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第17回 飯塚 涼子さん
UNDPミャンマー事務所 プログラム・マネージャー

いいづかりょうこ 兵庫県神戸市生まれ。カナダ、ウォータールー大学環境学部(都市地域計画)卒業。米国、School for International Training, International and Intercultural Management 修士号取得。バングラデッシュ、ネパール、インド現地NGOでのインターンシップの後、JICAガーナ事務所で短期アシスタント、ジュネーブILO本部でコンサルタントとして勤務。2004年度JPO試験に合格し、2006年より現職(UNDPミャンマー事務所)。専門分野は参加型村落開発、女性のエンパワーメント、マイクロクレジットなど。


1. はじめに

UNDPミャンマーに赴任してちょうど1年が経ちました。時間が流れるのは早い。本当にあっという間です。これは幸運にも一番興味のある事をJPOの仕事としてやらせて頂いていることと、仕事仲間の熱意と働きぶりに影響されていることに理由があると思います。このエッセイでは、この1年の体験を振り返ってお話していきますが、始めにUNDPミャンマーが置かれている特別な立場について触れておきたいと思います。

ミャンマーの政治状況は周知のとおりですが、それはもちろんUNDP で仕事をする上でも影響をもたらします。UNDP理事会は1993年6月、ミャンマーに対する国別プログラムを一時停止しました。しかしミャンマーにはまだ深刻な救援・開発援助の必要性があると判断し、次のようなマンデート(決定)を下しました。"ミャンマーに対するUNDPの国別プログラムが適切な時期に決定されるまで、UNDPのミャンマーに対する援助は、草の根レベルで持続的な効果をもたらすものに限定し、特に保健衛生、環境、エイズ対策、教育及びトレーニング、食糧確保などの分野において支援する"。

これによりコミュニティーがUNDPから直接受益するHuman Development Initiative(HDI)という名のUNDPミャンマー独自のプログラムが発足しました。HDIはこのマンデートに沿って実行されているかをUNDP理事会に報告するため、年に一度の外部評価が義務付けられています。このようなマンデートはミャンマーにおいてもUNDP特有で、他の国連機関に関してはこのような規定はありません。草の根レベルにUNDPの援助を直接届けるために、上記マンデート実施に当たり、UNDP理事国がUNDPミャンマー事務所に対し、援助実行の際、現政権に関与せず、また現政権に対しキャパシティービルディングを行わないよう要請したいきさつもあります。

HDIは、村人へのベーシックニーズの提供、村レベルでの参加型意思決定とキャパシティビルディング、最貧困層への援助などを明確な目的とし、現在4期目に入り5つのプロジェクトを実施しています。DEX形式(Direct Execution。UNDP が他の機関に委任せず直接実行する形式)で行うプロジェクトとUNOPSを通して行うプロジェクトの2種類があります。

ミャンマーは人口約5千4百万人、14の管区の下に約324のタウンシップ(郡)があります。HDIは、国全体をカバーする調査やキャンペーンを含むプロジェクトを除き、57のタウンシップ中、5,444村で集中的な支援を行っています。

2. どんな仕事?

私の働いているプロジェクトはIntegrated Community Development Project (ICDP)といい、年間予算600万ドル、UNDPミャンマー最大のDEXプロジェクトです。20のタウンシップをカバーし、350人の現地プロジェクトスタッフが2600以上の村で活動を行っています。Integratedという名のとおりICDPは様々な分野で支援を行っていますが、主に収入向上と食糧確保、保健・水・教育施設の向上、コミュニティーレベルのガバナンス(住民グループのキャパシティービルディング)の3つに力を注いでいます。村に入る時から参加型アプローチで、村人の直面する問題とニーズを話し合い、アクションプランを作り、それに基づき村人自身が貢献をし、働き、解決策を実施していきます。最終目的は村の人々が自分達で生活向上ができるようになることなので、フィールドスタッフはプロジェクトのあらゆる過程において村人の参加、特に最貧困層の参加と、村人が協力しあって物事を進めていくことに気を配って支援とモニタリングを行っています。

私はプログラム・マネージャーとしてヤンゴンのUNDPミャンマー事務所でプロジェクトのマネージメント、モニタリングと評価、UNDPの他のプロジェクトとユニットとの協力などに携わっています。 

3. チャレンジ

チャレンジはまず何と言ってもプロジェクトが巨大でやる事があり過ぎることです。活動が多様でモニタリングまたは改善するポイントがたくさんある上に、地理的に異なった3つの地域で20ものタウンシップをカバーしているので、各地域、各タウンシップ特有の状況や問題が浮かび上がってきたりします。プロジェクトの何らかのストラテジーを打ち立てる時には、それぞれの地域・タウンシップから状況と意見を聞き出し、フィールドでできるもの、役に立つもの、同時にプロジェクトとして道理にかなったものにまとめ上げる必要があります。また、UNDPミャンマーのシニアマネージメントの関心やリクエストにもうまく対応しなければならず、フィールドとのギャップが見える時にははっきりと意見する必要があります。ですから、タウンシップとのコーディネーション、またミャンマー事務所とのコーディネーションの二つがとても重要な課題です。

UNDPマンデートの下で働くことも時にはチャレンジとなります。例えば、地元政府関係者と普段から密接には活動をしていないので、場所によってはプロジェクトの内容や意図をうまく理解してもらえないということがあります。長期的なところでは、村、タウンシップ、県レベルなどの政府関係者がICDPの行っている参加型村落開発のアプローチ、技術移転の方法、失敗と成功の経験などを詳しく知らなければ、将来適切な時期が来た時、効率的に"引き継ぎ"ができない可能性もあります。

4. 解決策、やりがい

ICDPのプログラム・マネージャーとして膨大な仕事をこなすのに大事な心構えは、とても基本的な事ですが、優先順位を決め、今日は今日、明日は明日と気持ちの切り替えをし、完璧主義にならずさっさと切り上げることだと思います。また適切に委託して、信頼してチームワークでやることです。ICDPには独自のスタッフがいるのでコミュニケーションを密接にし物事を的確に判断していけば、いくらでも直でプロジェクトの活動ややり方を改正、向上していくことができます。モニタリングの出張やワークショップなどはフィールドスタッフから第一線の話を詳しく聞ける貴重なチャンスなので、なるべくたくさん細かい情報・意見収集をするように心がけています。また、マネージメントとしてメッセージを出す時は、一つ筋の通ったものを出すというのはとても大事です。ころころ変えない。だからしっかり考えて出さないといけません。

ICDPのスタッフはヤンゴンオフィスでもフィールドでも、とてもやる気のある誠実で勤勉なスタッフが多数います。仕事が大変でも明るく前向きで、集まるとチームとしてのまとまりが非常に良いです。このような人材が多くいることはICDPの一番の強さだと思いますし、共に働けるのはとても恵まれていることだと思います。

また、上で述べたマンデートのチャレンジはありますが、プロジェクトは村人のキャパシティービルディング、特に施設管理グループや女性グループの計画・運営能力向上に力を注いでおり、目に見える変化が見られる村もたくさんあります。特に毎週のわずかな貯蓄とミーティングから始まる女性グループのメンバー達がどんどん積極的に発言ができるようになり、活発に収入向上や村のための活動をし、また自分よりも貧しい人を自発的に助け始めるなどの行動を見ると、ICDP の支援は村人達にとって有益でプラスの影響をもたらしていると思えます。もちろん女性グループがここまで達するには、また村全体にこのような変化をもたらしそのポジティブな勢いを維持できるまでには長い時間がかかり、一筋縄ではいかない非常に難しいことではあるのですが、少しずつでも進展していければよいのだと思います。また、長い間村人と接してこのような変化を目のあたりにしているフィールドスタッフには、ICDPの活動は役に立っている、時間はかかるが確かに向上しているという一種の確信があるように思います。

5. これから

村での活動にしても、プロジェクトのオペレーション、政策作成、モニタリングにしても、改善点はたくさんあります。いろいろある中、でも大事なのは先を見失わないという事だと思います。全体像を見据えて、大事な事からやっていく。また、自分の強さを引き出して貢献していくことだと思います。UNDPの中でも特殊なプログラムを持つミャンマー事務所で働けることはとても貴重であることを認識しながら、もっと学び力を尽くしていきたいです。 


(2007年6月9日掲載 担当:井筒)



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