロッパ人が見ると典型的な「監獄」のスタイル(特に外観)をしているとのこと。
 職員は全部で1,050名(89カ国、2010年)。そのうち邦人職員は4名。
 講師が所属していた検察局(Office of the Prosecutor)捜査部門(Investigations Division、現在は訴追部門Prosecution Division に統合)では、以下の4つの種類の人々が働いており、大半がそれぞれの国の警察官出身で占められている。

 その他、オランダの伝統からか、証言台にコップとティッシュが常備されている。
 また、裁判の様子は法廷内に設置されたカメラで、ほぼ逐一一般公開されるが、30分の編集時間がとられている。これは、情報秘匿すべき内容等が公開されないようにするための時間である。



■3■ 国際刑事司法のコンテキストと論点

1) 社会的コンテキスト
 国際刑事司法が直面する社会的コンテキストは以下の4点が挙げられる。
イ.紛争後の移行期社会(Transitional Society): 
 司法機関を含む国内の公的機関に対する、市民の信頼の欠如。
ロ.歴史的な分断期:
 終戦直後の日本同様、「歴史」の作り直しを迫られている。
ハ.社会的正義に関する、一般に共有された認識の不足・欠如:
 紛争時には社会が混乱し、社会の中で敵・味方分かれて対立し、殺戮が行われるのが通常。平時には可罰的違法性が当然視されている、殺人等の犯罪行為に対する社会規範が揺らぐ。人々が受け入れることのできる社会的正義を、再構築する必要がある。
二.加害者・被害者の混在
 誰を被害者と認定し、誰を加害者として訴追するかという決定が非常に難しい。

2) 国際刑事裁判論の論点
イ.「保護する責任(R2P)」と「グローバルな社会統制」
 国際刑事裁判は、国家が自国民を保護することができない(あるいは保護する意思が欠如している)局面で、一定の要件が満たされれば、場所・事案を問わず国際刑事裁判の対象となりうるという「保護する責任」に由来する普遍主義的な側面(ICCが代表例)と、超大国やそれらにより代表される安保理などによる政治的選好や恣意性によって動かされる「グローバルな社会統制」というリアルポリティックス的側面がある。後者の例としては、前述したとおり、レバノン前首相の暗殺という特定の事件が安保理決議により国際刑事裁判の対象となる一方で、イスラエル軍によるガザ攻撃など国際人道法違反とされる行為が(最近のゴールドストン報告などにもかかわらず)一向に対象とならない、という点にも端的にみられる。
ロ.「法の支配」の国際的な平面と国内的平面の非連続性
 国際刑事裁判制度の発展により国際的な平面における「法の支配」は進展する一方、国際裁判において訴追対象となるのは一部の指導者層のみであり、中・下級の加害者を訴追すべき国内裁判は動かない。また、ほとんどの被害者の救済は手つかずであり、このため、国内的平面における「法の支配」はあまり進んでいないというのが実情である。
ハ.「矯正(または応報)正義(Retributive Justice)」と「修復正義(Restorative Justice)」
 これまで国際刑事裁判は、加害者の処罰に焦点をおく「矯正正義(Retributive Justice)」が中心であった。しかし、加害者だけに注目した裁判は片手落ちではないか、という批判が生まれてきている。

 

■4■ 国際刑事司法の新しい流れ:修復正義と被害者信託基金
1) 修復正義 (ないし修復的司法、Restorative Justice)
イ.内容

ロ.現行制度における修復司法的制度

2) 被害者信託基金 (The Trust Fund for Victims: TFV)
(http://www.icc-cpi.int/Menus/ICC/Structure+of+the+Court/Victims/Trust+Fund+for+Victims/) 
イ.法的基礎
 国際刑事裁判所の新しい制度である被害者信託基金(TFV)は、前述のReparationsを具現化したものであり、ローマ規定(国際刑事裁判所ローマ規定)に法的基礎を持つ。

ロ.思想的背景

ハ.未決の法律事項

二. 今後の課題

■ 質疑応答

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議事録担当:錦織
ウェブ掲載:岩崎



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