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第20回SDGs勉強会 教育のニューノーマル 〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜

2022年2月5日実施 

国連フォーラム関西支部 第10回SDGs勉強会

『教育のニューノーマル
〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜』

開催報告

文責:丸岡 樹奈

2022年2月5日(土)に、オンラインにて、『第20回SDGs勉強会「第20回SDGs勉強会
国際教育協力企画教育のニューノーマル〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜」』を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】 

《企画背景》

教育は、社会の発展にとって非常に重要であり、社会の変化に合わせて常にその形を変え、進化してきました。特にここ数十年では、科学技術や経済の飛躍的な進歩に伴い、格差拡大や資源枯渇など世界が困難な課題に直面し始めたこともあり、教育の重要性がさらに増しました。

 一方で、2020年初頭に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的大流行によって、社会はあらゆる側面で打撃を受け、教育についてもユネスコのデータによると感染が急拡大した2020年4月の段階で、既に14億人以上の就学者に影響が出ていることが発覚しています。現在でも一部の国では休校が継続されています。このような状況下では、各国の発展レベルによって、教育が長期的に中断され、ますます課題が深刻化する恐れがあり、こうした危機的状況を打開するために、今まで以上の国際協力が求められるとともに、テクノロジーの活用が期待されています。

 これらの時代的背景の下、近年では、最新のテクノロジーで教育に纏わる様々な課題の解決を図る新しいビジネス分野EdTechが注目を集めています。インターネットやIoT、人工知能(AI)、ビッグデータなどテクノロジーの急速な進展に伴い、様々な領域で最新テクノロジーを活用・応用した取り組みが加速しています。その中でEdTechは、教育(Education)とテクノロジー(Technology)の融合、テクノロジーの教育への革新的な応用として注目されています。

 国際機関や民間企業、NGO等の様々な組織でEdTechへの取り組みがコロナ禍に伴って加速しました。EdTechは、物理的な空間の枠を超えた教育のアクセスを実現できるという魅力的なメリットがある一方で、ICT環境の未整備や視聴覚情報の偏りによる学習の質への課題など、デメリットもいくつか存在します。

 本勉強会では、コロナ禍によりこれまで以上に教育の質や量に課題が増えた発展途上国を対象フィールドとしています。衛生管理やインフラ整備に課題を抱える発展途上国においては、SDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」の達成はコロナ禍に伴い、より困難になっていると考えられます。その為、今までの学習形態だけではない新しい学習の形が求められるでしょう。発展途上国という限られたリソースのフィールドで、EdTechを切り口に、教育のニューノーマルについて考えることで、より革新的な今後の国際教育協力のあり方を模索します。

《企画目的》

○対象:発展途上国の教育課題に関心を持つ高校生、大学生・大学院生、社会人

○企画目的:

  1. 途上国におけるコロナ禍での子供達の取り巻く環境の変化(特に教育・福祉)を知る
  2. コロナ禍での教育の貧困・格差是正のための策のひとつであるEdTechの価値・現状・課題を知る
  3. 参加者自身に自身のこれからの国際協力を考えてもらうきっかけ作りとする

 

《イベントプログラム》
13:00 – 13:15 オープニング、EdTechについての概要説明・ゲスト紹介
13:15 – 14:25  第1部  ゲストからの基調講演
14:25 – 14:55 第2部 パネルディスカッション
14:55 – 15:00 クロージング
15:00〜15:30 ネットワーキングタイム(希望者)

《ゲスト》


【開催報告】

勉強会当日は、ゲストの方の講演とパネルディスカッションの2部構成で行いました。

《第1部 講演》
  • 講演①松本ふみ氏/テーマ『コロナ禍前後の発展途上国の子どもの取り巻く環境の変化』

【講演要旨】

  • 組織のビジョンや事業概要について
  • 学校に通うことが難しい子どもたちの現状について
  • コロナ禍に伴う子どもたちのメンタル面の危機とそのケアについて
  • SCJとしてEdTechの価値や位置付けをどのように捉えているか
  • EdTechに関わるこれまでのご活動と今後の活動計画
  • 講演② 藤平 朋子氏/『発展途上国におけるEdTech事業の成果と今後の方向性ースリランカでの事業を事例にー』

  【講演要旨】

  • 組織のビジョンや事業概要について
  • 「Surala Ninja!」の概要と特徴について
  • スリランカでの連携事業について
  • 海外でのビジネス展開の今後の方向性について
《第2部 パネルディスカッション》

(Save the Children様より)

  • 発展途上国かつコロナ禍という特異な状況下でのEdTechの普及に関しては、子ども側の負担だけでなく、教員側の負担や、電力需要の超過などについても懸念点がある。
  • 学校が休校になってしまったことにより、子どもと武装勢力が接近する機会・口実が作られているのも事実。さらには、児童婚の増加傾向も確認されている。
  • コロナ禍で、当団体への募金金額は増えたと感じており、教育等の整備に使われている。

(すらら様より)

  • デバイス不足の問題に対しては啓蒙活動を行う等のロジ面での整理を行ったとのことであった。その一方で、発展途上国の国内でも地域間格差が存在しているのが現状である。そのため、現地NPOとのパートナーシップ構築が喫緊の課題である。
  • PCではなくスマホでの教材の受講は、画面が小さく学習環境としては芳しくない。また、スマホ版を作るのにも予算が必要である。
  • 学習の習得状況により、フォローアップの仕組みを整備しているのが、同業他社と比較した際の強みである。
  • 子どもの学習に最も大きな影響を与えるのは教員だと認識している。教員によって、e-ラーニングの受講時間にもばらつきがでる。教員は、学習に対するフォローはもちろんのこと、子どもたちの精神的成長にも大きく寄与するメンター的存在であり、EdTechが普及しようとその重要性は不変である。

上記のように、講演パートだけでは扱いきれなかったテーマに関して、参加者からは積極的に質問が寄せられ、自由闊達な意見交換を行うことができた

 

《クロージング》

クロージング後には、ネットワークキングタイムの時間を設けており、ゲストと参加者によるインタラクティブな交流の機会を設けることができた。

《参加者の声》

参加者の皆さまからのアンケート結果を抜粋してご紹介いたします。(一部編集済)

    • 興味のあった分野について実際にそのフィールドで活動されている方からの講義を受けれてとても勉強になった。
    • EdTechについて、事例も交えてわかりやすく解説いただけた。また、グループディスカッションでは、様々な年齢、所属の方と意見交換することでき、勉強になった。
    • 二つの団体の方のお話を伺うことができ、多角的に学ぶことができた。

この度「第20回SDGs勉強会 教育のニューノーマル
〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜」
にご参加いただいた皆さま、
誠にありがとうございました。
今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、
次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。
今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

 

また、国連フォーラム関西支部のFacebookグループページホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!

開催案内|国連フォーラム関西主催第20回SDGs勉強会『教育のニューノーマル〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜』

【開催案内|国連フォーラム関西主催第20回SDGs勉強会『教育のニューノーマル〜途上国の課題をEdTechでBreakthroughできるか?〜』】

 EdTech(教育✕テクノロジー)と聞いて、どんなイメージがありますか?

 教育は、社会の発展にとって非常に重要な要素であり、時代に合わせて進化を遂げてきました。特にここ数十年では、格差拡大や資源枯渇をはじめとした複雑なグローバルイシューの解決へ向け、教育がもたらすインパクトへの期待は増すばかりです。

 一方で、2020年初頭に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的大流行によって、社会はあらゆる側面で打撃を受けました。教育もその例外ではありません。ユネスコによると世界では約8億8000万人もの子どもたちが、学校の休校によって教育を中断している状況*にあります。

 これらの時代的背景の下、近年では、教育(Education)と最新のテクノロジー(Technology)とを掛け合わせて、教育に纏わる様々な課題解決を図る新しいビジネス・産業分野、通称「EdTech」が脚光を浴びています。

 この度国連フォーラム関西は、主に途上国に着目し、コロナ禍における教育課題・子どもたちを取り巻く現状を踏まえたうえで、EdTechの取り組みや今後の展望について考える勉強会を企画いたしました。「EdTech」は現代の教育に関する様々な課題を打破(Breakthrough)する特効薬となり得るのでしょうか?ぜひこの機会に皆様で一緒に考えてみませんか?

*報告書|UNICEF(2021/03)「新型コロナウイルスと休校(原題:COVID-19 and School Closures)<https://data.unicef.org/resources/one-year-of-covid-19-and-school-closures/>

日本語の情報|UNICEF「教育危機 世界の休校 1年続く 1億6,800万人の子どもが学校に通えず」<https://www.unicef.or.jp/news/2021/0048.html>

 

こんな方におすすめ!

途上国への教育に関心がある!
EdTechを用いた国際協力について知りたい!
コロナ禍を経てより脆弱な状態にいる子どもの支援について考えたい!

概要

日時 2022年2月5日(土)13:00~15:30 (12:50開場) 
場所 オンライン開催(Zoom)
定員 40名(お早めにお申し込みください。)
参加費 無料
参加対象 どなたでも参加可能。
参加方法

以下の申込フォームに記載した方に、後日メールにて参加URLを送付いたします。

https://forms.gle/n1U7FQ7mYrndVLSv9

プログラム詳細

※イベントスケジュール・内容は都合により変更となる場合がございます。予めご了承ください。

12:50 開場
13:00 – 13:15 オープニング、EdTechについての概要説明・ゲスト紹介
13:15 – 14:25  第1部  ゲストからの基調講演
14:25 – 14:55 第2部 パネルディスカッション
14:55 – 15:00 クロージング
15:00〜15:30 ネットワーキングタイム(希望者)

ゲストスピーカー

藤平 朋子 (ふじひら ともこ)氏

株式会社すららネット 執行役員 マーケティンググループ 海外事業推進室 室長

中小企業向けの経営コンサルティング会社にて複数のフランチャイズ本部、加盟店の支援、事業開発を経て同じ部門より開始したeラーニング「すらら」の教育事業にMBA後に合流。2015年よりJICAプロジェクトを通じて本格的にスリランカ、インドネシアへ進出。プロジェクト終了後に事業化し、海外生向けに開発した算数教材「Surala Ninja!」の教育サービスを展開。その後もインド、フィリピンなどで同サービスの事業化に着手。現在多くの小学校での授業内活用や学習塾での導入を実現。2020年度には経産省・JETROによる「未来の教室」実証事業に採択され、インドネシアとフィリピンにて活動。2022年はアジア開発銀行研究所の大規模教育プロジェクトにコンサルタントとして参画。

 

 

松本 ふみ(まつもと ふみ) 氏

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部

大学卒業後、IT企業での勤務を経て、英国大学院にて教育開発学の修士号を取得。その後、ユニセフガーナ事務所教育セクションでのインターンシップを経て、2018年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。モンゴルにおける初等・中等教育でのインクルーシブ教育推進事業などを担当。

 

 

佐藤 秀美(さとう ひでみ) 氏

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部

大学卒業後、英国大学院にて教育と国際開発の修士号を取得。その後、外資系金融機関での勤務を経て、2021年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。レバノンにおけるシリア難民やホスト・コミュニティの子どものための教育支援事業などを担当。

 

 

ファシリテーター

 

安藤 秀雄(あんどう ひでお)

|国連フォーラム関西スタッフ、公文教育研究会

神戸大学大学院国際協力研究科修了。学生時代はイギリス・シンガポールへの留学とケニアでの開発NGOの活動を経験。大学院ではケニアにおけるシティズンシップ教育について研究。2018年より公文教育研究会に所属。フランチャイズ教室への指導・運営・普及に関するコンサルティング業務に従事。個人として国際協力や障害児教育に関心を持ち、国連フォーラム等で活動中。

 

開催形態

オンライン通話ツール「Zoom」によるオンラインイベント

※お申込みフォームにご入力頂いたメールアドレス宛に別途、接続先をご連絡させていたただきます。

※PCまたはスマートフォンで「Zoom」アプリのダウンロードが必要です。イベント開始時までに「Zoom」の接続テストサイト(https://zoom.us/test)にて、ご確認頂けますと当日安心してご利用いただけるかと思います。

注意事項

① 当日のイベントの様子を撮影し、今後のイベントの広報やWebサイト、SNS等で使用させていただく可能性がございますので予めご了承ください。

② 質疑やディスカッションの活性化のため、顔出しでのご参加を推奨しています。

参加者へのお願い

本勉強会の参加にあたって、以下の事項(国連フォーラムルール)にご留意ください。

記:国連フォーラム・ルール

1: 国連フォーラムによって設定された議論の場には誰でも個人の資格で参加できるが、参加にあたっては氏名や所属を明らかにする。逆に言うと、設定された議論の場での議論は氏名や所属を明らかにした個人にのみ共有される。

2:一方、 各個人の発言は各々が所属する組織や団体の立場を代表するものではないと解釈される。各個人は国連フォーラムの議論の場での発言が所属する組織や団体の立場と異なるからといって、非難・追及されてはならない。

3:国連フォーラムの議論の場での発言は、発言した本人が発信する場合や本人の了解を得た場合を除き、メディアなどを通じて公に引用してはならない。

申込フォーム

以下のフォームより、必要事項をご記入の上、2月3日(木)までにお申込みください。

※参加をご希望の方は早めにご応募ください。

※無断キャンセルはおやめください。参加ができなくなった場合は、すぐに下記連絡先にキャンセルの旨をお伝えください。

【連絡先】unforumkansai@gmail.com

 

第15回SDGs勉強会 「難民支援におけるテクノロジーの可能性 〜難民が直面する課題と現場で使われる テクノロジー〜」

2020年11月7日実施 

国連フォーラム関西支部 第15回SDGs勉強会

難民支援におけるテクノロジーの可能性

〜難民が直面する課題と現場で使われるテクノロジー〜

開催報告

文責:纐纈 響七

2020年11月7日(土)に、オンラインにて、『難民支援におけるテクノロジーの可能性〜難民が直面する課題と現場で使われるテクノロジー』を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】 

《企画背景》

 近年、先進国でのテクノロジーの進歩は目覚しく、スマートフォンやパソコンは、生活や仕事、授業では必須アイテムになってきており、その影響は先進国だけなく途上国にも浸透し始めています。UNHCRのヨルダンの難民支援では、色彩認証が取り入れられ、安全性や支援の効率性から新たな支援の形態として期待されており、特に難民キャンプでは、テクノロジーを活用した難民のコミュニティの成立や外とのコネクションが重視されています。しかし、このようなテクノロジーを用いた新しい支援を取り入れる上で、その利点のみならず起こりうる問題点にも目を向けていかなければなりません。

 そこで、国連フォーラム関西という国際協力に関心を持つ若者が集うプラットフォームでは、新たな支援の形態としてのテクノロジーの好事例や可能性を知ると同時に、その課題点やどのように調和をとっていくのかを考え、新しい国際協力の在り方を考える、勉強会を企画します。

《企画目的》

対象:難民支援やテクノロジーによる途上国支援に関心がある方

企画目的:

 難民支援の円滑な自立と支援には、テクノロジーが使われ始めており、その重要なワードとして「難民の接続性」ということがあります。「難民の接続性」とは、難民コミュニティーだけでなく、難民コミュニティーや難民キャンプの内外問わず、支援やサービスがつながることを意味します。テクノロジーが世界の人道支援や難民のコミュニティー開発に寄与していることを理解し、企画終了後も難民問題への関心を引き続き持ってもらうため、以下のことを目的として企画しました。

 

  1. 難民支援×テクノロジーという新しい支援の形態が、どのようなものを用いてどのように支援がなされているのか、外との接続性を意識した支援とはどのようなものなのか、という難民支援の形態や難民支援組織が直面する課題点の理解

  2. テクノロジーの支援を理解した上で難民コミュニティーの接続性を踏まえて、どのような課題に、どのようなアプローチで支援ができるのかを考えます。また、難民支援におけるテクノロジーの活用や民間セクターとの関わりがどのように変化してきたのか、また今後の在り方を考える。

 

《イベントプログラム》

【日程】2020年11月7日 13:00~15:00(12:45開場/15:00〜ネットワーキングタイム)

【場所】Zoomにて実施

【イベントプログラム】

オープニング

  国連フォーラム紹介、タイムライン説明

第1部

- 講演 守屋 由紀 

 「難民支援とテクノロジー ~世界の難民問題~」

第2部

- グループディスカッション

- グループディスカッションの共有

閉会

- ゲストによる講評

- クロージング

《ゲスト》
守屋 由紀氏 国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所 広報官
東京生まれ。幼少期を香港、メキシコ、アメリカで暮らす。大学卒業後、総合商社、法律事務所などを経て、1996年よりUNHCR駐日事務所。2007年より広報官。世界の難民・避難民などへの理解を促し、UNHCRの活動を日本に紹介することに従事。東京をベースに、アフリカやアジアなど18カ国の現場を訪問、直近の訪問地はコロンビア。

【開催報告】

勉強会当日は、ゲストの方の講演とディスカッションの2部構成で行いました。

ゲストは、UNHCRの守屋様をお呼びして、難民支援におけるテクノロジーの活用の現状とその成果について説明していただきました。

ディスカッションでは、事前に配布した事前資料を参考に難民支援における問題点を深堀したのち、「その問題をテクノロジーによってどのように解決していくか」そして、そのテクノロジー支援のメリット・デメリットについて支援のアプローチについて考えました。

《第1部 守屋由紀氏の講演》

第1部では、守屋様から難民支援におけるテクノロジーの活用をテーマにご講演頂きました。

はじめに、守屋様の活動についてご紹介頂きました。難民を取り巻く状況は年々悪化しており、人類の1%が移動を余儀なくされている、と守屋様は指摘します。このような人類の課題ともいえる難民問題に対して、広報官である守屋様は、様々な人にUNHCRの活動を知ってもらうため、メディアや著名人など発信力のある方々を巻き込んで活動されてきました。

COVID-19の影響は、難民支援にも影響を大きく与えていると守屋さんは述べます。世界中が困難な状況にある中、UNHCRへの支援額が増加したというエピソードは印象的でした。

◆守屋様からご紹介いただいたポータルサイト

“Operational Portal -Refugee Situations-”<http://data2.unhcr.org/en/situations>

UNHCRをはじめとした国連機関やNGOによるオペレーション情報、教育、水などの詳細なデータが掲載されています。

次に、ヨルダンの難民キャンプの実際の事例をもとに、難民支援におけるテクノロジーの利用についてご説明いただきました。

Iris scanning biometrics 虹彩認証

自分の虹彩を合わせることによって、自分の電子口座にアクセスし、現金を受け取ることができます。ヨルダンは、パレスチナ難民を受け入れている国ですが、国境は閉鎖せず、難民を受け入れていました。多くの難民に対してどのようにしたら的確な支援ができるかを考えていました。

虹彩認証によって、奨学金を受けることもできます。奨学金を受け取ることによって、600人の学生に教育の機会を提供しています。スマートフォンにグランドが入ってきて、その金額で教育を受けています。

太陽光発電

砂漠のようなヨルダンのザアタリ・キャンプでは、IKEA財団からの寄付によって広大な太陽光発電をおこな合っています。電気が通っているテントやプレハブの近くに街頭がありその街頭が電気を奪っていたため、電気不足が深刻だったことが導入のきっかけです。

難民の自立につながります。自分たちの生計を立てて、人間の尊厳を高めるような成果もできました。また、安定した電力が供給できることにより、そのキャンプの運用費を削減することもできました。

テクノロジーの進歩(AIや統計データ)を用いた支援は今後も重要視され、UNHCRでは、イノベーションや革新に力を入れています。また、色々な現場でプロジェクトを組んでのイノベーションもあります。

《第1部 質疑応答》

質疑応答では、以下のようなお話を聞くことができました。

― 日本企業はどのように協力しているか

守屋様からは、UNHCRが実際に企業と関わっている例を挙げてくださいました。ユニクロで有名な(株)ファーストリテイリングとグローバル・パートナーシップを結び、難民の方々への服の提供を行っている事例をご紹介頂きました。要らなくなった服の回収から現地での提供まで一貫して取り組まれ、社員が現場を訪れてフィードバックを社内に持って帰るなど、普段の生活では気付かない企業の取組みを知ることができました。また、UNHCRの機材としてトヨタの車が多く使用されていることに言及されました。機材の提供のみならず、メンテナンスの指導がなされていることで、長期的に使用することができ、様々な現場で活用されていることをお話頂きました。

― 難民キャンプ外に住んでいる難民をターゲットにしたテクノロジーを用いた支援について

難民の多くは、キャンプではなく都市や町などで暮らしており、そのような都市に住む難民の人々への支援が難しいことに言及されました。ヨルダンの難民の方々は七割以上の人が携帯を持っているため、スマホを通じて情報を提供しているとお話しくださいました。一方、現金給付による支援の重要性が高まってきていることを教えて頂きました。現金支給による支援であれば、自身の生計を主体的に考えることができるほか、それぞれのニーズに合ったものを地元のマーケットで購入するといった、経済活動に参加することができます。このように、現金給付の支援は、難民の自立促進や受け入れコミュニティへの還元にもつながるという点で重要性が高まっていることを学びました。

― 日本の難民・移民政策について

日本における外国人労働者の受け入れなど、移民以外のかたちで受け入れを行っているような状況に言及され、移民や難民の政策を進めるには世論の声・世論の理解が影響を与えるのではないかと述べられました。また、外国籍の人の割合が高い新宿区の事例を挙げ、移民政策を進めるうえでは多様性の理解が必要ではないかとお話頂きました。また、〇〇人として括る報道や、〇〇難民というワードを使うことも難民や移民への誤解を招きかねないと指摘されました。

― 課題が起こっている現地企業とのテクノロジーの活用における協力について

外からの力に頼らず、現地の人や物などのリソースを用いて課題などに取り組んでいくことの重要性に言及され、JICAなども取り組んでいる自主性を促す取り組みに言及されました。さらに、「テクノロジーと人」や「人の活動」をどのように融合させるかがテクノロジーの活用においても重要だと述べられました。

《第2部 グループディスカッション》

今回のグループディスカッションでは、参加者の皆さまにグループに分かれて頂き、難民キャンプの方々や難民支援において直面する課題や解決策となるテクノロジーについて考えて頂きました。このグループディスカッションでは、難民の方々が直面している課題をテクノロジーでどのように解決するか、そしてそのテクノロジーの可能性やテクノロジーを用いた支援の課題について考えました。

<A班>

A班では、教育をテーマに議論しました。難民として国を移動している間に「学びのギャップ」が生まれること、難民が居住しているところから学校が遠いことや、親が経済活動を重視することで「子どもの学習機会」を奪ってしまうという問題が挙げられました。

これに対するテクノロジーを使った解決策として、AIの活用やタブレットの使用などのアイディアが挙りました。AIによって生徒に応じたカリキュラムを選定・理解度の測定をすることで、学びのギャップを把握しつつ対応できることや、タブレットで場所の制約なしに教育機会を創出できるというメリットが考えられました。

一方で、難民キャンプではネットワーク状況が不安定であることやインターネット料金を払えない難民への教育機会などの意見も生まれ、それに対してどう解決していけばよいかなどと活発な議論が行なわれました。

<B班>

B班は、雇用促進・エンパワーメントをテーマに議論を進め、特に「難民キャンプに雇用がない」「雇用があっても、その人の教育レベルと合わない」ことにより、生きがいや自立心につながらないという課題が挙がりました。そこで、雇用を求める世界の企業と教育レベルの高い難民をマッチングし、適切な人に適切な仕事を提供するクラウドソーシングサービスというアイディアが挙がりました。本アイディアにより、難民の方はキャンプにいながら自尊心の持てる仕事に携わることができる反面、雇用する企業側の難民の状況への理解や文化、考え方への理解をどう深めていくかなど、ソフト面に対する配慮が必要になるという意見も挙がりました。

<C班>

C班は、自立促進・エンパワーメントについて議論を進めました。難民キャンプにおける教育にフォーカスを当て、学歴証明書がもらえないことを課題に上げました。そこで、「ネットの環境を整える」「オンラインで学歴証明書」が発行できるようにするなどが挙がりました。そこでSAP デジタルバッチに焦点をあてて、どのような仕事を経験したきたのか、学歴や資格がオンラインで発行できるようにするテクノロジーを提案しました。そのため、dのような企業が行うのか、漏洩した場合のリスク管理などが懸念点として挙げられました。

<D班>

D班は水問題・衛生環境について議論しました。下水処理システムの不整備から発生する公衆衛生の問題や、農業に関心がある参加者からは農作物への影響などが課題としてあげられました。これらの課題を解決するためには盤石な水の循環管理システムが重要であるため,

ITを用いた24時間体制の管理や、VRを用いた修繕技術訓練などがアイディアとしてあげられました。コスト等を考えると実現可能性はまだまだ低い一方で、長期的な視点で構築していくことの重要性も意見としてあげられました。

<E班>

E班は、自立促進をテーマとしてディスカッションに取り組みました。難民の方々が直面している問題として、生計を立てるための市場がないことや経済活動を行うための身分証明がないこと、経済制裁により物資が届かないことなどが問題点として挙げられました。中でも、地方においては農業による自給自足が行われていることに着目し、どのようなテクノロジーが農業による生計手段確立に役立つかを考えました。ドローンを用いた農薬散布や稲の生育状況や土地の乾き具合などを調べるための写真によるデータの収集といった実用例のあるアイデアから、LEDを用いたネット環境の構築といった未来の可能性に言及したアイデアまで様々な意見が交わされました。

《クロージング》

講評

最後にグループディスカッションを踏まえ、ゲストの守屋様から講評を頂きました。

― 今回の勉強会の改善点などは、ありますか。

グループディスカッションがもっと長くてもよかったと思います。みなさんのバックグランドから出される様々なアイディアがとてもいいなって思いました。コロナの中で、今までのことを変えるチャンスだと思います。

― 特に印象に残った新しいテクノロジーなどはありますか。

特にデジタルバッジのアイディアは革新的なものだと感じました。日本にきた難民の人が自分の立場を証明するものがないということがあります。デジタルバッジがあれば、証明されるのかと思う一方セキュリテーとの兼ね合いなどを何かARVRができるかもしれないです。そもそも難民問題を防ぐテクノロジーを作れるかもしれない技術革新があるかもしれないです。

各班に様々なアドバイスをくださり、参加者の質問にも答えてくださった、守屋様、西村様に心より感謝申し上げます

《参加者の声》

参加者の皆さまからのアンケート結果を抜粋してご紹介いたします。

  • 講演、質疑応答、グループディスカッションの時間配分が丁度よく、最後まで楽しめました!
  • いつも通り、ディスカッションタイムがしっかり設けられており、トピックについて深く学ぶことができました。
  • 同じグループの方の知識が豊富で、勉強になることばかりでした
  • さまざまなバックグラウンドある方々から幅広く学ぶことができた。
  • 自分にとっては少し遠いテーマ(テクノロジー)でしたが、いろいろなアイディアがでて、非常に刺激的な時間でした。新たな知見や考え方を得て、また自分に何ができるかを考えるきっかけとなりました。
  • 皆さんとの意見交換や、発表の仕方がとてもうまく、とても参考になりました。色んな分野の方がいる中で、自分の専門性や経験、関心分野について、短い時間の中でわかりやすく論理的な説明をする力が必要とわかった。日本の難民についてももっと幅広く知ってもらえる方法を考えていきたいと思った。

この度「第15回SDGs勉強会「難民支援におけるテクノロジーの可能性〜難民が直面する課題と現場で使われるテクノロジー〜」」にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

 

また、国連フォーラム関西支部のFacebookグループページホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!

センパイ1

第1回キャリア企画 国際協力のセンパイと考えよう!「国際協力に携わる職業と役割~国際機関・民間組織・学術機関~」

第1回キャリア企画
国際協力のセンパイと考えよう!
「国際協力に携わる職業と役割
~国際機関・民間組織・学術機関~
開催報告



2020年8月8日 実施
国連フォーラム関西支部


目次

  1. 開催概要
  2. 開催報告
  3. 参加者の声

センパイ1


2020年8月8日(土)に、オンラインにて、「国際協力のセンパイと考えよう!国際協力に携わる職業と役割~国際機関・民間組織・学術機関~」を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

1.イベント概要

(1)企画背景

国連フォーラム関西では、これまで国際協力の現場で活躍されている又はされていた実務家の方々や学者の方々などをお招きし、国際協力の場で議論されている様々なトピックに関して、参加者に学びの場や議論、情報共有の場を提供してきました。国連フォーラム関西では学生やユース層の会員が多く、これまでの勉強会・イベントの実施アンケートからも現場や専門領域でご活躍の方からお話を伺いたい旨の声を多数受けております。よって、この度国連フォーラム関西では、国際協力の分野における様々な議論を取り上げるとともに、国際協力のキャリアについて知る機会を設け、参加者のキャリア形成の一助となることを願って本シリーズ企画を開催致します。
本シリーズでは、国際協力業界においてご活躍又はその過程にある方をお招きし、ゲストの方のキャリアについて語って頂きます。さらに、キャリアについてお話頂く中で、現場で起こっている課題やそれに対する議論などにも触れて頂き、参加者にはアカデミックな部分と現場での実情とを繋げて考える機会を提供します。
 議論の題材となる国際社会における議題・問題について取り組む姿勢を見聞して初めて、自身が学んでいる分野のアカデミックな知識と現場でこれから経験するであろう課題を併せて理解することができ、参加者にとって、キャリアを考えるうえでのヒント・鍵になると考えます。参加者にとってのロールモデルを見つけ、また現場で活躍されている方の想いを聞くことで参加者の夢への後押しとなることを願って、本シリーズを企画します。
そして、シリーズの第1回は、国際機関や民間組織、学術機関など様々な関わり方や視点を学ぶという目的のもと、本勉強会を実施いたします。

(2)企画目的

対象:国連などの国際機関や国際協力のキャリアに関心のあるユース層

企画目的:以下の機会を提供することで、参加者のキャリアや夢を応援する。

  1. 各分野における近年重要視されている又は取り組まれている課題について学び、現場での状況や課題、また議論されていることなどについて理解する。
  2. ゲストより国際協力分野のキャリア形成についてご紹介いただき、参加者がどのように国際協力分野におけるキャリアを形成していくかという示唆を得、また参加者自身のキャリア構築について考える機会を提供する。
  3. 国際機関、民間組織、学術機関など国際協力の様々な関わり方について知るとともに、国際協力とは何かについて示唆を得る機会を提供する。

(3)内容

【日程】2020年8月8日 16:00~18:00
【場所】Zoomにて実施
【予定】16:00 ~ 16:10:オープニング
       16:10 ~ 17:10:ディスカッション・セッション
    17:10 ~ 17:20:クロージング
    17:30 ~ 18:00:ネットワーキングタイム  ※自由参加

(4)ゲスト

赤星 聖さん 関西学院大学法学部 准教授
大阪大学法学部卒業。神戸大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程後期課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、ジョージタウン大学客員研究員を経て現職。博士(政治学)。専門は国際関係論、グローバル・ガバナンス論。研究テーマとして、国際人道システム、難民保護、国連研究、日本における国際関係論の特徴など。主な著作として、『国内避難民問題のグローバル・ガバナンス―多様化するアクターとガバナンスの変化』(有信堂高文社、2021年刊行予定)、「複合的なガバナンスにおける国際機構間関係―国内避難民支援を事例として」『国際政治』192巻(2018年)、”What Made IDPs a Separate Category from Refugees? The Change in Logic of IDP Treatment in the SARRED Conference” CDR Quarterly 7 (2013) など。

井上 良子さん Impact Hub Kyoto・プロジェクトマネージャー、京都市ソーシャルイノベーション研究所・イノベーションコーディネータ
九州大学法学部(国際公法専攻)・法科大学院修了後、東南アジアで社会起業家に出会ったことを機に法律の分野から転身、九州大学ユヌスセンターで研究員兼コーディネーターとして勤務。ソーシャルビジネス創出支援、教育プログラムの開発、日本企業のバングラデシュでの起業支援、ムハマド・ユヌス博士やグラミン・グループ、海外の教育機関等との連携を担当。その後NPO法人クロスフィールズで日本企業とアジアの社会的企業をつなぐプログラムやフィールドスタディ事業に従事。2020年4月より現職。国連フォーラムにはスタディプログラムや国連とビジネス班の幹事、2018年から事務局長を務める。

久木田 純さん 関西学院大学 SGU招聘客員教授、国連フォーラム共同代表
1978年西南学院大学文学部英語専攻卒業。シンガポール国立大学社会学部留学(ロータリー財団フェロー)を経て、九州大学大学院で教育心理学修士号取得、同博士課程進学。1985年外務省JPO試験に合格、翌年から国連職員としてユニセフ駐モルディブ事務所に派遣され、駐日事務所、駐ナミビア事務所、駐バングラディッシュ事務所、ニューヨーク本部を経て、駐東ティモール事務所代表、駐カザフスタン事務所代表を歴任。2015年1月国連退官。2003年に世界銀行総裁賞受賞。2011年に東ティモール共和国勲章を受勲。


2.開催報告

各組織が国際協力において果たす役割や意義

はじめに、ゲストの方々に「各組織が国際協力において果たす役割や意義は何か」をお伺いしました。

民間企業のサポートに携わっている井上さんは、国際協力という観点における企業の強みはリソースとスピードではないかと述べます。企業は、グローバルな問題解決に必要とされるネットワークや情報、資金を豊富に持っている点や他の組織に比べて迅速に動くことができる点を挙げ、これらが国際協力において求められるソリューション提供に有効に働く可能性について言及されました。また、近年特に増加している、社会問題に直接アプローチするビジネスについても触れ、経済価値と社会価値が融合したアプローチの強みや社会の期待についても述べられました。

アカデミアとして大学で准教授を務める赤星さんは、大学/アカデミックが果たしうる役割は人材育成と知の更新、の2つあると述べます。人材育成とは、大学という場において国際協力に携わりたいと考えている学生を後押しすること。そして知の更新においては、現在のCOVID-19の状況を例に挙げ、新しい知見やイノベーションを生み出していくことで国際的な問題の解決に貢献していることを述べられました。また、学者が果たす役割について、現場で行われているレガシーや課題についての客観的な分析ができる点も言及されました。

国際協力に関わる主体は、しばしば、大きくパブリックセクターとプライベートセクターに分類されます。これについても、赤星さんは「近年の動向に見られる自国第一主義などによって、公(パブリック)の役割や国際協調がうまく働かないときには、私(プライベート)の役割が重要になります。しかし、私(プライベート)の役割だけでは限界もあり、そのような場合には一定程度、公の役割が必要になってきます。そのような公私の循環する動きも興味深いテーマだと思います。」と述べられ、両セクターのバランスや関わりについて考えるための示唆を頂きました。

国連児童基金(UNICEF)で勤務経験を持つ久木田さんは、国連は国と国の協力を促進する国や国際レベルでの取組みを行う役割があると述べ、二国間協力との比較のなかで、国連の中立性・公平性について言及されました。また、そのような点から、国が介入できないところにも国連が入って支援をすることができるという強みにも言及されました。

一方、最近のWHOに対する状況に見られるように、各国間のパワーバランスを考慮に入れながら活動することの困難性や、政治を利用して国際協力を促進することの可能性についても言及されました。
赤星さんも、このような組織の中立性の問題について、政治的対立に巻き込まれてしまう危険性や、政治を上手く利用することの効果から、世界全体の利益に関する役割を担う一方で加盟国のバランスをどのように取るかという難しさについて言及されました。
また、これについて久木田さんは、政治と国連の難しい状況における対応について「長期的にそして戦略的に考えていかなければならない」と述べました。

また、久木田さんからは、国際協力における各組織の関わりについて、組織によって区分がされていた従来とは異なり、近年では企業と政府、企業と国際機関など組織区分を超えた協力が推進していることについても言及されました。
国連が定めた世界の目標であるSDGsに対する民間の在り方について、井上さんは、従来は経済的な利益の外に置かれていた環境・社会・人権の利益を、最初から統合した考え方や事業に組み込んでいく発想を行うことが企業に求められていることではないか、と見解を述べられました。

キャリア選択・キャリア構築について

国際協力をに携わるポストでしばしば必要とされる修士号。参加者をはじめ、国際協力に携わることを目指す方の中には、日本と海外どちらの大学院に行くのかを迷われる方が多くいらっしゃいます。そこで、ゲストの3人に大学院選びのポイントについてお聞きしました。

自分で考える力をつける―

国内の大学院を選択した井上さんは学生時代、発展途上国で法律の専門性を活かしたの仕事に就くことを目標に進学を目指されていたため、研究のための法学府ではなく、実務で活躍できるスキルを習得できる法科大学院を選択したと教えて頂きました。また、赤星さんは大学院選択にあたって指導教員を理由に挙げて、お話頂きました。

国内と海外の大学院のどちらを選択するのがよいかという点について、国内の大学院進学のメリットは母語で思考力を養うことができる点にあり、海外の大学院のメリットはネットワークや語学力の向上などが挙げられました。

その他、大学院進学のタイミングについても議題に挙がりました。大学卒業後の院進の場合、そのまま学生として進めるためモチベーションを保つことができる一方、自分のやりたいことが不明確な場合があると述べられました。社会経験後に進学する場合は、自身のやりたいことが明確になりやすい一方、仕事を辞めにくい点が挙げられました。

しかし、どの選択であっても一番重要なのは、自分で考える力をつけることであることを教えて頂きました。

また、大学や大学院での学びの他に、問題が起きている現場に行くことも重要である、とゲストの方々は述べます。赤星さんは、自分が支援するその先を知ることで活動や研究が血の通うものになるのではないか、と述べました。


キャリア構築で大事なこと―

大学院進学の他にも、キャリア構築にあたってのポイントについても伺いました。

赤星さんは、チャンスが来た時に掴めるよう準備することが大事なことの一つであると述べます。久木田さんも、チャンスが来た時に掴む力、そしてその力は何が必要なのか、自分の使命は何かを見極めることができるようにすることが良いのではないかと述べ、4つの軸を教えてくださいました。井上さんは、今ご自身のキャリアを振り返る中で、学生の時は組織ありきで考えていたことに気付いたと言います。一方、異なるキャリアを選択した今も変わらないものもありました。それは「使命感」だと言います。キャリア構築で大事なポイントの一つとして、諦めないこと、も挙がりました。赤星さんは、使命に対して諦めないことが重要であると述べます。使命を追い求める中では、視野が狭くなる懸念もあるため、広く視野を持つことも重要であると教えて頂きました。

このように、目的意識や使命感を持ちながら専門性を極めることの重要性について気付くことができました。

人生百年時代といわれる今日、「キャリアも家族も、人生の一部として長期的な視点で、今やるべきことを大切にバランスを取ってほしい」と久木田さんは述べます。


「自分の軸を定めながら多様な価値観に触れ、現場にも足を運びながら選択していくと、ライフチャートが出来上がってくるのではないでしょうか」(井上さん)

ネットワーキングタイム

ネットワーキングタイムでは、ゲストそれぞれ3つの部屋に分かれて、参加者との質疑応答を行いました。
今回は、オンラインということもあり、従来のような自由に参加者同士が話せる機会はどることができませんでしたが、よりクローズドな環境で、参加者は思い思いの質問や相談をゲストに尋ねることができました。
質問の一例:

  • 国際協力への熱意はどうやって保っているのか?
  • 成長によって貧困をなくそうという試みについてどう考えるか?
  • 研究を今までとは異なる分野に着目するようになった背景は何か?
  • ソーシャルビジネスをどのように考えるか

3.参加者の声

参加者の皆さまからのアンケート結果を抜粋してご紹介いたします。

  • 民間とアカデミア、国連という異なる立場から、それぞれの国際協力に向けた役割を知り、キャリア形成の参考になった。
  • プレゼンターの方々の人となり・現在に至るまでの過程について理解することが出来た。
  • 「自分で決める。失敗したらまた立ち上がればいい。」というメッセージが印象的でした。
  • 今後のキャリア形成について悩んでいたので今回、様々な方面でご活躍されている方々のお話を聞けて自分の人生設計について考えるいい機会になりました。
  • 今回が初めての勉強会参加でしたが、これまでのイベント等をFacebookで拝見しておりました。企画内容やゲストの方々のバックグラウンド等とても興味深いものばかりで国連フォーラム自体、素晴らしい活動だと思います。今後も時間が合えば勉強会に参加していきたいです。

この度は「国際協力のセンパイと考えよう!
国際協力に携わる職業と役割~国際機関・民間組織・学術機関~」
にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、
次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。
国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。
今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

なお、国連フォーラム関西のFacebookグループでは、国連や国際協力に関する情報の共有や議論の場を提供しております。ぜひ、ご参加ください。また、本Webサイトでは過去の勉強会の開催報告のほか、国連フォーラムのWebサイトからはその他第一線でご活躍されている方々のインタビュー記事など有益な情報がたくさんご覧いただけます。ぜひご活用ください。

第14回SDGs勉強会 紛争後アフリカ地域社会で若者が紡ぐ未来

2020年11月7日実施 

国連フォーラム関西支部 第14回SDGs勉強会

紛争後アフリカ地域社会で若者が紡ぐ未来
~人間の安全保障と私たちの役割~

開催報告

2019年11月3日(日)に、関西学院大学梅田キャンパスにて、『紛争後アフリカ地域社会で若者が紡ぐ未来~人間の安全保障と私たちの役割~』を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】 

《企画背景》

 今年8月末に第7回アフリカ開発会議(TICAD VII)開催され、アフリカに関する様々な議論が行われました。最終日には、横浜宣言2019が採択され、人間中心のアプローチの重要性が確認されました。本企画は、TICADの議論の根底にある「人間の安全保障」について再度考え直し、私たちはどのように関わっていくことができるかを考える機会を提供するものであります。

 アフリカでは現在も紛争が継続している地域が複数存在します。そのような地域社会では、様々な不安定要素が存在し、安全が保障された状態であるとは言い難いです。そのような現実に際して、特にアフリカの将来を担っていく70%を占める若者にとって、安全が保証された状態とは何か。そして、人間の安全保障の確保のためには、市民組織から提出された要望書でも要請されていたように、私たち市民社会が協力していくことが重要となると考えます。

 アフリカの開発・国際協力に関わっていく上で、私たちは「人間の安全保障」とは何かという具体的なイメージを持ち、現地の地域社会との関わり方を考えることが重要であります。そこで、「人間の安全保障」とは何かを問い直し、NGOの紛争後アフリカ地域社会における支援活動を通じて、参加者が「人間の安全保障」の確保のために自身がどう関わることができるかを考えるため、本勉強会を企画致します。

《企画目的》

対象:アフリカ地域社会における人間の安全保障および紛争後平和構築に向けた取組みについて関心のある高校生、大学生、大学院生、社会人。

企画目的:

【企画目的】

  1. 「平和と安定の強化」に関するTICADの議論を背景に、アフリカの紛争後社会に対する具体的な支援活動と、現地の人々の「安全」とは何かを知る。
  2. 人間の安全保障の多面的な概念を整理し、アフリカ地域社会と自身との関わり方を考える上で、重要となる観点は何かを考える。
  3. アフリカ地域社会と参加者自身との関わり方を再考し、行動に結びつける。

 

 ※ 第13回勉強会で考えた「アフリカにおける国際協力と私の関わり」から一歩踏み込み、人間の安全保障という観点から関わり方を再考する。

 

《イベントプログラム》

【日程】2019年11月3日 13:00~17:00

【場所】関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1004教室

【イベントプログラム】

1.オープニング

2.イントロダクション

3.第一部:秋葉氏による基調講演

4.第二部:栗栖氏による基調講演

5.第三部:グループディスカッション

6.クロージング

7.ネットワーキングタイム

《ゲスト》

・秋葉光恵 氏

NPO法人アクセプト・インターナショナル事務局長

London School of Economics and Political Science(LSE) 開発学修士課程修了。社会的弱者のエンパワメントはじめ心理学的アプローチによる社会変革と質的調査が専門。学生時代からWorld Summit of Nobel Peace Laureatesへの日本代表としての参加、バングラデシュ・グラミン銀行でのインターンなどに取り組む。新卒で独立行政法人 国際協力機構(JICA)に入構。学校現場における国際理解教育やSDGsの普及啓蒙活動にも携わる。2018年11月より現職。

 

栗栖 薫子

神戸大学大学院法学研究科教授

上智大学外国語学部(国際関係論副専攻)、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で国際関係論を学ぶ。東京大学大学院総合文化研究科国際関係論専攻・修士課程修了、東京大学大学院総合文化研究科国際関係論専攻・博士課程単位取得退学、ケンブリッジ大学国際問題研究所・客員研究員。2006年に大阪大学より博士号(国際公共政策)。九州大学大学院比較社会文化研究科・助手、神戸大学国際文化学部准教授、大阪大学大学院国際公共政策研究科・准教授を経て、2009年10月より神戸大学大学院法学研究科教授。東京大学大学院総合文化研究科・客員教授。専門は国際関係論。研究テーマとして、人間の安全保障や非伝統的安全保障問題、防災や減災における企業の社会的責任、日本の国連外交、国際制度論など。

 


【開催報告】

《オープニング》
  • 久木田氏より開会のご挨拶
  • ゲスト紹介
  • 秋葉光恵氏
  • 栗栖薫子氏

▲ 司会は、国連フォーラム関西支部の纐纈が務めました。

  • イントロダクション(企画背景や目的について)

 冒頭のイントロダクションでは、国連フォーラム関西支部の岡崎が、「人間の安全保障」についての基礎知識の紹介をしました。

 「人間の安全保障(Human security)」とは、「人びと一人ひとりに焦点をあて、その安全を優先するとともに、人びと自らが安全と発展を推進することを重視する考え方」(緒方貞子氏)のことです。グローバル化・相互依存化が深まる現代において、従来の国家を中心に据えたアプローチでは不十分になってきており、「人間」に焦点をあて、様々な主体及び分野間の関係性により横断的・包括的に捉えることが必要です。  今年8月に開催されたTICAD7や、持続可能な開発目標(SDGs)においても、人間の安全保障の概念は反映されています。

《第1部 秋葉光恵氏の講演

第一部では、秋葉氏に所属するNPO法人アクセプト・インターナショナルの活動内容や、テロやギャングが発生する背景とその解決アプローチを「人間の安全保障」の観点に照らしてオンラインでご講演いただきました。

  •  「~テロと紛争の解決に向けて~ NPO法人アクセプト・インターナショナル  加害者とされる側を受入れる取り組み」 秋葉光恵氏

 

 世界で起きるテロのうち、90%以上が紛争地で発生していると言われ、過去20年間でテロの件数は約12倍、死傷者は約6倍に上っています。その背景として考えられるのは、1990年代以降のイスラム過激派組織の台頭です。ソマリアでは、イスラム過激派主義アルシャバーブの支配領域が拡大し、単発爆破テロ史上最悪の死者580名を出したテロが発生し、戦争宣言が出されました。

▲秋葉氏による講演の様子

 しかし、テロの解決は従来の政府軍対反政府軍という構図の対立よりも難しいとされています。その原因は、イデオロギー的なバックグラウンドの違いが大きいこと、徹底抗戦を望むのでグループのトップ同士の対話が困難であること、テロ組織は組織体制がアメーバ状に広がっているので、トップダウンアプローチの効果が限定的であること、などが挙げられます。これに対して国際社会は未だ有効なアプローチを見いだせておらず、取り組むNGO・NPOは少ないのが現状です。

 そのような状況の中、「排除するのではなく、受け入れる」をコンセプトにテロと紛争の解決に向け、活動しているのが、NPO法人アクセプト・インターナショナルです。①過激化させない(テロに参加する人を増やさない)②脱過激化・社会復帰をさせる(元々テロ組織に所属していた人が社会参加できるようにする)の二つの活動から、テロ組織の人的資源を減らしテロ解決のための好循環を生み出すことを狙いとしています。

 本日は、その中でもケニア事業部での活動を中心にご説明します。

 ケニア事業部では、「ギャングを社会改革のリーダーに」をコンセプトに活動しています。世界的難民受け入れ国であるケニアでは、隣国のソマリアから多くの難民が流入しており、現地で生計を立てています。しかし、イスラム過激派主義アルシャバーブの影響から、ソマリア人=テロ主導者であるとのレッテルを貼られ、地域社会から差別を受けており、怒りや孤独感からギャングとして活動している若者が多く見られ、薬物や強盗・窃盗を起こし、社会との不和が発生しています。

 これに対し、当団体では、カウンセリングや薬物更生プログラム、就労支援などさまざまな活動を通して、ギャングを脱過激化させ、平和構築のリーダーへと変えていこうとしています。中でも主軸においている活動が、「意識改革プログラム」です。ここでは、自らを取り巻く問題について解決策を議論し、どうしたらその問題が解決できたのか、アクションを通して考えます。

 また、差別や社会的断絶から生じる絶望や孤独感からギャングの集団に加入してしまう若者も多いことから、ギャング以外のアイデンティティを形成することが大切で、当会では、ギャング集団の解体式やフットボールチームの結成を行っています。

秋葉氏からご講演いただいたあと、国連フォーラム関西支部から二点質問をさせていただきました。

Q.ギャングの若者などのエンパワーメントを行う上で、気を付けていることは何ですか?

A.彼らに上からの更生を行うのではなく、あくまでも彼ら自身の自発的な気づきに基づく、内からの更生を行なうことを目指すことです

Q.私たちがテロと紛争を止めるためにできるアクションは何ですか?

A.今すぐにできることではないかもしれないが、問題分析をもっと行うことです。紛争と一口にいっても、一つ一つの紛争で背景は異なりますし、そこに暮らしている一人一人の事情は異なるものです。机上の空論で議論せず、しっかりと内情を分析することが大切です。また、実行できる具体的なアクションとしては、NPOへの協力などがあります。当会においても、ボランティアやメンバー、アンバサダーといった制度が存在しています。

会場からの質疑応答では、ギャングの構成員における男女の差が指摘されました。秋葉氏はギャング集団に女性の構成員はほとんど存在せず、表立って活動している人の99.9%以上が男性であると回答し、同世代の女性はおそらく家の稼業を行なっており、インフォーマルな形式での雇用が行われていると言及されました。また、就労支援活動を行っているが、プログラム修了後はどのような就職先で働いているのか、という質問も上がりました。秋葉氏は、ケニアの就労率は6割と、元ギャングでなくても職を得るのが難しい状況の中で、元ギャングの方が初めの職に就き、違法な手段をとらずに生活ができるようにするのを意識していると踏まえた上で、生計を立てるための具体例として、地域の商工会議所のような場所やスマ―トフォンの修理の職(アクセプト・インターナショナルの就労支援にスマートフォンの修理スキル講習がある)などが挙げられました。

《第2部 栗栖薫子氏の講演

第二部では、神戸大学大学院法学研究科教授である栗栖氏より「人間の安全保障」の理論的概念と、実際の国際協力の現場において、どのように人間の安全保障の考え方に基づいたアプローチが行われているかついてご講演いただきました。

  • 人間の安全保障の概念について」 栗栖薫子氏

 はじめに、人間の安全保障と人間開発の関係について説明します。人間開発において、人の成長志向というのは、右肩上がりに上がっていくものでありますが、成長志向が下がってしまう局面というのが存在します。そうしたダウンサイドのリスクに対して、どのようにアプローチをするのかが、人間の安全保障であり、コインの両面として、人間開発を下支えするものなのです。

 1990年代半ば、旧ソ連地域、アフリカなど世界で紛争が多く発生しました。その際になぜ武力紛争が起きてしまうのかといった議論や、それに対応するためには開発アプローチが大切であり、”人々”に焦点をあてて考えることが必要であるとの主張がなされました。そのような考え方のもと、1994年に国連開発計画から出されたのが、「人間開発報告書」です。ここでは、人間の安全保障の7つの側面が示され、これ以後、多くの研究者や政府などが人間の安全保障という言葉を使うようになりました。

                             

▲栗栖氏による講演の様子    

 2003年には、日本のイニシアティブで「人間の安全保障委員会報告書」が提出されました。そこでは人間の安全保障とは、「人間の生にとってかけがえのない中核部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定めています。人間の安全保障については三つの重要な観点があります。一つ目は、「欠乏からの自由」です。これは、職業があることや最低限の食料があることです。二つ目は、「恐怖からの自由」です。これは武力紛争下での人道的サポートや、迫害を受けないことなどが該当します。三つめは、近年重要であると言われている「尊厳を持っていきる自由」です。文化や宗教、多様な側面からの尊厳をもっていることがこれに当たります。「尊厳を」の解釈は、Caring and waitingという立場もあり多様な考え方があります

 人々の「保護」と「エンパワーメント」のためには、上記で述べた3要素を考慮して、状況が悪化する危険性にきめ細やかく配慮する必要があります。さらに”人々”を中心に安全問題を捉え政策的考慮の対象とすること、「最も脆弱な人々」に焦点を当てること、個人だけでなくコミュニティーも対象とすることに加え、分野横断的な対応をすることが重要です。

 この報告書を受けて、日本では、ガイドラインを策定し、人間の安全保障の考え方を政策レベルに落とし込んでいきました。その一つが2005年の日本のODA中期政策です。ここでは、”人々”を中心に据え、”人々”に確実に届く援助をする、地域社会を強化する、人々の能力開発を重視するなどが定められています。

 2012年には国連総会において人間の安全保障決議が取られ、人間の安全保障の定義について、包括的で、文脈に応じた予防的な対応をすること、平和、開発及び人権の相互関連性をもつものであること、政府の第一義的責任があるものであること、などで加盟国間での共通理解が図られました。現状、国連において各国政府がそれぞれの政策として人間の安全保障を履行することを強制する力はなく、NGOを含め他のアクターも同決議に拘束されるわけではありません。これからの報告書を参考に、それぞれの組織や個人にとって、どのような行動指針につながるのかを検討する必要があります。

 NGOの活動とは、現地の人々に直接届く活動であり、人間の安全保障の考え方は、NGOにとって当たり前であることが多く含まれます。しかし、JICA研究所プロジェクトによるあるNGOへの聞き取り調査においては、「NGOsは普段は特定の問題に取り組んでいる。人間の安全保障は包括的なアイディアであり、それまで個別に扱われてきたような。本来は関連するすべての問題をあわせて考え直す機会を与えている」と人間の安全保障の考え方がNGOに及ぼす有益性を示唆しました。

 国際紛争やテロなどの解決には、アクターの動機や国家の政治・経済・社会、グローバルな構造など、複雑な要因とプロセスの理解が必要であり、非常に複雑で重層的に重なり合っています。

 会場からの質疑応答では、人間の安全保障の概念をめぐり国家間で論争が行われた際、カナダは発信力が強く、ネットワーク構築も上手だったが、日本は発信力が弱かった。という説明があったが、その背景にはどのような違いがあるか、という質問がなされました。栗栖氏は、「カナダは関心を持ちそうな諸国に働きかけて、一緒にアジェンダを掲げて世界的にアピールするのが上手です。対して日本は、近年は力が上がってきたように思われますが、市民社会との連携が弱いです。日本語中心の社会であり、日本の中で意見が完結してしまい、国際社会へのアピール力が足りなかったと思われます。」と述べられました。

続いて、他国では尊厳をもって生きる自由は、法の分野でどのように定められているのか、他国ではどのような政策的アプローチがなされているのか、という質問がなされました。それに対して栗栖氏は、「尊厳をもって生きる自由をどう捉えるかにもよるが、社会でどのように実現していくのかという点では、それぞれの社会に根ざした安全保障の形があります。必要なのは人間の安全保障という言葉ではなく,人間の生活がどのように保障されているのかというのが重要であります」と指摘されました。

《グループディスカッション》

今回のグループディスカッションでは、参加者がさらに理解を深め、自分たちの関心分野において、どのように人間の安全保障の観点を取り込んで実践するかについて再考し、今後の行動指針に役立てることを目的にワークを行いました。まず初めに、参加者の方に一つご自身の問題関心のあるテーマを選んでいただき、その問題に対して、どのような”個人”の脅威があるのか、人間の安全保障の多角的な視点から分析していただきました。その後、現在ご自身が抱いている問題に対するアプローチについて、4人程度のグループで共有していただき、そのアプローチについて、人間の安全保障の「恐怖からの自由」「欠乏からの自由」「尊厳を持って生きる自由」の観点から分析していただき、参加者の挙げたアプローチをさらに深めたり、今まで見落としていた観点はないか議論しました。そして最後に、各グループから代表者一人が、グループディスカッションをする中で、人間の安全保障の観点で意識した点や新たな気づき、感想などを全体に共有していただきました。以下に参加者の声として各グループの代表からの発表を報告させていただきます。              

▼グループディスカッションの様子

A班

 グループディスカッションを通して、自分の抱いていたアプローチがさらに深まったので良かったです。私は、紛争地域でのジェンダーにおける経済的脅威について興味があり、紛争地域には力仕事が多く、女性は職に就くのが難しいのではないかという疑問を抱いていました。班の中で議論し、女性が職に就くには、スキルトレーニングが必要ではないか、という意見が出ました。また、このスキルトレーニングを国家レベルでのプロジェクトにすることもできるし、スキルトレーニングをする以前に、もっと教育が必要な人もいるかもしれないので、そこにアプローチすることも可能です。職を得るという点で色々なアプローチ法があることが分かりました。

B班

私は、アフリカについてあまり知らなかったが、B班では子ども兵や紛争地区での教育・いじめの問題について話し合いました。日本ではいじめが発生しているが、逆にアフリカではみんなが団結していていじめなどは少ないのではないかという意見も出て、日本とアフリカの違いが見えてきました。また、NGOの活動がロールモデルとなって、国連の活動につなげられるのではないかと思いました。

C班

 C班では、アイデンティティに焦点をおいた話合いをしました。ネガティブなアイデンティティをいかに、ポジティブなアイデンティティに変換していくかという話で、社会に認められる、というのが大きな効果をもつのではないかと思いました。また、ギャングが自分自身の意見を政府や社会に届けることができる環境を整備することも、”社会に認める”という過程のなかで重要なアプローチではないかと思いました。

《クロージング》

講評

最後に、講演やグループディスカッション、その後の意見共有を踏まえ、国連フォーラム共同代表の久木田氏とゲストの栗栖氏より講評を頂きました。

 久木田氏は、「今回は、加害者と言われるギャングの尊厳について考え、イノベイティブな活動を行っているアクセプト・インターナショナルさんの話に加え、栗栖先生による先端な人間の安全保障の話があり、とても良い内容だったと思います。なぜソマリアのような地域ができてしまったか、その背景には、世界的な経済構造である資本主義の影響があります。資本主義のしわ寄せとして、ものが奪われた難民が発生し、そうした脆弱な環境にある人々は、今の社会や豊かな世界に対して憎しみを抱き、そのような社会を壊そうとしてテロという行為を取ります。複雑に絡み合う問題がグローバルな視点で議論されていて良かったです。」と述べられました。

 また、栗栖氏は、「ソマリアは世界から最も見放された国です。そうした社会の中でギャングは生まれ、彼らもまた地域から見放された人たちです。人間の安全保障について考えるとき、加害者の保護も考えるというのは、とても良い話であったと思います。社会復帰にはやはり、一人の人間として認められることが重要であると考えています。また、テロ組織に所属する末端の人たちは、単身者であったり、祖国から離れて暮らしていて、周りに友人がいなかったりと、社会から疎外されている人たちがとても多く、友達を求めて加入してする人もいます。いかにして疎外感をなくし、社会復帰させるのかが重要であると思いました。」と述べられました。

 

《参加者の声》

本勉強会にお越し下さった皆様からは、多くのご満足いただいた意見を頂きました。本報告で、一部をご紹介させていただきます。

・たくさんの人のアフリカ・貧困などに対する価値観や考え方を聞けたので良かった。

・具体的な事例を知ることでケニアにおけるソマリア人の現状を知ることができた。また、問題構造を分析することが重要だと学んだ。

・人間の安全保障について新たな視点が学べた。

・あまり学校では、人間の安全保障について学ぶ機会がないので、今回で自分の人間の安全保障に関する知識をより深められたから良かった。

・とても貴重なお話を聞かせていただいた上に、ゲストスピーカーの先生方や参加者の方と話す機会がとても勉強になった。

 

 


この度「国連フォーラム関西主催『紛争後アフリカ地域社会で若者が紡ぐ未来
~人間の安全保障と私たちの役割~』にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

最後に、多くの方のご協力で、今回のイベントを開催することが出来ました。ご協力してくださったゲストの方、参加者の方に厚く御礼をお申し上げます。

 

国連フォーラム関西支部のFacebookグループページホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!

キャリア勉強会 国連フォーラム関西特別企画 「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」

2019年10月22日実施

キャリア勉強会
国連フォーラム関西特別企画
「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」

開催報告

 

2019年10月22日(火・祝)に、関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1408教室にて、国連フォーラム関西特別企画「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】 

《企画背景》

2019年8月に世界人道デー記念勉強会が開催され、国連や国の援助機関が人道支援において果たす役割を確認しました。しかし、人道支援の現場で活躍するのは、国家機関のみならず、NGO・NPOなど民間セクターによる活動の役割も重要であることが確認されました。そこで、民間セクターによる人道支援の活動に着目し、その役割や様々な人道支援の関わり方を学ぶため、本企画の開催を決定しました。

 また、国連フォーラム関西では学生やユース層の会員が多く、様々な組織でのご経験をお持ちの井上さんをお呼びするにあたって、国際協力のキャリアについて知る機会を設け、参加者のキャリア形成の一助となることを願って開催致しました。 

《企画目的》

1.人道支援における民間セクターの活動や、その役割を知ることで、様々なアクターの人道支援の関わり方について理解を深める。

2.人道支援における国際社会の議論を知り、その実現に向けてどのような活動や議論が行われているかを学ぶ。

3.国際協力分野のキャリア形成についてご紹介いただき、参加者がどのように国際協力分野におけるキャリアを形成していくかを考える一助とする。

《イベントプログラム》

【日程】20191022日 14001630

【場所】関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1408教室

【イベントプログラム】

  • オープニング

  国連フォーラム紹介、タイムライン説明

  • 第1部

- 講演  Peace Winds Japan 井上慶子氏/【シリア危機と人道支援】

  • 第2部

-【トークセッション】

【セクター間の人道支援の違いや共通点、NGOや国連などのキャリアについて】

Peace Winds Japan:井上 慶子氏

元UNICEF職員 :久木田 純氏

  • 閉会

 

《ゲスト》

井上慶子氏

【所属】Peace Winds Japan

 

【経歴】1986年 神奈川県生まれ。明治学院大学国際学部卒。神戸大学大学院国際協力研究科博士過程前期(経済学修士)、後期(学術博士)修了。専門は教育経済。2007年12月〜08年1月にシリアへ渡航。2015年にはヨルダンのシリア難民を訪問しインタビューを実施。大学院在学中、UNESCOアジア太平洋地域教育支局およびUNESCO-UISアジア太平洋地域教育支局(タイ・バンコク)、FHI360(米国・ワシントンDC)、UNICEFジンバブエ(ジンバブエ、ハラレ)でインターン。2016年9月 特定非営利活動法人PWJ入職しイラン、ハイチ、モザンビーク事業を担当。2017年1月 シリア事業に携わり現職。

 <パネリスト>

久木田純氏

【所属】元UNICEFカザフスタン所長、関西学院大学教授 及び 国連フォーラム共同代表

 

【経歴】1978年西南学院大学文学部英語専攻卒業。シンガポール国立大学社会学部留学(ロータリー財団フェロー)を経て、九州大学大学院で教育心理学修士号取得、同博士課程進学。1985年外務省JPO試験に合格、翌年から国連職員としてユニセフ駐モルディブ事務所に派遣され、駐日事務所、駐ナミビア事務所、駐バングラディッシュ事務所、ニューヨーク本部を経て、駐東ティモール事務所代表、駐カザフスタン事務所代表を歴任。2015年1月国連退官。2003年に世界銀行総裁賞受賞。2011年に東ティモール共和国勲章を受勲。


【開催報告】

  勉強会当日は、ゲストの方の講演とトークセッションの2部構成で行いました。

 ゲストは、Peace Winds Japanのç様をお呼びして、シリア危機と人道支援ついて説明していただきました。

 トークセッションは、元UNICEF職員の久木田さんにご登壇いただき、セクター間の人道支援の違いや共通点、そして関わりなど講演では聞ききれなかった部分や、NGOや国連などのキャリアについてもお話を伺いました。

《第1部 講演》
  • 講演①井上慶子氏/シリア危機と人道支援

  • 【講演要旨】
  •  

 井上さんが活動を行っているシリアでは、2011年を機に、今でも紛争状態が続いています。井上さんからは初めに、これまでのシリア情勢について説明をしていただき、長きにわたって人道危機が続いていることに言及されました。次に、PWJが行っている人道支援についてご紹介いただきました。

  PWJの人道支援では、主に食糧支援、給水支援、冬服配布支援、シェルター支援、学校修繕支援を行っています。

<食糧支援>

 PWJでは人道支援の段階に分けて2種類の食糧支援を用意している、と井上さんは述べます。1つは、人道危機から着の身着のまま逃げてきた人への「」。そして、人道危機から避難してきてしばらく経つ人へ向けた「General Food Bascket」です。避難してきた方々は、食糧、特に栄養価が高く現地での料理でもよく使うチーズなどを買うことが難しいため、少しでも栄養が得られるように栄養価の高いものが入っているそうです。Peace Winds Japanでは、生計手段の不安定によって収入が限られている人や、稼ぎ頭であった男性を亡くした家族、また経済的に脆弱な人々を中心に配布を行っていると井上さんは紹介しました。

<給水支援>

 井上さんが活動を行っているシリアを初めとした紛争地域では、空爆などによりインフラ設備が破壊され、人びとに水が届かないという状況が起こってしまう、と言います。そのような際に、Peace Winds Japanでは、給水タンクに水を補給し、人びとの生活に必要な水の支援を行っていることを紹介していただきました。

<冬服配布支援>

 冬服配布支援は、従来の先の2つの支援(食糧支援、給水支援)に加えて近年始まった支援だと井上さんは言います。Peace Winds Japanが人道支援のニーズを調査をした際、「欲しいけど買えないもの」として挙がったのが子ども服だったそうです。服は消耗品ではないので緊急支援の際に、必需品としての優先順位が低くなってしまいますが、生活の上で欲しいものとしての需要が高かったことが結果から分かった、と説明していただき、様々な支援のニーズがあることが分かりました。

 別のコミュニティに移動した避難民の方々は、服が汚れているため移住先のコミュニティで精神的に辛い思いをしてきたそうです。しかし、「きれいな服を着たことで、街をどうどうと歩けるようになり嬉しかった」と、実際に支援を受けた方から頂いた声をご紹介してくださいました。

<シェルター支援>

 避難民の方々は、避難先の地域よりも、自分たちの住み慣れた地域にいたいと思う人が多いことが、現場で活動をしていて感じる、と井上さんは述べます。「しかし、紛争で破壊され、住むには十分に安全な状態ではなく、住むに絶えないことが多くあります」と紛争地域の現状を述べ、「その人たちの家を直すことで、『生活再建の基盤となる場所をつくる』という目的を持った支援を行っています」とシェルター支援について紹介してくださいました。また、現地組織に委託を行い、現地の人々の収入源獲得にも役立てていることが、分かりました。

<学校修繕支援> シリアの3人に1人が学校に行くことができていないと言われており、「つまり、シリア危機が始まって8年間ほど学校に行くことができていない人がいる。」学校は、軍事目的や避難所として利用されており、なかなか授業が再会できない状況にある、と井上さんは述べます。この学校修繕支援は、「これから国を築いていく子どもたちが学ぶ場所を作る」という価値があると紹介してくださいました。 

 この他、Pecae Winds Japanでは、国連人口基金(UNFPA)と協力して、シリアから2人の子どもを広島に派遣し、子どもたちのグローバルリーダーシップと国際理解を深める目的で行っている事業があることを紹介していただきました。

 紛争が未だに続いており、街はがれきの山という状態ですが、そこで生きる人びとの姿勢が印象に残っている、と井上さんは述べます。「紛争の下で生きている人たちがたくさんいるんだ。だから、彼らを助けなければならない。」「シリアから離れることを選ばない。」「自分たちがシリアという国を作っていかなければならない。」


 NGOというキャリアでは、現場経験を積むのが一般的なキャリアステップアップだと言われています。しかし、井上さんは、これら現地の人びとの声や姿勢を見て、「自国のために頑張っている人がたくさんいる中で、自分のキャリアのために駐在することは正直考えられない。」と感じたそうです。この言葉に、井上さんの現地・現地の人びとに寄り添おうとする姿勢と、まっすぐな心、そして熱い想いを感じることができました。

 最後に、井上さんは今回の日本への岐路で、シリアの上空を通った際、シリアの街が空爆を受けたのを観たと述べました。
 「報道されないけれども戦火の中で生きている人がいます。また、紛争が終わっても、がれきの中で『自分たちは見捨てられるかもしれない』という恐怖と戦いながら必死で生活を送っている人がたくさんいます。皆さんにも日々、シリアの状況や人々を気にしてほしいと思っています。」

《トークセッション》

【パネルディスカッション】

Peace Winds Japan、井上 慶子氏と元UNICEF職員、久木田 純氏ご登壇いただき、セクター間の人道支援の違いや共通点、そして関わりなど講演では聞ききれなかった部分や、NGOや国連などのキャリアについてもお話を伺いました。

モデレーター:国連フォーラム関西 黒崎

黒崎  今まで久木田さんはどのような場所でどのような人道支援に関わってきたのでしょうか。

久木田 最初の赴任地であるモルディブでコレラが流行り、UNICEFとして支援を行ったのが最初でしたね。その後は、東京で1年ほど政府を相手に支援の交渉などに携わっていました。その他にも、ナミビアで帰還民の支援として、コミュニティ開発の仕事を行ったり、高波やサイクロンによるバングラデシュの緊急支援、インド洋で地震と津波が起こった際にはファンドレイジングのための政府交渉を行ってきました。

 このほか、久木田さんはUNICEFでの仕事を経験していく中で、緊急人道支援の現場には専門外の人が入ることは、迷惑になってしまう可能性があることから好まれないことや、危険な地域に脆弱な人が住んでいることが多いことが分かったとお話をしてくださいました。

黒崎  人道支援の際には、多額の資金を用意しなければならないと思うのですが、どのように資金調達を行っているのでしょうか。

久木田 人道支援の際に重要なのは、すぐに反応することです。国連では、コペンハーゲンに大きな倉庫を用意しており、緊急支援が必要な際には、ここから必要な物資を現場に送れるようにしています。国連では、これら人道支援に関する調達を国連人道問題調整事務所(UN OCHA)が中心となって行っています。UN OCHAが提供するリリーフウェブ(Relief Web)では、人道支援の情報提供を行っており、この報告にもあるように、すぐに使える支援と、その後に繋がる開発のための莫大な資金が必要です。

井上  多くは日本政府からの支援。国連からも協力を得て資金を貰って活動しています。募金サイトやReadyForなどでも資金募集を行っており、個人や企業から支援を貰っています。

黒崎  人道支援における、様々なアクターによる協力についてや、その際の役割分担を教えてください。

井上  OCHAがどこに、誰がいて何を行っているのか報告を集約し、支援の重複を防いでいる。より支援が必要な人に届くように、またUNDACが専門家を集めて人道危機の現場に派遣し、調査したものをNGOやパートナーに共有しています。国連内で、もともと誰が何を行うかは決まっています。これをクラスターアプローチと言います。比較優位(コンパラティブ・アドバンテージ)を観たうえで、決まっています。特に、NGOは現場に近いです。国連は全体の調整や資金調達、政府との調整を行っている。Humanitarian Coordinat(Resident Coordinator)が緊急支援の責任を追うことになります。

 給水支援は、他の支援団体が資金不足で撤退することを情報を得たため、PWJが支援を切らさずに、ギャップがないように支援をすることができました。特に、誰がどこで何をしているのかが分かる地図が重要だったと思います。

黒崎  どんなきっかけで、国際協力に関心を持ちましたか。

井上  ダイアナ妃がカンボジアの地雷原を歩いている姿を見て衝撃を受けました。ダイアナ妃のような仕事をしたいと思うようになりました。海外で苦しんでいる人、戦っている人がどのように過ごしているのだろう、では自分は何ができるだろうと考えて国際協力の道を志しました。シリアに行って、勉強に没頭しなければと想い、弓道部に入っていたが、辞めてシリアと学士論文に没頭していきました。

 中東の中でも女子教育に興味を持って、イエメンに学生派遣をしていた神戸大学を受験ししました。ウガンダにフィールド調査へ行き貧困層の教育状況についてインタビューをし修士論文を書き、ジンバブエに2年半ほど過ごし、博士論文を書きました。

黒崎  学生時代の勉強がどのように役に立っていますか。

井上  申請書を書く時に、「自分たちの事業がなぜ必要なのか、そしてやったことでどんな効果があるのか」を具体的な数値や指標を持って説明しなければならないが、その際のロジカル・クリティカルシンキングが鍛えられました。大学院で様々なバックグラウンドの方と勉強したことも役に立ちました。

黒崎  久木田さんに質問です。心理学はどのように役に立ちましたか。国際協力に関心をもったきっかけはどのようなことですか?

久木田 小さい頃は自然が大好きでした。その際に、自然や地球が危ないことに気づきました。まだ当時は国際系の学部がなかったため、世界にでるにはまずは英語だろう、と想い英語を勉強しました。「国際公務員への道」というような本があり、英語・修士号・2年の職務経験が必要なことを知り、シンガポール大学院へ進学を決意しました。その時バックパックで観た自然の危機を見ました。開発も世界の問題も、人間の心、人間の判断が影響していると考え、社会心理学を取りました。子どもが育つことが地球を救うのではないかと考え、UNICEFを志望しました。

【質疑応答】

道支援の場でも法整備の重要性や、社会保障システムの重要性を感じました。尊厳のためにしていること」というワードが出てきたが、心のケアはどのように行なっていますか。

心理ケアを専門にしている団体もあります。人道支援の場でも重要。人権の観点から心理ケアを行っています。

ー難民の子供支援は他にどのようなことをおこなっていますか。

 学校の数が足りなくなってしまうので、学校の修繕や増築支援を行っています。また、学校検診を行うことで栄養改善に役立てています。

 緊急支援の際に、教育は後にされがちだが、教育を早めに取り入れることで心理ケアになっています。学校などで、レクリエーション(絵や音楽)を通して自分が経験したことを分かってもらう練習などを行う心理ケアに繋がります。

 避難生活が長いと、親も何もできないことで精神的ストレスを抱えます。そうなると、家族中に影響が出てしまします。親と子どもを話してあげる時間も必要です。親も、自分たちの生計を立て直す事もでき、開発につながるに繋がります。

ー日本政府からの資金はどのような種類になりますか。

 緊急援助のための資金、NGO連携務所から開発向けの資金があります。プロポーサルを出して、審査委員会で自分たちの支援の必要性や効果などを説明することで資金が与えられます。

ー長期化すると受益者が支援に頼ってしまうと聞いたのですが、そのさいに気をつけていることはありますか。

 事業計画をするうえで、いかに支援する人たちを巻き込むか考えています。人道支援の後に、自分たちで生計が立てられるように農家の自律支援を行っています。

 内発的動機付けが重要です。外から与えられるものを減らし、Sense of Ownership/自分たちが考え選んで行う機械を増やし、参加の機会を増やすなどすることが、人道支援のみならず開発でも重要な問題になっています。

《参加者の声》

参加者の皆様からのアンケート結果を一部抜粋してご紹介致します。

 – シリア中東でのお話やネットワークのことお話聞けてよかったです、ありがとうございました

 – 若い時に学生時代に、もっと国際社会に目を向けて外国をたくさん知ればよかった。この年齢からできることを知るために学んでゆきたい。

 – 若い時に学生時代に、もっと国際社会に目を向けて外国をたくさん知ればよかった。この年齢からできることを知るために学んでゆきたい。

 – 人道支援について学べただけでなく、井上さんのシリアでの取組に対する熱意を感じることができたから。

 – 現場のリアルの一端を知れた。子どもの教育を確保することが大事だとわかった。今でも攻撃に晒されている場所で暮らしている人の事を少しでも知ることができた。


この度「国連フォーラム関西特別企画

「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」にご参加いただいた皆さま、

誠にありがとうございました。

今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、

次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

 

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。

今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

 

国連フォーラム関西支部のFacebookグループページホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!

世界人道デー企画:自然災害に伴う人道危機の現在

世界人道デー企画「自然災害に伴う人道危機の現在」~脅威に立ち向かうOCHAとJICAの活動とは~

2019年 8月11日  実施

世界人道デー企画「自然災害に伴う人道危機の現在」
脅威に立ち向かうOCHAとJICAの活動とは

開催報告

8月11日(日)に、関西学院大学大阪梅田キャンパスにて、『世界人道デー企画「自然災害に伴う人道危機の現在」〜脅威に立ち向かうOCHAとJICAの活動とは〜』を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】

《企画概要》
日時 2019年8月11日(日)13:00~17:00
場所 関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1004教室
共催 国連人道問題調整事務所神戸事務所、独立行政法人国際協力機構関西センター、国連フォーラム関西支部
ゲスト

・吉田明子 氏
2007年 国際連合人道問題調整事務所(OCHA)入職。2018年11月 OCHA神戸事務所 所長就任。アジア太平洋地域事務所、ニューヨーク本部、 フィリピン事務所、組織変革実施チーム、機関間常設委員会(IASC)事務局、各国での人道支援を経た後、現職に就任。

・金塚匠 氏
2017年4月 JICA地球環境部 環境管理グループ 配属 2017年8-10月 JICAタイ事務所 OJT 2019年5月 JICA関西 業務第一課 異動 学生時代は土木工学、特に都市洪水に関する研究し、洪水解析モデルの最適化問題に取り組む。 JICA地球環境部ではタイ・カンボジア・スリランカの環境問題(気候変動・廃棄物・下水道)に関する技術協力事業を担当。 JICA関西センターでは農業・都市交通・交通安全・災害復旧等に関する研修事業を実施中。

内容 1.オープニング
2.イントロダクション
3.講演
4.質疑応答
5.個人ワーク
6.グループディスカッション
7.意見の共有
8.クロージング
9.ネットワーキングタイム
《企画背景》

 人道に関する問題が大規模化・長期化・複雑化していることから、人道支援ニーズが国際社会で急速に高まっています。紛争及び自然災害が原因で、2018年には148の国と地域で新たに約2,800万人が被害を受け、世界で人道支援を必要とする者が1億3000万人以上存在しています(2019年4月現在 OCHA)。さらに、2018年に新たに発生した自然災害による国内避難民は、紛争を起因とする避難民よりも多い約1,700万人であることから(IDMC 2019)、自然災害も今日における人道危機を生み出す大きな原因の1つであると言えます。

 第49回世界経済フォーラムでグテーレス国連事務総長が、「人類が現在直面する最も重要な課題は気候変動である」と強調したように、気候変動や自然災害がグローバルイシューとして国際社会で活発な議論が近年交わされています。特に地球温暖化防止の国際枠組みであるパリ協定が本格的に始動する前年である2019年は、パリ協定加盟各国を集めて地球温暖化対策を議論する気候サミットが開催されるなど、非常に重要な年です。

 そこで、本企画では特に「自然災害」に着目し、自然災害に伴う人道危機の課題に関して、国連及び政府開発援助の実施機関の活動を発信することで自然災害と人道問題について参加者の関心を高めることを目的としています。

 

《目的と到達目標》
  1. 「人道への課題 Agenda for Humanity」、中でも「人道支援のニーズを減らす」こと、さらには支援ニーズを減らすために、人道危機の影響を受けやすく、かつ見落とされやすい女性や子ども、難民・避難民のような脆弱者に目を向けることが不可欠であるため、今回のテーマである自然災害に伴う人道危機に脆弱である人たちへの理解を深める。
  2. 人道危機・支援の事例に基づく議論を通して、人道支援の包括的なアプローチについて理解し、参加者が自身の関心や専門と照らしながら、自分にできる関わり方を考える。
  3. 現在の日本においても自然災害が脅威となっている現実から、将来の持続可能な社会の実現のために、世界で深刻化する自然災害と人道危機を「自分事」のように捉え、当問題解決に向けて自分なりの考えを発信できるようにする。

 

【開催報告】

 オープニング
  • 久木田氏より開会のご挨拶
  • 共催団体紹介(OCHA神戸、JICA関西、国連フォーラム/国連フォーラム関西)
    • OCHA神戸
       国際連合人道問題調整事務所(OCHA)は、自然災害や紛争によって人道危機に晒された人々の生命と尊厳を守るため、国際的な人道支援活動を調整しています。支援を必要とする国ごとに様々な人道ニーズや優先順位を把握し、包括的かつ戦略的な対応計画を取りまとめる作業を担当するのがOCHAの役割です。すべての人が、すべての人のために、効果的で、人道支援の基本原則に則った活動を行うことを推進しています。

       OCHA神戸事務所は2002年に設立され、日本政府や国内外の人道支援団体と連携を強化することで、主に海外での緊急人道支援活動やそのための備えをサポートしています。また、OCHAの、日本におけるスポークスパーソンとしての役割も担っています。
    • JICA関西
       国際協力機構(JICA)は、「信頼で世界をつなぐ」をビジョンに掲げ、開発途上国への国際協力を行う日本のODA(政府開発援助)実施機関です。技術協力や、有償資金協力、無償資金協力、民間連携や市民参加協力、国際緊急援助など様々なメニューでODAを実施し、開発途上国が抱える課題に取り組んでいます。

       JICA関西は、「途上国と関西を信頼でつなぎ、ともに『持続可能な開発目標(SDGs)』の達成に貢献します」をミッション・ステートメントとし、防災をはじめとする関西圏の多彩なリソースを生かした研修事業や民間企業の途上国への海外展開支援、市民参加協力事業など、地域と途上国を元気にする国際協力を推進しています。

 

  • ゲスト紹介

▲ 司会は国連フォーラム関西支部の黒崎が務めました。

 本企画では、ゲストとしてOCHA神戸より吉田明子氏、JICA関西センターより金塚匠氏をお迎えしました。
 吉田氏は、2007年に国際連合人道問題調整事務所(OCHA)入職され、2018年11月から現在においてOCHA神戸事務所 神戸事務所長に就任されました。
 金塚氏は、2017年4月 JICA地球環境部 環境管理グループに配属され、2019年5月から現在までJICA関西 業務第一課 国際防災研修センターに所属されています。

 

  • イントロダクション(企画背景や自然災害と人道危機の関係性について)

 冒頭のイントロダクションでは、国連フォーラム関西支部の森田が「自然災害と人道危機」の関係性やその概要について地球温暖化の問題を交えながら、説明を行いました。

▲ イントロダクションでの紹介は、国連フォーラム関西支部の森田が務めました。

 世界人道デーは、2005年8月19日を「人道支援を必要とする人々や、支援に携わる人々について考える日」として国連総会にて定められています。①進行する地球温暖化に伴う自然災害の暴力化、②世界で強制移住(displacement)を生み出すなど、自然災害が深刻な人道問題にまで発展していること、③近年日本においても自然災害が猛威を振るう事態が挙げられることより、今回の世界人道デー企画では「気候変動と人道支援」に焦点を充てて開催することとなりました。

 IPCC第5次報告書では、産業革命期と比較して、世界の平均気温が既に約1℃上昇しており、最も地球温暖化が進行した場合、2100年までに最悪で約5℃度上昇すると発表しています[1]。また、国連は気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする目標を掲げていますが[2]、2018年IPCC特別報告書は、2030年に1.5℃の上昇を達成する可能性があると指摘しています[3]。さらに地球温暖化によって海水温が上昇し、最大風速54m/s以上の強い台風の発生率も高くなる[4]と予想されています。

 様々なリスクが進行する地球温暖化によって表面化してきます。平均気温1℃の上昇が熱波や洪水などの異常気象による被害を増加させるとも言われており、実際に、世界の自然災害の発生数も1980年から2018年までに右肩上がりの状態である[5]など、気候現象や風水災害の気象に関連する自然災害は増加しています。また、2018年に新たに発生した国内避難民の要因は、紛争/暴力よりも、自然災害が原因で避難する人が多いと報告されています[6]。このように自然災害は、今日における人道危機を生み出す大きな原因であると言えます。

 昨年を象徴する漢字に「災」が採用されたように、日本も2018年は災害の脅威を目の当たりにする年となりました。西日本豪雨や台風21号などが原因で、2018年の自然災害による農業被害額は、東日本大震災があった2011年に次ぎ、過去10年で2番目の5,679億円でした[7]。今後も自然災害が増加することで、強制移住、ジェンダーによる暴力行為、家族の離散、雇用問題[8]など複数のリスクが国内外で多発することも考えられます。自然災害による人道危機の悪化を最小限にとどめるためにも、人道への課題(Agenda for Humanity)4「届ける支援から人道ニーズ解消に向けた取り組みへ」が重要となってきます。


[1] IPCC 第5次評価報告書 第1作業部会[http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_overview_ presentation.pdf]
[2] 2015年パリ協定第2条1項(a)
[3] IPCC 1.5℃特別報告書 詳しくは環境省HPを参照。[https://www.env.go.jp/press/106052-print.html]
[4] 当銘寿夫(2019)「当たり前になっていく『異常気象』地球温暖化は誰が止めるのか」『Yahoo!ニュース 特集』ヤフー[https://news.yahoo.co.jp/feature/1337]
[5] Munich Re, Loss event worldwide 1980-2018. As at August 2019.
[6] Internal Displacement Monitoring Center (IDMC). 2019. DRID 2019 Global Report on Internal Displacement. p.1.
[7] 平成30年農業白書より。
[8] 自然災害時における人々の保護に関するIASC 活動ガイドラインより一部抜粋。[https://www/brrokings.ed/wp-content/uploads/2016/07/0106_operational_guidelines_nd_japanese.pdf]

 

 講演

講演では、各機関のレジリエンスの強化や開発援助など、自然災害に伴う人道ニーズ解消に向けた取り組みについて話して頂きました。

「自然災害による人道危機 ~早期緊急対応に向けて~」 吉田明子氏

 国連機関の中で、人道問題で大きな役割を担う国連人道問題調整事務所(OCHA)の吉田明子氏によるご講演を頂きました。

▲ OCHA神戸 吉田明子氏による講演の様子。

 はじめに、OCHAの組織について、そして人道支援資金の最近の試みについてお話を頂きました。OCHAは、国連総会決議46/182のもとに設立された国連機関です。国連による緊急人道支援の調整機能の強化を目指しており、支援の調整、アドボカシー、情報管理、資源の動員、政策支援の5つを主軸に活動されています。

 緊急支援のための資金である中央緊急対応基金(CERF)は、大規模な自然災害や紛争が発生した際に、ドナー等からの資金が届くまでの空白期間を埋めるため、緊急人道支援の初期財源として補填することで、被害の発生や拡大を最小限に抑えることを主な目的にしています。各国ドナー等から拠出金を集め、被災者のニーズに応じて、国際機関や援助機関の実施する人道支援プロジェクトに配分しています。

 自然災害の対応には年間15億ドルの人道支援資金が必要と言われますが、必要な資金と予算には大きな開きが存在しており、年々そのギャップは拡大しています。そこで、CERFの資金規模を拡大することによって、このギャップを埋め、さらに、予測される危機に対して早期に対応を行う資金を提供できないか、という案が持ち上がっています。

 干ばつによる食糧危機などが、今日においてモバイルデータの通信量、土壌の状態、栄養失調率などの統計的手法によって、発生の予測可能性が高まっていることから、あらかじめ事前投資することで、危機的状況を回避、あるいは自然災害が発生した際の被害を最小限に留められることも期待できます。また、グテーレス国連事務総長が世界の人道ニーズに応じるために、CERFへの拠出を10億ドルにまで拡大させることを提案しました。これに対して国連加盟国を含め幅広い支持や賛同の声が表明されるなど、CERFの意義は大きいことが分かります。

 実際に2017年のナイジェリア、南スーダン、ソマリアにおける飢餓や2018年サヘル地域おける干ばつに対して、CERFによる早期対応が実施され、その効果も認められています。しかしながら、吉田氏はCERF自体の課題も複数挙げられました。課題には、国連総会の総意、アーリーアクションの定義が曖昧なため、資金提供の決め手が見つかっていないなどが挙げられます。CERFの運営は他団体のコンセンサスが必要であるため、優先順位や金額などの合意の難しさを述べられておられました。

 

「気候変動と自然災害分野におけるJICAの協力」 金塚匠氏

一国の政府組織として、そして日本として行う人道支援について、国際協力機構(JICA)関西センターの金塚匠氏によるご講演を頂きました。

▲ JICA関西 金塚匠氏による講演の様子。

 はじめに、金塚氏の所属するJICAについてのご紹介を頂きました。「JICAは、ただ良いことをするばかりでなく、外交上の手段の一環として、途上国にも日本にもいい影響をもたらすことを目指して事業を行っています」と述べ、2015年に閣議決定された開発協力大綱や独立行政法人国際協力機構法などの基盤となる政府の決定や法律ほか、SDGsなど様々な国際社会の流れを組んで活動を行っている、という国際協力を実施する国の組織としての特徴を紹介していただきました。

 金塚氏は、気候変動は経済活動が大きい先進国のみならず、途上国を含むすべての国が取り組まなければならない問題として認識され、パリ協定という国際枠組みが定められたことや、IPCCの1.5℃特別報告書によると、産業革命以前と比べて気温が上昇しており、2030年から2052年の間には1.5℃上昇することが確からしいと議論されていることを紹介してくださいました。

 このような深刻な気候変動問題に、どう取り組むのか。金塚氏は、2つの方法があると指摘します。第一に、温室効果ガスの排出を減らす緩和策です。再生可能エネルギーの利用や運輸交通、廃棄物管理や農業・畜産業における工夫、森林管理や植林などによりCO2の排出を削減する方法があると述べます。第二に、気候変動の負の影響に備える適応策です。気候変動による自然災害に備えた防災の実施や品種改良など農業分野における工夫、生態系保全や水資源開発、感染症対策等が挙げられます。適応策については、特に途上国が関心を寄せており、JICAも気候変動対策の支援に貢献していると述べられました。例として、バンコク都に対して日本(特に横浜市)の知見を共有し技術移転を行ったり、インドの鉄道建設による公共交通機関への転換で渋滞・車両の減少を通じたCO2削減、また、ベトナムへの資金協力および制度構築の支援や、ラオスに対する気象システム設置の支援を通じた防災協力などをご紹介いただきました。

 自然災害に伴う経済的損失が近年増加しており、その一因は気候変動にあると金塚氏は紹介します。また、それらの影響を受けやすい人は貧困層の人々であり、これらの人は、自然災害に脆弱な場所に住まなければならず、被災しやすく、貧困によりさらなる二次被害を受けやすい状況にあると言います。

 「日本は、支援国の中でも特に自然災害に関する知見があるため、防災分野に関しては日本がリードしています。とりわけ過去20年の二国間協力ではトップドナーとなっています。」JICAでは、様々な事業に防災の知見を取入れ開発協力を行っていると金塚氏は述べます。例えば、タイでの地下鉄建設の際に入口の高さを上げることで、2011年の大洪水の影響を受けることなく地下鉄の運用に成功し、フィリピンでの病院建設の際に沖縄の構造物の特徴を取り入れた設計することで、台風に強い病院運営ができるようになった事例、また、ミャンマーの小学校の建設の際に、1階部分ではなく2階に教室を設置することでシェルターと学校の両方の機能を兼ね備えることができるなどの様々な成功事例を紹介してくださいました。また、JICAでは、脆弱な立場にある女性に対する避難ワークショップの実施や、障がい者を巻き込んだ防災計画の立案、研修の実施を行っていると言います。さらに、緊急時にすぐに資金協力ができる備えを行っており、保険の仕組みの提供や、植林や自然環境保護のための支援も行っていると述べます。JICAでは日本での経験を踏まえて、海外の人道問題、特に災害に関する分野での協力を行っていることが、金塚氏の紹介で学ぶことができました。

 

質疑応答

 質疑応答では、被災地における性暴力の防止やサバイバーへの支援について質問が挙がりました。吉田氏は、被災地の不安定な状況下では様々な事件が発生しやすい傾向にあることを言及したうえで、これに対して、専門領域の国連機関は、早期に対応できるよう開発の分野で、制度の構築やサバイバーへの支援などに取り組んでいることをご紹介いただきました。

 具体的にどのような日本の知見を海外に伝えているのか、そして国内の災害支援や対策に貢献していることはあるのか、という質問に対して、金塚氏は、JICAでは、被災者の心のケアに関する知見や、インフラへの事前投資によって災害のリスクを軽減することができた経験を共有している、と紹介されました。また、日本への貢献については、世界の被災者同士を繋ぎ、似たような経験をした方々で思いを共有することで、心のケアなどに繋げた例をご紹介いただきました。また、吉田氏は、人道支援が必要な緊急事態のもとでは、支援を受ける側の負担も多くなることに言及し、その際に、OCHAは国際社会に伝わるように情報を整理、発信していることを紹介されました。また、「支援の受け入れ側の負担を減らすような話し合いも現在進められています」と述べました。

 様々な分野を含めたプロジェクト実施が必要であると認識されつつある議論を踏まえ、JICAではどのように取り組んでいるのかという質問に対して、金塚氏からは「たとえば気候変動対策室を設け、他分野のプロジェクトであっても、計画策定時には同室に協議を行うことによって、全てのプロジェクトに対して気候変動対策の視点を盛り込めるよう取り組んでいます」とお答えいただきました。

 最後に、人道支援に対する取組みについて、報告書などを通して様々な日本人にもわかるように日本語で発信してほしいという意見が出され、国連機関や国際支援機関のみならず、市民である私たちによる協力の必要性を確認しました。

 

 個人ワーク・グループディスカッション・意見の共有

▲ グループディスカッションの様子。

 個人ワーク及びグループディスカッションでは、サイクロン、地震、干ばつの3つの自然災害の事例が載った情報シートをもとに話し合いました。個人ワークの時間では情報シートを読み込み、配布されたワークシートに記入を進めることで、自身の考えをまとめました。次に、6人程度のグループに分かれ、それぞれが考えたアイデアを共有し、①「どのような人道支援が求められるか」そしてそれらは「誰にとって必要か」、②「人道支援のニーズが解消された理想の状態はどのようなものか」、③「どのアクターが」「どのような取組みをする必要があるか」を議論しました。

 

サイクロン班

 1班では、人口の半分以上が被害を受けたという状況に着目し、「どのように国を再建することができるか」が重要だという意見に至りました。産業を成長させることと貧困率を下げることにより、被災前より良い状況をつくるための支援について話し合いました。具体的には、被災経験を活かし、予測した事態の対応ができるよう、マニュアルを作成し共有する必要があるとの意見が出されました。また、エネルギーの供給源を地域によって分散させ、それぞれの地域がエネルギーを生産できるようにする必要性も挙げられました。

 4班では、食糧不足や水・衛生問題の深刻化に着目し、リスク分散のための新たな食料生産や、安定的な食料や水の確保、感染症や衛生面への対応や、長期滞在支援者に対する宿泊先の確保やエネルギーの供給、物資供給の為の輸送手段の確保などが必要である、と様々な意見が出されました。被支援国としては、災害に強いまちづくり・復興対策が必要であり、支援国としては人材の派遣や技術支援や知識の伝達が、現地市民としては共助の意識が、そして私たちは情報収集をする力や情報を伝える力が必要であるという意見に至りました。

地震班

▲ グループディスカッションの様子。

 2班では、病院が被災し医薬品が不足している状況に着目し、ディスカッションが進行しました。足が途絶えてしまった山間部への救助チームの派遣や、病院が崩れてしまったために自宅で治療をしている患者をキャンプへ移動させ、電力や医薬品の供給、医療人財の派遣をすることが必要であるという意見が出されました。また、地域自立型のインフラや、災害時マニュアルの必要性についても話し合われました。

 5班では、首都に医療施設が集中している点や、石造りで破壊されてしまった建築物が多く、衛生的な水が不足している点、また短期的・長期的の双方で食糧不足が深刻な点に着目をして議論が進行しました。72時間以内の医療提供や、医療人財の育成や地域での医療の確保が重要であるという意見が挙がりました。また、Googleマップでの支援情報の共有や、市民参加による支援の輪の拡大が重要であるという意見も出ました。

干ばつ班

 3班では、干ばつによって不安が増加し治安の悪化によるコミュニティ関係の悪化に着目し、生活における不安がない状況が理想であると考えました。また、被害を受けた国が主体となることが人道支援の在り方ではないかという点で議論が盛り上がりました。そのうえで、現地の行政やNGOが動きやすいような財政づくりや支援体制が必要であると意見が一致しました。干ばつなどは、人に伝える「見せ方」が難しい問題である事に対して、私たちが感度を高く情報を収集し、発信していくことが重要であることを確認しました。

 6班では、水や食糧の分配に着目し、自然災害の支援者・被支援者の経験をもとに議論が進みました。特に、物資の共有時に妊婦さんや子どもに多く配分されることが理想であると考え、人的ネットワークと情報ネットワークが必要であると意見がまとまりました。災害時の情報格差を防ぐために、日ごろから情報を共有できるネットワークを作成すると良いという案や、風化させないための市民教育も必要であることが話し合われました。また、事前に予測し情報を提供することで、災害発生時の混乱が防げる点や、被災者の状況を支援側が理解するとスムーズな支援につながるのではないか、という意見も挙がりました。

 

 講評

最後に、グループワークやその意見共有を踏まえ、ゲストの吉田氏と金塚氏から講評を頂きました。

 吉田氏は、「緊急支援と開発の両方が重要と皆さんが考え、共有したことは、実際の現場でも長らく議論されていることです。ただ、それを実際に実現するのはとても難しく、最近ようやく『The New Way of Working』として、人道支援と開発の共同の成果をハイレベルで協力して実施していこうという段階にあります。しかし、今後より一層アイデアを取り入れて人道支援に活用していきたいと思っています。」と述べられました。また、「被災国が主体的に彼らが必要なことを進められることが大事で、現地の人々をエンパワーする「Localization」として世界人道サミットの課題として議論されています。」と最近の議論の潮流を紹介してくださり、自然災害の被災者や支援者の経験を防災や人道支援に役立てていく必要性を述べられました。

 また、金塚氏は、「グループワークの共有で指摘された『より良い復興』は、日本としても力を入れており『Build Back Better』という言葉で、仙台防災枠組にも取り入れられています。」と述べ、「Google Earth Engineなどプラットフォームを活かした防災協力も一つの形として想定されるので、ぜひ調べてみてください」と、実際の取組み可能性について示唆してくださいました。また、「トイレの問題や支援する側の課題、情報ネットワークの必要性など細かな点に目が回らなければならない点は、人道支援において重要な視点です」と述べられ、干ばつの発信の難しさや、情報の伝達から支援に繋げることの難しさにも言及されました。「SNSが普及しているという意味で、我々全員が問題意識についての情報を発信することができ、人々の意識向上に繋がります。そして、それが最終的な支援に繋げることができ、人道問題の解消や、OCHAやJICAなど支援側の活動の効果を向上することができると思います。」

参加者一人ひとりの意見に真摯に向き合い、共に考えてくださった吉田様、金塚様に心より感謝申し上げます。

 

【参加者の声】

本勉強会にお越し下さった皆様からは、多くのご満足いただいた意見を頂きました。本報告で、一部をご紹介させていただきます。

  • 様々な立場の方と意見を共有することができ、刺激を受けました。
  • ディスカッションを通じて、勉強するのみならず、知ること・考えることに繋げることができ、良いきっかけとなりました。
  • グループディスカッションを行う上で、異なる見解が合った点が面白かった。
  • ネットワーキングタイムでは、自分の関心分野に関する情報を得ることができました。

『世界人道デー企画「自然災害に伴う人道危機の現在」〜脅威に立ち向かうOCHAとJICAの活動とは〜』にお越しくださり、誠にありがとうございました。

▲ 記念撮影の様子。

 PDF版はこちら

第13回SDGs勉強会 TICAD記念イベント Vol.1 アフリカ×私の国際協力~国・地域の固有性から考える~

2019年5月5日実施 

アフリカ×私の国際協力

~国・地域の固有性から考える~

 

開催報告

5月5日(日)に、関西学院大学大阪梅田キャンパスにて、「第13回SDGs勉強会 TICAD記念イベント Vol.1 アフリカ×私の国際協力~国・地域の固有性から考える~」を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】 

日時

2019年5月5日(日)13:00~17:00

場所 関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1004教室
主催

国連フォーラム関西支部

ゲスト

高橋基樹 氏

京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科教授。元国際開発学会会長、日本アフリカ学会編集委員長等も務める。アフリカの政治経済と開発を専門とする。

著書『開発と国家―アフリカ政治経済論序説』(勁草書房, 2010年)、『現代アフリカ経済論』(ミネルヴァ書房, 2014年, 共編著)等

内容

1.オープニング

2.基調講演

3.質疑応答

4.プレゼンテーション

5.個人ワーク

6.グループディスカッション

7.意見の共有・講評

8.クロージング

9.ネットワーキングタイム

《企画背景》

 TICAD7@横浜やG20@大阪が本年行われます。官民共にアフリカと繋がりが様々に構築され、アフリカも身近になり、渡航する若者も増えてきました。関わる人々は、歴史・環境・文化など様々な側面で他の地域とは違う背景を持つ当地域をどの程度理解しているでしょうか。若者が、より精緻な理解や明確な意図・狙いを形成してアフリカの開発・国際協力に関わるための一助となる勉強会として本企画を立ち上げました。本企画では、アフリカに対する国際協力・開発の課題・動き・展望を現在の潮流から考えます。

《企画目的》

企画目的:アフリカを「アフリカ」と捉えずに、国・地域レベルの視点で開発もしくは国際協力の課題を知ろうとし、自分なりの関わり方を企画終了後も考えることができる状態を目指します。

(1) アフリカの開発・国際協力の課題を整理し理解する

(2) 地域別の課題や今後の動きを知る

(3) 自分の関わり方を考える

《イベントプログラム》

オープニング

・国連フォーラム/国連フォーラム関西について
・企画背景
・TICAD7について/TICAD7の論点
 今年の8月に開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の論点として、以下の  3点が挙げられています(外務省HPより)。

  1. 民間セクターの育成とイノベーションを通じた、経済構造転換とビジネス環境・制度改善
  2.  人間の安全保障のための強靱かつ持続可能な社会の推進
  3. 平和と安定(アフリカ自身による前向きな動きを後押し)それぞれの地域におい  このような目標を達成していくには、1つのイシューを扱う中でも、地域によって異なる歴史・環境・文化といった背景の固有性に着目していくことが重要であると考えました。そこで、地域の固有性を意識しながら、正確な理解と明確な意図をもって、私たちの国際協力ってなんだろう、と考えていけるような勉強会の開催を企画しました。

・ゲスト紹介

《ゲスト》
高橋基樹 氏 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授
本勉強会では、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科の教授であり、京都大学アフリカ地域研究資料センターの副センター長を務める高橋基樹氏をお招きし、アフリカの開発を考えるためのご講演をいただきました。

【開催報告】

 基調講演「アフリカの人々と民主主義及び平和」

 基調講演では、高橋基樹氏によるご講演をいただき、アフリカの人びとと民主主義及び不平等についてお話頂きました。

 冒頭では、「私の国際協力」について考える機会をくださいました。アカデミックな立場から国際協力に関わっていらっしゃる高橋氏は、ご自身の大学での指導経験を踏まえて、「国際協力に関わりたいなら、まず日本のことを知ってほしい」という激励のメッセージを頂きました。

 「TICAD6までの流れは、どうやってアフリカと付き合いながら日本の落ち込み気味の経済や内向きな社会をから復活するかを考えていた。これまでのTICADで欠けているのは、アフリカの努力を見落としている点にある。TICAD6までの、このようなアフリカの見方とは違う視点から話をしたい。その上で、アフリカとのかかわりを考えていきましょう。」

 高橋氏は、政治の関心が薄い日本と、政治に関して命がけで戦うアフリカの国々でどのような違いが存在するのかを問いかけます。しばしば、アフリカの国々の行政機構の弱さが指摘されますが、その一因は、西洋の国によって様々な物事が決められた点にあると指摘します。「外から持ち込まれた国境によって、異なる言語の人々が同じ国家に住んで、同じ言語の人が異なる国に住んでいる状況」がつ暗れたことに言及し、その他、統治・行政機構やその制度が西洋諸国から持ち込まれた点、使用する言語が政治・学問・実生活で異なる点を紹介しました。このような、外から持ち込まれた概念がアフリカで実際にどのような影響を及ぼしているのか、ケニアを例に紹介していただきました。

 ケニアでは、民主化以降、暴力的紛争が頻発してきました。その原因は、部主義にあると理解されます。1代目大統領のケニヤッタ政権時には、ケニヤッタ氏の出身であるキクユを優遇する政策をとり、2代目のモイ政権時にはカレンジンを優遇する政策がとられました。その結果、民族やアイデンティティごとに対立が深刻化しました。しかし、このような部族主義は外から、つまり後から持ち込まれたものであると高橋氏は言います。

 アフリカの紛争について高橋氏の経験から生々しい状況を知ることができました。また、高橋氏の行った調査で「部族の優遇政策は良いか」という質問を襲撃側、被襲撃側に聞いた際、襲われた側の圧倒的多数が良くないものであると考えており、襲撃側でも半数近くがそのように応えたことをご教示くださいました。つまり、理屈上部族主義に反対していることを意味します。また、「腐敗のお金はどうすべきか?」という質問に対しては、半数近くが「ケニア政府に返還されるべき」と答えたと言います。さらに、「自然災害が他の村で起こった際に、税金はその人たちの救済に使われるべき」という答えも帰ってきたそうです。

 意識の上では、日本人と同じように、ケニアの人々も部族主義に反対しているのに、なぜ凄惨な紛争が起こるのでしょうか。高橋氏はこう述べます。「ケニアという新しい国に、開発を求めると不平等が存在する。そこで、やはり自分の地域で開発行いたくなる。人間の基本的ニーズに関わる開発を優先させると、自分や自分の家族の命や暮らしが関わってくるため、選挙が命がけになる。」

 高橋氏はこう続けます。「彼らも国民という意識がある。」そして、国民という意識があるからこそ、不平等に扱われることは不当に思い、これが、部族主義の根源であると述べます。このように考えると、近代的民族主義も部族主義はすべて同じところから始まっており、我々は同じ世界に住んでいる。その中でアフリカは非常に多様であることを理解していかなければならない、と高橋氏は語ります。高橋氏は、アフリカの不平等は、政府がちょっと操作することで状況が変わる点で、不平等であることが非常に深刻な意味を持っており、アフリカの平和と安定をどのように進めるかはTICADの一番重要な課題の一つであると述べます。「国民のベーシックヒューマンニーズを徹底的に平等にして、政治から切り離されなければならない」と高橋氏は述べます。

最後に、高橋氏より「民族や国ではなく、個人と個人が結び合う世界になればいい」と国連フォーラムの参加者へメッセージを頂きました。

 プレゼンテーション

TICAD7の論点として、主として①民間セクターの育成とイノベーションを通じた経済構造転換とビジネス環境・制度改善、②人間の安全保障のための強靱かつ持続可能な社会の推進、③平和と安定が挙げられています。しかし、これらの議論が抱える課題を解決するには、1つのイシューの中でも、それぞれの地域によって異なる歴史・環境・文化といった背景の固有性に着目していくことが重要です。また、TICAD7に向けて発行されたTICAD報告書2018では、間の安全保障のための健康で持続可能で安定した社会の構築のために、ジェンダー間の経済格差や不平等の改善が重要であると指摘されています。そこで、「経済格差」と「地域の固有性」を軸に、アフリカを牽引する2つの国 ― 南アフリカとケニアの事例を取り上げ、参加者に考えてもらえるよう、国連フォーラム関西のメンバーがプレゼンテーションを行いました。

・南アフリカ共和国にみる土地問題と経済格差

南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)は、所得・支出の分配面における不平等が世界で最も深刻な国の一つであると言えます。所得等分布の均等具合を示すジニ係数から、どの人種においても深刻な不平等が存在しており、特に白人系住民とアフリカ系住民では所得格差が顕著に見られます。ここに見られる経済格差には、南アフリカ特有の問題が起因していることを紹介しました。南アフリカでは、アパルトヘイト政策に起因して、インフラへのアクセスや雇用機会、土地の資産所有に不平等が存在しています。たとえば、土地の所有に関する政府による是正措置として、土地改革(土地の売却を希望する白人に、政府が補償金を支払って収用し、アフリカ系住民に土地の再分配を行う政策)が試みられたものの、政府の資金不足やアフリカ系住民にとって実施が難しい政策であったことより、未だに土地の不平等配分が存在しています。

・ケニアにみる暴力的紛争と経済格差

ケニア共和国(以下、ケニア)は、サブサハラアフリカで最も巨大な経済、世界的にも最も急速に発展している国です。ジニ係数を見ると、2005年の46.5%から2015年は40.8%へと改善が見られます。しかし、2007年の大統領選挙では、死者1,200人,国内避難民50万人を超える未曾有の大規模な混乱を経験するなど、国内での対立が存在しています。そして、この国内の情勢不安定を生む原因の1つが、経済格差であるとして、その実態を紹介しました。経済格差が実際にどのように存在するかを見るため、首都のあるナイロビと、キベキ氏の出身地で開発の進んだ中央州のニエリ、オディンガ氏の出身地で開発が遅れたニャンザ州のキスムを比較しました。地域による格差は、汚職や開発政策の偏りが影響して生まれます。このような、開発格差が経済格差を生み、さらには民族間での対立感情を駆り立て、大統領選のような暴力的紛争が生じてしまったことを紹介しました。


南アフリカとケニアの例でみたように、経済格差といっても、その背景はそれぞれ異なることが分かりました。このように、「アフリカは~」「~すれば経済格差を解消できる」などと一言で語ることができないことが分かります。

 個人ワーク・グループディスカッション・意見の共有 

先の講演やプレゼンテーションを踏まえて、自らがどのように国際協力に関わっていくか、また自身の目指す国際協力の在り方について考えるため、国連フォーラム関西が独自で作成したワークシートを基に、個人ワーク、グループディスカッション、及び意見の共有を行いました。グループディスカッションの最中には、ゲストの高橋氏や、国連フォーラム関西の顧問である久木田純氏が、グループを周り、質問や悩みの相談にお答えを頂きました。

あるグループでは、途上国は教育をするベースがないことを指摘したことから議論が発展し、グループ内でも様々な意見が交わされました。また、別のグループでは、問題を問題として捉えてもらうにはどうすれば良いのかという問いかけから発展して、問題に気付かされるだけではただ不幸になるだけではないかという意見や、問題を問題として捉えないのはただ後伸ばしにしているに過ぎず、その後をどうすれば良いのかを考えられるよう、先のことを見据えた協力の在り方が必要である、という意見が出ました。また、国際協力を仕事にしてよいのかという学生の悩みに対して、実際に国際協力の分野で働いていらっしゃる方からの実体験を共有しているグループもありました。

 

《クロージング》

講評
最後に、高橋氏や久木田氏から、本勉強会を振り返って感想や講評を戴きました。

高橋氏からの講評

世界では、自分たちとは状況の異なる世界に生まれる人がいます。そこに、何か合理的な理由があるでしょうか。ないですよね。それは”by Luck”運によります。最初にあるべきは、国ではありません。ホモサピエンスの歴史と比較すると国の歴史は短く、「人間として、どのように付き合うか?」が大切です。そうであるとすれば、「国際協力」から「国」という概念がなくなることが理想ではないかと考えます。なぜ日本人である私たちが他の国の人々を心配するのか?という発想自体が重要だと思います。いずれ日本は、他国の協力なしには生活が難しくなり、もう既にそうなりつつあります。そうなると、「国」という差が関係なくなるのではないでしょうか。むしろ、そのように考えた方が、楽しい未来が待っているのではないでしょうか。「国際協力」から、「国際」(という国ベースの発想)をなくしたいというのが私の思いです。

久木田先生からの講評

「アイデンティティーを持てるかどうか」が国際協力で、そして「同じ人間としてのアイデンティティーを持てるか」がグローバルな視点で考える人にとって重要ではないでしょうか。そのようなアイデンティティーを多くの人が持てるようにすることがひとつポイントになると思います。20世紀は「儲かるか?」が一番の関心事項でした。「マネー=幸福」という社会でしたが、そのような経済成長の結果、気候変動や核汚染のリスク、世界の貧富の格差が進んでいます。このような格差社会の結果、子どもたちが教育を受けれらず、健康でいられなくなり、人がもつ充分なポテンシャルが発揮できない状況になってきています。このような状況は我々にとって非常に危険な状態であります。人生100年時代で、私たちが100歳になった時、恐ろしい取返しがつかない社会になっているかもしれません。全員が力を併せて取り組まなければならない状況の中で、村や国、会社など自分の周りだけを優先している場合ではなく、グローバルな協力をしなければなりません。中でも、気候変動の問題や、戦争・差別を許容しない、途上国の貧困層への支援をする、金持ちが公平な分配について真剣に考えて行動する必要があるのではないでしょうか。私たちも、世界でみれば「金持ち」という分類分けになる中で、どのように行動するかを考えていかなければならないと思います。

 

《参加者の声》

本勉強会にお越し下さった皆様からは、多くのご満足いただいた意見を頂きました。本報告で、一部をご紹介させていただきます。

アフリカでの政策があまり進んでいない根本的な要因が分かった。ニュースではあまり話されていない貴重なお話だった。
国際協力を考える前に国とは何か、国民とは何かと言われてう事を考えさせられた。
普段あまり聞くことのできない、紛争の真の原因を聞くことができてよかった。
自分の知らないことや新しい視点を知ることができた
様々な背景を持っている人たちと議論ができて良かった
自分の知らない分野について興味を持つ方々とお話しできて、様々な知識を得ることができた

第13回SDGs勉強会 TICAD記念イベント Vol.1『アフリカ×私の国際協力~国・地域の固有性から考える~』にお越しくださり、誠にありがとうございました。

参加者の声
本勉強会にお越し下さった皆様からは、多くのご満足いただいた意見を頂きました。本報告で、一部をご紹介させていただきます。

アフリカでの政策があまり進んでいない根本的な要因が分かった。ニュースではあまり話されていない貴重なお話だった。
国際協力を考える前に国とは何か、国民とは何かと言われてう事を考えさせられた。
普段あまり聞くことのできない、紛争の真の原因を聞くことができてよかった。
自分の知らないことや新しい視点を知ることができた
様々な背景を持っている人たちと議論ができて良かった
自分の知らない分野について興味を持つ方々とお話しできて、様々な知識を得ることができた

第13回SDGs勉強会 TICAD記念イベント Vol.1『アフリカ×私の国際協力~国・地域の固有性から考える~』にお越しくださり、誠にありがとうございました。

また、国連フォーラム関西支部のFacebookグループページホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!

国連フォーラム関西支部 特別企画 「『人』の視点で見るシリア ~シリア紛争と人間の安全保障~」

2018年12月22日実施 

国連フォーラム関西支部 特別企画

「『人』の視点で見るシリア

~シリア紛争と人間の安全保障~」

 

2018年12月22日(土)に、関西学院大学梅田キャンパスにて、特別企画「『人』の視点で見るシリア~シリア紛争と人間の安全保障~」を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】 

《企画背景と目的》

当勉強会は、国連フォーラム関西として、これまで開発分野、特にSDGsをテーマとした議論を中心に扱ってきたことを踏まえ、安全保障問題に関する議論に対する機運が高まっていたことを背景に発案されました。その中でも、日本の視点からは、「今世紀最大の人道危機」とされながらも、国際社会の一員として当事者意識を感じにくい「シリア紛争」をテーマとして取り上げています。
当イベントは、「多角的にシリア紛争について考える機会を提供することにより、一人ひとりが当事者意識と共に意見形成することを促し、更には、議論に参画する等、シリア市民のためになる行動を促進させること」を目的としました。

《イベントプログラム》
【第1部】
◆講演
概要:
研究者から活動家まで、シリアを知り尽くした登壇者を予定しています。人道危機の現状や、それを取り巻く背景。支援の現実や、今、私たちにできることまで、様々な観点での議論をしていただきました。
【第2部】
◆パネルディスカッション
概要:
イベントの最後には、登壇者が会場の質問に答える形でのパネルディスカッションをしました。講演を通して気になった点や、もっと知りたいポイントを事前配布の質問票に記入していただき、それをもとに、登壇者によるディスカッションを行いました。
《ゲスト》

– 独立行政法人国際協力機構 JICA研究所主任研究員 武藤亜子氏

– 特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan) 小田隆子氏

– シリア支援団体「サダーカ」田村雅文氏

– シリア支援団体 Piece of Syria 代表 中野貴行氏


【開催報告】

《第1部 講演》

1.「人間の安全保障」(JICA研究所 武藤 亜子 氏)

タイトル:「人間の安全保障とシリア紛争」

第一部初めの講演では、武藤氏より以下3点についてお話しいただきました。

1.「人間の安全保障」の歴史的経緯

2.「人間の安全保障」とはどのような概念か

3.シリア紛争にみる「人間の安全保障」の現状と課題

2.「シリア難民支援」(AAR Japan小田 隆子 氏)

タイトル:「シリアにおける人道危機の現状―トルコにおける難民支援から見えることー」

日本の難民支援NGOのなかでも特に有名なAARより、小田氏から以下3点についてお話しいただきました。

1.AAR Japan「難民を助ける会」について

2.トルコにおけるシリア難民の概況

3.AARトルコにおける活動のあゆみ

3.「シリア市民」(難民支援団体サダーカ田村 雅文 氏)

タイトル:「なぜ 紛争を止めなければならないのか―シリアの人たちの声を聴き続けて-」

最後に、田村氏より、紛争が起こる前後の写真の提示とシリア紛争の当事者の家庭訪問をした経験をもとに紛争が起こす個々人への影響についてお話しいただきました。

《第2部 パネルディスカッション》

〇パネリスト

-武藤亜子氏(武)

-小田隆子氏(小)

-田村雅文氏(田)

-中野氏(Piece of Syria)(中)

〇モデレーター

-久木田純氏(久)

〇質問:シリア紛争の原因に気候変動があるという議論はいかなるものか?

田:紛争前、2005年、2008年、2010年、干ばつが発生。

ダマスカス郊外に違法入国、定住化。テントの数が増加。水や電気など、インフラを無許可に使用されること。

〇質問:アイデンティティの問題。アイデンティティの差異を際立たせることによって、紛争の火種を蒔くという論点に関していかなるものか?

武:アイデンティティの細分化・差異を認識するようになった。

  紛争勃発の経緯に、「水平的不平等」がある。同一のエスニシティ内での差異(教育機会や雇用機会)が争いの引き金になるという論がある。

〇質問:シリア支援(トルコ)において、「言語」はどのような役割を果たすのか?「トルコ語が話せる/話せない」場合、中東支援に携わることができないのか?

小:トルコ国内においても、言語的多様性がある。家庭内でクルド語、アラビア語を話すなど。しかし、言語文化を超えると、コミュニケーションが困難。

現在、スタッフの雇用に際して、シリア人の雇用に重点を置く。アラビア語以外にも、クルド語、英語などの言語が話せる人を採用

 さらに現在、トルコ語教育を行っている。トルコ語学校に就学するシリア人の学費の支援(言語の支援自体は政府の規制により困難であるため)。

〇質問:

中野さんの活動について紹介

中:「Piece of Syria」という名は、「欠片」になってしまったシリアを、「平和(Peace)」のシリアにしたいという思いから。

 -活動内容:

①現在と過去のシリアを伝える(写真や動画で)

②難民を訪問することで、難民の暮らしの現状を聞き取り

③反政府組織がコントロールする地域の教育・幼児教育施設のサポート(政府の許可がないとシリア国内でのサポートができないが、個人での支援が受け入れられるため。毎年100人の子どもたちが通えるように)

久:「シリアの人達の顔が輝くのは、故郷の話をするとき」とありましたが、実際にそうでしたか?

中:昔のシリアを知っているということで、シリアの人々に一気に受け入れてもらえる。

〇質問:なぜ彼らは故郷を離れなければならなかったのか?彼らの目線にたって、なぜ紛争が起こったのか?

武:気候変動、干ばつが発生し、紛争の1つの原因となった(干ばつと都市への流入)

2011年にデモが発生したのは、アサド政権を倒すためではなく、「生活の改善」を求めていたという説もある。

-デモを政権が弾圧したことで、人々からの反発が高まった

-2011年3月に海外から人々が流入し、人々を煽っていったという説

-平和的なデモに対して、様々な外的圧力がかかった

 (紛争のルート・cause)

-prolong cause:欧米諸国が介入しなければ、ここまで長期化しなかった

中:シリア紛争に対して、様々な見方がある。そのため、紛争の原因を特定するような発言をしてこなかった。

 Wiki leaksが、シリアの市民デモの結果、市民よりも軍隊や警察の死者が多かったなどの報道もある。本当に市民だったのか?

そのため、「こうに違いない」という断言は非常に危険だと考える。

〇質問:ISが非人道的な行為を行ってきた。ISは実際、どうだったのか?

中:マンベジに駐在。ISの占領下におかれる。ISから、保釈金を支払えば、人質が解放されるという話があったものの、保釈されなかった。

 ISによって、教育が浸食されていた(教育が重要であるが、そこでどんな教育が行われるかが重要)。

久:カザフスタン駐在経験、カザフスタンからも多くの人々がISに賛同

 暴力を直接目の当たりに、取り残されてきた子どもや女性たちのケアが重要

〇質問:これから平和になるために、何が必要か、

田:一番重要なのは、対話の場を作っていくこと。家族同士でも考え方の相違、友人同士の関係が崩れている現状。「シリアに帰って、やっていけるだろうか」という不安と、「今までやってきただろうか」という揺らぎ。

これまで、殺戮や暴力を見てきた人々が成長していく

→敵同士であった元兵士たちがとにかく話をする、共に生きていくための対話のプロセスが必要。

しかし、難しいのは、「人」に焦点を当てる場合、「どの人に焦点を当てるか」が重要。

 例えば、反体制派、家族を守る人(家族を守るために、元通りの生活がしたい)

 *丁寧にナラティブを立ち上げる必要。

 

武:アメリカが撤退し、アサド政権が優位である現状は揺らがない。政権優位が揺らがないことを見通した上で、いかに人々が平和づくりに参加できるようにするのか?

 市民社会や政府が支えていくのか?

 しかし、現状の構造において一番困難な問題である。

 

小:反政府と見なされてきた人がシリアに帰国した際に、どのような扱いを受けるのか?

 それぞれの人々が相互理解・他者理解、1つの事象について見方が様々にあること

 

中:足元から変えていくために教育支援が重要であると考える。100人というまとまりで見ることと、一人ひとりの固有名詞で捉えること。

一人ひとりの成長を支えることが、不可欠

《参加者の声》

本勉強会にお越し下さった皆様からは、多くのご満足いただいた意見を頂きました。本報告で、一部をご紹介させていただきます。

・普段調べたり学んだりするとき、「民族」や「派閥」など一括りで考えがちですが、「人」がどのような思いを持っているかというのに触れられてよかったです。多角的な視野を増やせるようもっと学ぼうと思えました。

・多くについて知り、考える機会になり参加して良かったと思った。 同時に、自分に何ができるのかも考えさせられた。自分のフィールドとの交わりを、もっと学んでいきたいと思わされた。

・普段の関心分野とは違う分野であったので、非常に有意義でした。


この度「国連フォーラム関西主催『特別企画「『人』の視点で見るシリア~シリア紛争と人間の安全保障~」』にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

最後に、多くの方のご協力で、今回のイベントを開催することが出来ました。ご協力してくださったゲストの方、参加者の方に厚く御礼をお申し上げます。

 

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