第87回 塚田祐子さん

第87回 塚田 祐子(つかだ ゆうこ)さん
千葉大学大学院看護学研究科 共同災害看護学専攻
インターン先:国連児童基金(UNICEF)東京事務所 アドボカシー・コミュニケーション
インターン期間:2020年4月〜10月

1)インターンシップの応募と獲得まで

私は看護師であり、大学院で災害看護学を専攻しています。人道危機にある子どもやその家族の支援に携わる仕事に関心があるため、緊急援助を実施する国連機関でインターンをしたいと考えていました。そのため、緊急援助を主に実施している国連児童基金(UNICEF)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連世界食糧計画(WFP)のインターン募集情報にアンテナをはり、UNICEF東京事務所の募集を見つけ応募しました。

選考は書類選考、筆記試験、面接でした。応募書類の準備では、子どもの健康や安心安全を守ることを一生の仕事にしたいこと、今まで経験してきた被災地での住民へのダイレクトケアだけでなくアドボカシーといった別の視点からの貢献を学びたいという応募理由を簡潔に記載しました。また、自分の希望だけでなく、アドボカシー・コミュニケーションに貢献できることを伝えるため、過去に被災地での広報や行政機関との調整を担当した経験があることを強調しました。面接ですが、苦手意識があるため何度も練習をしました。以前、国連機関では「コンピテンシー・ベースド・インタビュー」が実施されると聞いていたので、まずUNICEFが重視するコンピテンシーについて調べました。その後、例えば、「Respect for Diversity」というコンピテンシーについて、自分がその能力をどのような経験から得たのか、どのように発揮した経験があるのかなどを話せるように対策しました。当日は質問とずれた回答をせず簡潔に答えること、柔らかい表情でゆっくり話すことに注意しました。

 

2)インターンシップの内容

業務中の使用言語ですが、メールやチャットはUNICEFの日本人職員同士でも英語でした。会議や書類作成はその時々に応じて使用言語が変化していましたが、上司とのタスク確認といった簡単なミーティングは日本語で実施されました。また、私がインターンをした期間中は日本人の職員しかいなかったため、オフィスでのコミュニケーションは日本語でした。しかし、ロビーやエレベーターで他国連機関にお勤めの外国人の方と英語で楽しく雑談する機会はありました。

UNICEF東京事務所は、日本政府など公的なパートナーとUNICEFのパートナーシップの強化を行っています。私が所属していたチームは、パートナーシップの強化を広報や政策提言を通して実現することに取り組んでいます。

インターンの期間中、実に多様な業務を経験させていただきましたので、以下に紹介いたします。

■ アドボカシー活動

ユニセフ議員連盟とのイベントの準備や、当日の運営をサポートしました。ユニセフ議員連盟とは、UNICEFの理念に共感し、後回しにされてしまう世界の子どもたちの支援が忘れられないよう政策提言を実施している超党派の国会議員連盟です。イベントでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するUNICEFの活動や、日本政府の支援について報告が行われました。インターンとして、イベントに向けた資料の作成をお手伝いし、当日は受付や議事録作成を担当しました。

インターンを経験する前、私は看護師として被災地で住民の方々に直接的なケアを提供する仕事が主でした。そのため、国連機関が現場のプログラムを実施するために、重要なパートナーである政府とどのように信頼関係を築き、資金協力をいただいているのか分かりませんでした。その他にも、UNICEF本部の職員と東京事務所の職員そして外務省が共に今後の協力の方針を決定する協議や、ウェブサイトにて日本政府が資金援助をしたUNICEFのプログラムの成果報告なども行われていました。インターンシップを通して実に多様な形でUNICEFと日本国内のパートナーとのパートナーシップ強化の取り組みが行われていることを肌で感じることができ、今まで持っていなかった広い視野や学びを得ることができました。

■ ウェブサイトの更新・修正

UNICEF東京事務所のウェブサイトにプレスリリースをアップしたり、無効リンクがある際には修正をしたりしました。例えば、日本政府の資金協力により実施されたロヒンギャ難民の子どもや女性を支援するUNICEFの事業について、現地からの英語の報告書を読み、それを元に日本語の記事を作成しました。また、UNICEF日本人職員に関する記事を担当し、国外のUNICEF事務所で働く日本人職員にオンラインインタビューを行い、仕事の内容やキャリア、UNICEFで働くことを目指す若者へのメッセージについてまとめました。
(記事はこちらです:
①「第31回 ジュネーブ民間連携本部 兼高佐和子さん」
https://www.unicef.org/tokyo/japanese-staff/interviews/sawako-kanetaka

②「第32回 タンザニア事務所 渋井優さん」
https://www.unicef.org/tokyo/japanese-staff/interviews/yu-shibui

■ ウェブサイト分析

Google Analyticsを用いてUNICEF東京事務所のウェブサイトを分析し、サイト訪問者の傾向や人気のある記事内容、SNSとの関連について明らかにしました。分析結果をまとめ、さらに訪問者にとって見やすく親しみやすいサイトにするための提案をチームリーダーや事務所代表に示しました。この業務は看護師である私自身にとっては、経験したことのない類のもので戸惑いましたが、分析方法の本を購入して方法を学びながら実施しました。ウェブサイト改善案のいくつかは実際に採用され、分析が活かされたときは喜びを感じました。

■ 栄養サミットのリーフレット作成補佐

栄養サミットに向けて、世界の子どもたちの栄養に関する課題やUNICEFの栄養支援についてまとめたリーフレット作成のサポートをしました。2021年12月に東京で開催予定の栄養サミットは、栄養不良の解決に向けた国際的取組を推進するため、国連やNGO、各国首脳など世界の栄養関係者が課題解決に向けて議論する場です。

リーフレット作成のために、近年の栄養に関する国際的な報告書を多く参照し、改めて世界の子どもたちが実に多様な栄養の課題と向き合っており、COVID-19によってさらに課題が深刻化していることを学びました。子どもたちが成長し、彼らの持つ力を最大限に発揮していくために栄養状態の改善は不可欠です。看護師として、栄養の課題や支援について学ばなければならない、と改めて関心を持つきっかけになりました。

写真:オフィスで同僚の方と

オフィスで同僚の方と

3)資金確保、生活、準備等

COVID-19が流行し、国連大学ビルが閉鎖され、オフィス勤務の人数制限がありました。そのため、インターンシップは開始の4月から終了まで主にリモートワークでした。自宅で仕事がしやすいように部屋を整え、ヘッドフォンマイクなどの必要な機器を揃えました。

実際に会ったことのない職員さんたちと、最初からリモートワークをするのは上手にコミュニケーションをとっていけるか不安がありました。しかし、チームの皆さんはいつも優しく、メールだけでなくチャットやSkypeなどを使用しながら仕事の指示をいただいたり、業務の相談をしたりしました。また、参加自由なオンラインのコーヒーブレイクが時々開催され、仕事の合間に楽しくおしゃべりをしながらリフレッシュをしていました。リモートワークでしたが、チームの一員として迎え入れてもらえているという感覚がありました。

また、他の国連機関でインターンをしている方々ともZoomを使用してオンライン交流会を実施していました。他機関での業務内容や学びを互いに共有したり、キャリアについてどのように考えているか話したりしていました。様々な背景を持つ人々と交流することができ、とても刺激を受けましたし、国際協力に貢献する仕事を志す仲間と出会えたことがとても嬉しかったです。

リモートワークでのインターンシップの利点もあり、大学院の研究やその他の勉強に取り組みやすいと感じました。オフィス勤務だと1時間以上の通勤の後に研究に取りかからなければなりませんが、リモートワークだと勤務終了後すぐにそのまま机に向かって論文を集中して読むことができました。また、インターン期間中は、米国の公衆衛生大学院が提供するCOVID-19の治療や感染症コントロール・心理的ケアに関する全数10回にわたるwebinarを受けていたのですが、通勤時間が無いことで受講しやすくなり、効率良く学ぶことができました。

 

4)インターン後と将来の展望 

インターン終了後は博士論文の執筆に取り組みながら、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンで週数日働いています。被災した子どもやその家族の安心や安全に貢献する研究と、子ども支援のアシスタント業務に邁進していきます。大学院卒業後は、「保健」「子ども支援」「緊急援助」というキャリア選択における私の軸を大切にしつつ、国連機関ポストへの応募も含め柔軟に決定していきたいです。

 

5)その他感想・アドバイス

今回のインターンに応募する前、看護学生や看護職でWHO(世界保健機関)以外の国連機関でインターンをしているという方の情報が見つからず、「看護師の私がUNICEFの東京事務所に採用していただけるのか」と、とても不安でした。募集ポジションと自分の専門性がマッチしていないのではないかと思い、応募を辞めようかと考えたこともありました。今は、「それでもチャレンジしよう」と勇気を出して良かったと思っています。選考の際は、看護師という側面を強く押し出しすぎないよう気をつけ、①どのように貢献できるか、②インターンをもし経験できたら看護師としてどのようにその経験を今後活かしたいか、を伝えることが重要だったのかなと今振り返ると思います。

UNICEF東京事務所は、国事務所のように保健のプログラムを実施するチームがあるわけではありません。そのため、業務内容には看護の知識や技術を常に使用しません。しかし、インターン中に経験する様々な業務すべてが、現場の子どもたちの支援に繋がっていくのだという感覚がありました。また、ウェブサイトやSNSで発信するすべての記事を、「子どもやその家族の尊厳を傷つけるような書き方をしていないか」「読者にとってやさしい文章か」という視点で作成することを学びました。看護職がメッセージを発信したり、健康教育・指導をしたりする際にもこのような視点はとても大切であると思います。

最後に、お世話になりましたUNICEF職員の皆様に心から感謝申し上げます。多忙のなか、インターンシップが学びの多いものになるよう配慮してくださり、私のキャリアに関する相談にも親身に寄り添ってくださいました。インターン期間を通して多くの職員さんから、たくさんのご助言や励ましをいただきました。この記事が、国連機関でのインターンシップ応募に悩む方にとって少しでも役立ち、励ますものになることを祈っています。