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「"Change the World" 〜国連職員の横顔・JPO応募直前企画〜」
講師:ナブ鈴木裕子氏(国連開発計画)/岡橋麻美氏(国連開発計画)
服部浩幸氏(国連児童基金)/大久保智夫氏(国連児童基金)
相良祥之氏(国連事務局政務局)/河本和美氏(国連総会会議管理局)
吉田耕平氏(国連事務局内部監査局)/水野光明氏*(国連開発計画)
*ファシリテーター

第100回
「国連と日本外交」
講師:外務省 杉山晋輔 外務審議官(※当時)
コーディネーター:国連フォーラム 
田瀬和夫 共同代表
出席者:国連代表部 南博大使 ほか約60名
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「世界の開発援助の潮流と国連開発システムを考える」
スピーカー:二瓶直樹氏(国際協力機構、前国連開発計画)
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スピーカー:牛嶋浩美氏(絵本作家・イラストレーター)
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「アフリカ経済の転換と産業政策 ーエチオピアにおけるJICAの政策対話とカイゼンから考える」
スピーカー:島田剛氏(静岡県立大学准教授)
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「人間の安全保障の実践とMY DREAMプロジェクト」
スピーカー:原 ゆかり氏(MY DREAM.org 代表)
第95回
「国連グローバル・コンパクトの仕組みと参画企業・団体の事例 」
スピーカー:季村奈緒子氏 (国連グローバルコンパクト/アジア・オセアニア担当リレーションシップマネジャー)
小林涼氏 (同アジア・オセアニア担当ローカルネットワークマネジャー)
三浦聡氏 (名古屋大学教授、PRME事務局の元研究員)
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HOME勉強会 > 第104回

「MDGsからSDGsへ:持続可能な開発に託された未来とは?」

第104回 国連フォーラム勉強会
日時:2016年11月29日(火)19時00分〜20時30分
場所:コロンビア大学ティーチャーズカレッジ図書館3階 ラッセルホール306
スピーカー:田頭麻樹子氏 (国連事務局経済社会局 社会政策開発部)


■1■ はじめに
■2■ SDGsがでてきた背景とは?
■3■ MDGsとSDGsの違いは?
■4■ SDGsについて
■5■ SDGsはこれからどうなるか?
■6■ 質疑応答
■7■ さらに深く知りたい方へ

講師経歴:田頭麻樹子(たがしら まきこ)氏。
兵庫県生まれ。関西学院文学部卒。米国インディアナ州立大学大学院修士。JPOに合格、UNVに赴任。1990年よりニューヨーク国連本部開発援助管理局、1998年から2004年まで、国連経済社会局の女性の地位向上部、2004年10月から2010年まで、社会政策開発部勤務。2011年から2012年まで経済社会理事会(ECOSOC) 支援部門にて、経済社会理事会、及び、国連総会第二委員会(経済、財政問題)への支援を担当、2013年より現職。

■1■ はじめに

本勉強会は、ニューヨーク国連事務局経済社会局の田頭麻樹子(たがしら まきこ)さんを登壇者に迎え、「MDGsからSDGsへ:持続可能な開発目標に託された未来とは?」と題して開催されました。

「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継として 、2015年に採択された、2030アジェンダと、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」の全貌について、MDGsからSDGsまでの作成の経緯、採択までの流れ、そして今後の目標達成に向けての取り組みについて、(1)過去、(2)現在、(3)未来の3つの視点に立って、分かりやすく解説していただきました。質疑応答では、「SDGsの実際の拘束力は?」、「実効性の追跡はどのように行われるのか?」といったSDGsの実効に関して参加者から質問が挙がり、多岐に渡る視点からSDGsについて議論が交わされました。

以下の議事録の内容については、所属組織の公式見解ではなく、発表者の個人的な見解である旨、ご了承ください。

■2■ SDGsがでてきた背景とは?

SDGsは17の目標から構成されているが、一般的にはわかりにくいかもしれない。先ずは、その由来と重要性について紹介したい。MDGsが実施されていた過去15年間は、国連組織は、縦割りで各組織内で専門性が保たれ、平和維持、開発といったような課題毎に、各組織に分かれて取り組んでいた。他方、近年、分野横断的に取り組む必要のある複雑な課題が増えてきた。例えば、移民、都市人口の増加、テロ、気候変動、水、土壌劣化、干ばつ、自然災害、紛争、エネルギー、雇用問題(自動化、若者失業の増加、不安定な雇用)、資金移動や情報のグローバル化、価値観の変化(女性、同性愛者の権利擁護)、社会的包括性を含むレジリエンス(強靭性)などである。

MDGsはもともと社会開発を中心に作られた目標であった。しかしながら、貧困、雇用創出、不平等、気候変動など、1つのセクターだけの対応では、解決が困難であることが明らかになってきた。これらの複数分野にまたがる問題の解決には、社会、経済、財政、経済企画など、様々な機関がかかわることが必要となる。さらに、マクロ経済、環境分野に対するニーズも取り入れて、議題設定を拡大する必要性がでてきた。そういった背景の中、ポストMDGs(The 2030 Agenda for Sustainable Development) の議論は始まった。

■3■ MDGsとSDGsの違いは?

MDGsは国連が主体となって作成したものであり、UNICEFの指標がもとになっていた。 具体的な達成基準や期限が明確に設定されており、15年間で達成度が測定できる仕組みになっていた。しかし、加盟国間協議を通さずに採択されたこともあり、国連加盟国が当事者意識を持つのには5年以上もの年月を要した。

MDGsの達成度は種々の統計をもとに評価し、グローバルな視点から各国の達成度をモニタリングする仕組みであった。MDGs終了時(2015年)までに、主要な貧困指標である、絶対的貧困者(一日あたり1.25ドル以下で暮らしている人)たちの数を世界で半減させること に成功した。その背景には、中国での貧困削減の貢献が大きく寄与している。他方、MDGsから学んだ教訓としては、グローバルレベルでは、目標を達成、または改善に向かっていても、地域レベルで見ると改善があまり見られない地域、或いは悪化している国々(主に、紛争国、ポストコンフリクト国、脆弱国家)地域があるという点である。また、経済全体が発展してもその恩恵がすべての人に伝わっていない、例えば、先住民やスラム街に住む貧困層の生活の質は向上していないという、社会的排除(Social Exclusion)の問題、又は、所得の不平等問題などの、構造的な問題にも対処する必要も明らかになってきた。そこで、住民の社会的な特性を見る上で、性別、年齢、エスニシティなどによって細分類(disaggregated)されたデータに注目する必要性が明らかになった。例えば、教育政策において、全体の就学率が上昇していても中退者が増加していたり教育の質が伴っていない為に、必要な知識を習得していなかったといった事例などが、それにあてはまる。

SDGsはMDGsの課題を引き継ぎ、さらに経済、環境、平和など、より多くの課題を包括したものだ。SDGsは先進国も含めて全参加国が責任を持つものである。さらに、 “人間中心(people-centered)”であり、採択されたアジェンダの包括的目標(overarching goal)にあるように、目標達成の過程で、“誰一人取り残さない(no one will be left behind)”ことを約束した目標である。持続可能な社会、経済を構築することが掲げられている。政府がその第一義的主体であるが、地方自治体、研究機関、NGO、市民団体、民間企業、そして社会的弱者自体もSDGsの達成に主体となって大きく貢献することを前提としている。特に、民間企業が果たす役割は大きい。また、SDGsは女性、高齢者、若者、児童、身体障害者、先住民、少数民族や難民などを社会的弱者として対象としている。

■4■ SDGsについて

簡単にいえば、SDGsは、MDGsにRIO+20(国連持続可能な開発会議)で採択された「アジェンダ21」を加えたものがたたき台となっている。 交渉中、目標の数を減らすことが困難であったため、17個の目標が採択されることとなった。内容は、MDGsにさらに新しい目標を加えていたものとなっているが、達成の成果をはかる、指標設定(Indicators) は各国レベル(National level) でまだ強化の余地がある。又、実施手段の強化とグローバルパートナーシップについて定めている第17目標を実施するための手段、実施手段(means of implementation)をどのように具体的に実施していくか、という課題がある。具体的には、資金、技術、制度・能力開発の3点が主な実施手段とされている。MDGsの際 は先進国が途上国に行う援助を主にしていたが、SDGsの場合は途上国内でも自国の資金を中心に開発を促進し、ODAはあくまでも補足的な手段となる。アディスアベバ行動目標などを通して、どのように南北間で(プライベートセクターも含めて)パートナーシップを作り上げていくかが今後の課題である。

その一方、SDGsは包括的な課題を掲げているため、国連のすべての機関、加盟国をまとめる動きとなりうる。各国政府機関では縦割り行政をなくしできるだけ包括的取組みをおこなっていきたいという動きがあるが、現実的には簡単ではない。ノルウェー、ブラジルなどでは積極的に縦割りの解消を検討している。そういった成功事例を参考に、社会全体でSDGsに取り組んでいくことが必要である。まずは共通の目標、統合された政策(coherent policy)、各省、各機関間の意思疎通の向上などを行うことが重要である。

■5■ SDGsはこれからどうなるか?

実施状況の監督はSDGsの追跡機関、国連理事会ハイレベル・ポリティカルフォーラム(HLPF)によって行われる(4年に一回行われる閣僚会議)。それ以外は年に一回経済社会理事会(ECOSOC)のもとでHLPFが開かれる。毎年世界報告書も発行される予定である。

SDGsを運営するための枠組みは設立されたが、言うのは簡単で、実際に目標実現に向けて種々の政策を国レベルで、実行にうつしていくのは簡単ではない。まずは、SDGsを各国の実情、能力、財政状況を踏まえて、国内へ取り入れ浸透させていくことが求められる。課題が幅広くなった分、それぞれの取り組みが 希薄化してしまう懸念もある。今まで狭く深く取り組んでいたことが浅く広く取り組むことになってしまわないように、深く広く取り組むためのアプローチを模索しなければならない。また、異なるアクターが同じことをやり始めて縄張り争いになってしまうことも避けるべきである。国連の第二、第三委員会と経済社会理事会との間でも調整が議論されており、また途上国と先進国の温度差もある。「いままでの経済は持続可能なのか?」という懸念もあり、新たにあるべき経済の姿を模索していく必要もあるかもしれない。そういった意味で、SDGsへの取り組みはまだ始まったばかりなので今後の改善が期待される。

■6■ 質疑応答

質問:参加した国に対しての拘束力はあるのか?
回答:法的な拘束力はないが、4年に一度閣僚会議での評価が行われる。さらに、毎年その進捗状況をモニタリングされる。

質問:MDGsには具体的な数値目標があった。SDGsの進捗状況はどのようにして数値化されるのか?
回答:169の項目(ターゲット)があり、それを満たすために指標が200以上ある。これらは加盟国が交渉して決めたものであるが、政府によっては国内の統計局のキャパと見合わせて、現時点で統計収集が可能な指標を採択する国もある。全部実施するのは難しいので、まず最初に何をやるのかという優先順位づけを行っている。進捗追跡は任意であり、2017年の7月に開催されるHLPFには現在44ヵ国が任意で報告を行う意思を公表している。2030年を目標としている一方、指標によっては今後15年での達成が難しいという見方があるものもあるが、絶対的貧困削減などに関しては明確な数値目標を持てると言える。

質問:統計データの信頼性は?
回答:国によってはデータが整備されていないので、グローバルレベルでのモニタリングには国連が収集するデータで補足することもある。各国の国勢調査に基づいてやっている。存在していないデータに関しては収集の努力が必要である。そういった観点から、各国統計局の能力開発を行う必要がある。また、最近、オープンデータの活用が盛んになっているが、国によってはオープンデータに反対している国も存在している。

質問:SDGsの実施についてお聞きしたい。SDGsが国内で実施される場合、国際機関はどれくらい関与/支援できるのか?
回答:MDGsと違い、基本的には加盟国が実施の責任を持つ。加盟国がSDGs達成を目指す際には、政策実施の能力向上が必要となることが考えられる。そこに、国連諸機関が貢献できる余地があると思われる。ただ、最貧国が国連機関の支援を最も必要としているであろう。どうSDGsの枠組みを作るのか、どう税金を集めるかなど加盟国自身が明らかにした後に、加盟国の要請に基づき、国連は支援を提供する。加盟国と国連が協力し合うことが重要である。また、政府がどう複数の関係者、例えば市民団体を巻き込むかというマルチステークホルダーパートナーシップの分野では、能力がない国もあるので、国連諸機関の支援が必要だと考える。

質問:SDGsの拘束力についてお聞きしたい。国連はどういう形で後押しをしているか?
回答:SDGsには法的な拘束力はない。ほとんどの加盟国首脳会議は各国のコミットメントが基になっている。実施するのは各国次第。地域の中でプレッシャーをかけあったり、達成しなければ 恥ずかしいといった雰囲気を作ったりしている。ASEANやアフリカ連合といった地域協力機構もSDGsを支援しており、紛争で約束できない加盟国以外はなかなか足抜けできない状態をつくりだしている。もちろん加盟国によっては温度差もあるが、閣僚も4年に一回集まるので活動がしやすい環境であるのではないか。

質問:インターネットの普及と個人情報保護の重要性など、SDGsの枠組みとして懸念がないのか。
回答:サイバーセキュリティなどに対して懸念を持っている加盟国政府もある。サイバーセキュリティに関しては、国連の加盟国間協議で対処している。一方で、ソーシャルメディアに関しては国連も積極的に取り入れている。しかしながら、加盟国によっては取り締まりが厳しい国もある。
回答(登壇者以外):MDGsは国連がやったように宣伝されているが、実はOECD内の、資金拠出が多い先進国が多くを決定していたという、別の一面も指摘されている。他方、SDGsの場合は 世界中から意見が提供され、下から積みあがったものだと捉えられている。資金支援国である先進国の影響力は以前強いが、今回のSDGs採択は発展途上国の観点から見ると絶好の機会であった。

質問:米国大統領選挙の影響は?
回答:トランプ次期大統領の政策に関して、国連内では資金面、環境面で心配の声もある。実際には、民間企業や政策への影響を考慮すると、これまで国際会議で採択、或いは批准された主要な条約やコミットメント(例えばパリ条約)を簡単にに反故にすることはできないと思う。政治家を含めて社会全体に、持続可能な開発の教育が重要である。SDGsの達成には、政策決定者、学術会、市民団体、私企業、青年、女性など、一般の市民も含めて,社会の全てのものが、価値観・思考を変換(transformation)することが必要。現在は、まだ出発点なので、みなさんもSDGsの達成に向けて是非力を借してください。
回答(登壇者以外):国連は理想を前進させなければいけない。そのためSDGsは不可欠。通常の外交・国連政策で残念なことは、各国の外交団が一番力を注ぐものが議論する対象を決めることであり、 決議が採択されてしまえば、実施は各国政府の実施省庁に丸投げになってしまいがちで、なかなか実施が進まないことである。他方、今回のSDGsは各国の政策にしみ込んでいくと思う。

■7■ さらに深く知りたい方へ

このトピックについてさらに深く知りたい方は、以下のサイトなどをご参照下さい。国連フォーラムの担当幹事が、下記のリンク先を選定しました。




2017年4月12日掲載
企画リーダー:原口正彦
企画運営:志村洋子、中島泰子、西村祥平、古林安希子、建道文子
議事録担当:三浦弘孝
ウェブ掲載:三浦舟樹