サイト内検索



第1回
小西 洋子さん
UNDPカンボジア事務所




第2回 今井 淳一さん
UNDPベトナム事務所

略歴: いまい・じゅんいち 日本で大学(政治学)卒業後、短期間の民間企業勤務の後、イギリス・サセックス大学開発人類学修士課程を修了。WFP(世界食糧計画)日本事務所、JICA中国事務所でのインターン、短期勤務を経て、2002年から在広州日本国総領事館専門調査員として、華南経済関連の情報収集、草の根無償資金協力を担当。2004年7月よりUNDPベトナム事務所にてJPOとして勤務。


前回フィールド・エッセイを書かれた小西さんと同様、現在JPOとしてUNDPベトナム事務所のPoverty and Social Development Clusterで勤務しています。ハノイはその異様な交通量とそれによる空気の汚さ以外は、治安も安全で、食べ物も食べやすく、大変住みやすいところです。国全体としてもMDG(ミレニアム開発目標)に向けてある程度優等生であるといえると思います。それゆえに事務所全体としても、どんどんと新たなる分野(汚職防止、ローカルガバナンス、政策モニタリング)に活動領域を伸ばしてきています。

現在自分が担当しているプロジェクトは大雑把に分けて二種類、一つはベトナムの統計制度に関するもの、もう一つはいわゆるMDG達成に向けてのものです。前者では現在進行形のプロジェクトとして、ベトナムで行われている家計調査(Vietnam Household Living Standard Survey)の質改善。そして新しく始めたプロジェクトには統計システム全体のコーディネーションを良くし、ベトナムの政策の中で非常に重要な役割を占める5カ年計画をより良くモニタリングできるようにしようというプロジェクトがあります。MDG関連では2005年度ベトナムMDGレポートの作成、またこちらの国会の委員会である社会問題委員会に対するMDGアドボカシーなどにも関わっています。

もともと自分の専門ではなかった統計に関するプロジェクトは、どんな貧困対策にも正直担当するのが大変です。プロジェクトマネージメントは基本的な原理は同じなので、そのプロジェクトに関する知識の多少に関わらずある程度できますが、プログラムオフィサーに求められるいわゆるQuality Control、例えばコンサルタントへのTORが適切であるか、レポートの質をきちんとチェックできるかなどは、なかなかに専門的な要素が問われて難しいです。また外に出れば他のドナーが抱えるその分野のスペシャリストとも話すことになりますし、相手政府からアドバイスを求められることも。こういった分野での専門知識は自分がつけていかなければいけないという私個人の問題であると同時に、ポリシーアドバイスができる集団に生まれ変わろうとしているUNDP全体が抱える問題でもあるようです。

前回のフィールドエッセイでもありましたが、UNDPはマクロな政策提言、制度改革に大きくその仕事をシフトしていっていると、ベトナムにいても強く感じます。それはこれまでの散発的なプロジェクト・アプローチから、相手国政府の制度に訴える政策へのアプローチへということでしょうか。ただ、まだこの世界に入って期間の短い自分からすると、更にはベトナムのミクロな世界がまだまだ未知数な自分からすると、この仕事は非常に重荷でもあります。多くの途上国経験を経てのポリシーアドバイスであれば重みも出るのでしょうが、まだまだ自分は書籍から言葉が出てきているような感じがしてなりません。ここでの経験がそういった形で出てくるのは数年後なのかなとも感じます。

以前働いていた日本の組織との大きな違いは、このベトナム事務所がベトナム人の大きな力で動いているということでしょうか。事務所の職員のうち7−8割がベトナム人で、自分の直属の上司もベトナム人、現在自分のセクションにいる7人のうち外国人は自分だけです。数年で必ずといっていいほど交代するインターナショナルスタッフに頼るよりは、ナショナルスタッフの能力が高いということは、UNDPベトナム事務所の能力が持続可能な形で発揮できるという意味で非常に画期的だと思います。逆に言えば、インターナショナルスタッフ(ベトナム語はネイティブでない割には給料は高い)である自分は、より多くの付加価値をもたらさなければ存在意義がないという意味で、日々精進という生活でもあります。

最近懸念として感じることは、受け入れ側のベトナム政府の許容量以上にODAが流れてきてしまっているのではないかと感じることです。自分のプロジェクトではこちらの統計局の方々がカウンターパートになることが多いのですが、できる人材(英語もでき、サブの内容もわかる)には多くのドナーがアプローチしていて、それぞれがそういった人たちの取り合いになってしまっている感があります。民間に多少は在野の士がいるのかもしれませんが、まだ開発の問題に関わる人材の多くが公的セクターにいる場合が多いベトナムでは、ややもすれば多くのドナー(プロジェクト)の存在が政府の能力を消耗させてしまいかねないと感じるところです。ドナー間の協調、財政支援といった援助モダリティーに関する問題も、ここベトナムでひしひしと感じさせられます。そういったことで日々苦しみながらも、これはまたフィールドオフィスにいるからできる体験とポジティブに受け止めて、今日もプロジェクト格闘しているところです。

担当:粒良