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第16回 古我知 晶さん
UNDPブルキナファソ事務所 国連ボランティア

略歴: こがちあき 甲南大学英語英米文学科在学中に英国留学。卒業後、日本語教師資格を取得。立命館大学大学院国際関係研究科在学中にフランス交換留学。留学中、移民地区にて西アフリカ系移民を支援するNGO活動を経験し、その後国連ボランティア計画ドイツ本部(アフリカ部)で1年間のインターン研修。研修中に立命館大学大学院修士課程を修了し、国連ボランティアとしてUNDPブルキナファソ事務所に派遣される。現在、環境・エネルギー部門で活動中。


1. 始めに

ブルキナファソをご存知ですか?と母校の大学での講演の際、質問をしてみました。すると、学生さんの1人が手を挙げこのように答えてくれました。「小学校の時に、学校の授業で今まで聞いたことのない国を書いてきましょうという課題にブルキナファソを選びました」と。
西アフリカの内陸国(北にマリ、西にニジェール、南にコートジボアール、ガーナ、ト−ゴ、ベナン)で、人間開発指標では177国中の175位という後発開発途上国。日本とは地理的にも歴史・文化的にも遠いブルキナファソ。このフィールド・エッセイでは、国連ボランティア、国連開発計画(UNDP)の環境プロジェクトアナリスト、そして日本人、ということをテーマに述べます。


2. UNV(United Nations Volunteers)国連ボランティア計画

日本の国連ボランティア計画に対する支援は93年から信託基金を通して行われ、その規模は、93年から98年にかけてドナー間でも最大の財政支援規模を記録しました。実に、98年までに264名を国連ボランティアとして派遣(71年〜98年)するという優れた実績をもちながらも、組織の知名度は決して高くはなく、国連ボランティアの活動をご存知ない方も少なくないと思います。1970年の国連総会決議によりUNDPの下部組織として発足した国連ボランティア計画は、各国政府や国連機関に国連ボランティアを派遣し、農業、機械整備、通信、土木、医療、紛争や自然災害などに対応するための緊急人道援助、平和維持活動、人権の推進活動と約140種の職種に至り技術支援を提供してきました。今日では、国連ボランティア派遣機構としての機能にとどまらずボランティアの普及・ボランティアと参加型の開発をテーマにボランティア精神の発進基地へと前進しました。

立命館大学大学院国際関係研究科では、98年に国連ボランティア計画との間に公式インターン制度を設け、以来、同研究科の大学院生1名の派遣を毎年実施してきました。私は2003年、フランスのトゥールーズへ留学中に英・仏の2ヶ国語での業務が可能ということが決め手となり、その年のインターン生に選ばれました。大学院修了までに国際機関での実務経験を、と願っていた私にとって、国連ボランティア計画本部での研修は、国連業務に直接関わることの出来るまたとない機会でした。

インターン生として過ごした国連ボランティア計画の本部ボンは、東西ドイツ統合までは、西ドイツの首都でした。ドイツ再統一の90年以来、首都機能がベルリンに移り、市は数々の国連機関を招還し、国連ボランティア計画もまた、スイスのジュネーブより、99年、ライン川沿いの新天地に拠点を移しました。

このインターン制度では本人の希望する部署での研修が必ずしも実現するとはかぎらないのですが、幸いにもアフリカ部署での研修が実現しました。インターン生として私は、西アフリカ諸国を担当するプロジェクト・オフィサーのもと、プロジェクト運営補助、ドキュメントの要約、資料の英・仏語翻訳、リサーチなどを任されました。また、当時はUNVの2006年から2008年度の行動計画、重要活動分野を決定する時期であり、戦略文書に必要なデータ収集にも携わり、又、行動計画については一部の原稿を直接担当することも出来、大変貴重な体験をさせて頂きました。そして研修の後期には、セクションの推薦により、UNDPブルキナファソ事務所での環境プロジェクトのポストの面接を受けることになりました。


3.
ブルキナファソ国連ボランティア計画について

地域別で比較するとアフリカへの国連ボランティアの派遣要請が最も多く、現在ブルキナファソ国内各地においても国連ボランティアは約30名から40名派遣されています。その多数がナショナルスタッフであり、UNDPや他の国連・国際機関の実施するプロジェクトに携わっています。インターナショナルのスタッフは主に国連機関内に配属されることが多く、UNDPブルキナファソ事務所では、イタリア・フランスから各1名が経済、コミュニケーション部署で活躍しています。私は前述したようにUNDPブルキナファソ事務所、環境・エネルギー部門のプロジェクト・アナリストとしてUNVより派遣されています。すべての国連ボランティアは、配属先での各々の役職に加えて、国連ボランティアとしての活動にも従事します。例えば、国際ボランティアデイ(12月5日)や、半年に1度行われるUNV恒例会では、国連ボランティアとしての活動報告や関連会議への参加が求められます。

UNDPの下部組織として発足した国連ボランティア計画は、現在もUNDPの管轄下にあります。その為、国連ボランティア計画ブルキナファソのプロジェクト・オフィサーは、UNDPブルキナファソ事務所に配属されています。UNVプロジェクト・オフィサーの任務としては、ブルキナファソ国内に配属される国連ボランティアの調整、そして国連ボランティア計画が実施するプロジェクトの運営があげられます。国連ボランティア計画が主体となり行うプロジェクトは、このフィールド・エッセイにおいても幾度か取り扱われてきた国連改革、「ONE UN, ONE PROGRAMME」方針の下、国連の共通国別評価(2006年〜2010年度)に組み込まれています。

国連ボランティア計画ブルキナファソのもう一つの重要な使命に他の国際機関、特にボランティアを扱う機関とのパートナーシップの構築があげられます。ブルキナファソの国内には、アメリカのピースコーや日本の青年海外協力隊(国内に約30〜40名派遣)、そしてカナダやイタリアからのボランティアが他分野で多岐にわたり活躍しています。現在、各組織を直接的につなぐ共同プロジェクトなどは存在しませんが、UNVはその母体となるべく関連機関との交流会の主催や関連各種のイベント参加を積極的に行っています。

 

4.UNDPブルキナファソ事務所:環境・エネルギープロジェクトの重要性、UNDPの果たす役割

サブサハラ地帯に属するブルキナファソでは、短い雨期とサハラ砂漠がもたらす砂嵐、灼熱の乾期のため、たえず水不足・乾燥・暴風という困難な生活条件の下で人々の生活は営まれています。しかも人口の80%、村落では95%が農業に依存、さらに外貨を獲得する為の唯一の商品作物である綿花栽培は今日大きな危機に直面しています。フランスの植民地時代から続く集中栽培と地球温暖化のもたらす砂漠化が北部に集中する綿花栽培地域をおそっています。又、森林破壊が砂漠化に拍車をかけています。内陸国であり国内に天然資源・発電施設を持たないブルキナファソでは、隣国コートジボアールからのパイプによる電力供給が行われ、電気代が世界で最も高い国の一つとなっています。その結果、人口の8割が木材を主要なエネルギー源として利用し(大都市を除き地方農村でのエネルギー普及は皆無に等しい)、市場価値のある木材は伐採の犠牲となり、森林面積は年々減少しています。近年、加速化する環境破壊の事態に政府は、これまでの政策を見直し、経済・ガバナンスの安定を中心課題としてきた国家の「貧困削減戦略文書」に環境問題を新たに加えました。

UNDPブルキナファソ事務所は、アフリカでも十指に入る大規模なオフィスであり、環境・経済・ガバナンス、マイクロファイナンス、エイズ問題を扱っています。この中でも環境・エネルギー部門は、最重要部門として位置づけられ、国内のドナーをまとめ、政府とドナー間の仲介役、リード機関としての役割を果たしています。私の所属するUNDPブルキナファソ事務所環境エネルギー部門だけでも、今日、約20のプロジェクト(気候変動、生物多様性、土壌劣化、キャパシティ強化、環境政策、農村のエネルギー問題、農業問題など)に取り組んでいます。このように西アフリカの小国ブルキナファソが多くのプロジェクトを誘致する要因に、国家の安定性があげられます。深刻な貧困問題が存在するものの、部族間の紛争、宗教間の対立はなく、共同体の連帯感が強く、働き者の国民性で知られるブルキナファソは、国際機関が行うパイロットプロジェクト(テストプロジェクト)国に選ばれることも少なくありません。

主に地球環境ファシリティー(GEF)から基金を受け実施するプロジェクトが多数を占めています。特に93年のリオ宣言後、生物多様性条約、京都議定書、砂漠化防止条約への調印などに応じたブルキナファソには、これらの条約協定を実現するための支援の一環として多数のプロジェクトが約束されました。他方、UNDPが直接基金を投じるプロジェクトでは、中央・地方レベルでの環境政策の見直し、行政能力を強化すること(関係省のキャパシティー・ビルディング)を目的としています。これらの中でドナーの高い注目を集めるプロジェクトは、「環境経済プロジェクト(自然資源、水・森林資源・土壌保全が国の経済にとって如何なる価値を伴うか、という分析)」・土地の持続的使用を踏まえた灌漑、農業技術の普及・土地所有権の制度見直し・農村のエネルギー問題に対する取り組みです。今日ブルキナファソ政府が最も力を入れているのは「地球環境市民」の全国キャンペーンです。地球環境市民を定義したガイドブックはフランス語をはじめ4つの現地語に訳され、全国各地で6ヶ月以上にわたったキャンペーンは、環境省の強いリーダーシップのもとに行われました。この活動は、環境の保全に対する共同体・個人の認識を高め、次世代に豊かな自然資源を託すことの大切さを主張するものとしてドナー間に強い支持を得ています。


5. 現在のポストについて

配属先のUNDP環境・エネルギー部署は4人のプロジェクト・アナリスト(ブルキナファソ・日本・カナダ・フランス)とチームリーダー(1人)とアシスタント(1人)の計6人で構成されています。チーム・リーダーは、ブルキナファソのナショナルスタッフで、それまで環境省の大臣として活躍された方です。ドナーとの会合、調整を取りまとめるのはナショナルスタッフの仕事であり、私は、同僚と共にプロジェクト運営を分担し、また環境・エネルギー部署のデリバリーを担当しています。

まず、プロジェクト運営に関して私が分担しているのは、気候変動と国家能力自己評価(National Capacity Self-Assessment)、農業の分野です。この中でも特に重要なものは国家能力自己評価プロジェクトです。リオ宣言後、これまで数多くの機関が、気候変動、生物多様性、土壌劣化、水と残留農薬問題をテーマに支援を行ってきたにもかかわらず、各組織間、ドナー間の連帯性、協調性が重要視されず、結果的に効果的な統一した政策・決定的な支援策を打ち出せずにきました。この国家能力自己評価プロジェクトは、その打開策としてGEFが途上国40ヶ国において同時に実施しているプロジェクトです。それは、リオ宣言後から現在までに実施されてきたプロジェクトの情報公開とその成果を把握し、中央・地方レベルでの人・組織の総合的評価、報告書や研究データーをもとにドナーを交えての交換協議を行い、その後の行動計画に導くことを課題に定めています。プロジェクト運営はデスクワークの仕事が主です。私の場合は、プロジェクト実施機関である環境省とUNDP事務所を行き来することが多く、少なくとも1週間に3度は環境省を訪れます。多くの場合、環境省や農業省の職員がプロジェクトの責任者となっており、彼らとプロジェクト基金運営、年間のプラン、進行具合などを話し合い、各部門での専門的なリサーチを行うコンサルタントを選ぶ面接なども行います。また機会があればフィールドに出ることもあります。上記の国家能力自己評価プロジェクトでは、ブルキナファソ第二の都市ボボ(コートジボアールとの国境の町)で行われた最終報告会(リオ宣言後、93年度から現在に至るまで地方都市5カ所で行われてきた条約関連の活動や、気候変動・生物多様性などに関する活動報告)に出席するため地方へ出張しました。首都圏との大きな違いはやはり人材の少なさ、それに伴う組織の弱さ、また知識の貧しさでした。地方都市からの出席者の中には、京都議定書や砂漠化条約についての知識がない人も多く「京都議定書とは?」といった質問事項を度々耳にしました。また、フランス語で行われたプレゼンテーションや討論を理解できず現地語の使用、翻訳を求める参加者も多数みられました。公用語のフランス語での識字率は30%以下という厳しい現実を目にしました。

次に、私の担当するプロジェクト・デリバリーについて述べます。私は、環境・エネルギー分野全てのプロジェクトに関しての基金管理・プロジェクトの進行具合のモニタリング、さらにプロジェクト基金の消化率の管理、いわゆるプロジェクト・デリバリーを担当しています。すなわち、オフィスの総評価を左右するプロジェクトのデリバリー率(プロジェクト基金に対し、どれだけの基金が消化され、成果を出しているか)をモニタリングし、またプロジェクト運営をいかに調整していくか、というのが私の役割です。現場では、プロジェクトを実施する機関との信頼関係を育む努力、迅速で柔軟な対応、多方面でのサポート、それらを通して何よりも結果につなげることが求められます。文化の違いから生じる見解の相異を乗り越えるためにも、互いを理解し尊重する姿勢、そしてプロジェクトに定められた共通のゴールに向けてどれだけ効果的に成果に結びつけるか、ということを常に心がけて仕事に取り組んでいます。---------------- 


6. 日本とブルキナファソ

ブルキナファソUNDP事務所に着任してから約1年半が過ぎました。私は今、プロジェクト運営・環境・エネルギー分野のプロジェクト・デリバリーなど、与えられた任務に加えて、今後の課題として日本とブルキナファソの関係構築に貢献出来ればと考えています。UNDPブルキナファソ事務所は環境・エネルギー分野のリード機関として各国のドナー・他の国連機関等を調整する立場にあります。そのことから私は、各国の事情を把握し、日本の立場を客観的に学ぶ機会を持つことができました。同時に日頃の環境省、関係機関との仕事を通して、現場で必要とされている支援を実感し、現場との距離が近くなりました。今、日本の対アフリカ支援拡大が宣言され、来年度2008年のTICADアフリカ開発会議の東京開催が目前にせまっています。しかしながら、日本が途上国に対し提供している支援や信託基金の数々、例えば人間の安全保障基金やNGOや共同体を支援する草の根無償資金などの存在はブルキナファソではまだあまり知られていません。そのことから、私は現在のポスト、UNDP環境プロジェクト・アナリストとUNVという立場を活かし現地が一番必要としている支援に日本の協力が結びつく道を具体的にさぐりたいと思っています。特にブルキナファソで環境・農業分野で長い実績を持つJICAオフィスとの連携はUNDPブルキナファソ事務所にとって大きな即戦力であり、UNDPブルキナファソ事務所環境部署は、JICAブルキナファソ事務所と共同運営のプロジェクトの可能性を模索しています。そして、国連ボランティア計画と日本の海外青年協力隊はボランティア派遣機関としてパートナーシップの構築、またその中で日本のボランティアが持つ技術協力をいかに現場に届け、活かすことが出来るのか、相互の関係者の間に協議の場をもうけ、話し合いに参加しながらブルキナファソと日本をつなぐ橋渡しに貢献出来れば、と奮闘する日々を送っています。


7.終わりに

フランス語圏のアフリカで働くことは、大学院に入学した当初からの夢でした。国連ボランティアで研修生をしていた頃、廊下の大きなアフリカ地図をみながら、「いつか私も」と願っていました。ブルキナファソでの経験はまさに夢の実現でした。背中をおして下さったすべての方に心から感謝しております。

最後に、アフリカでの勤務を夢見る方に、2つアドバイスがあります。まず1つ目は健康管理です。厳しい気候条件を乗り越えるため、基礎体力をしっかりつけ健康管理に励んで下さい。健康だけが取りえであった私には想像もつきませんでしたが、慣れない風土に度々体調を崩し苦しみました。そんな時、私の尊敬する上司が「長旅を目指すものは馬の世話が出来る者でなければならない」とブルキナファソの諺で励ましてくれました。健康でいることの大切さをアフリカに来て実感しています。2つ目は、「聞く」ことの大切さだと思います。言葉や文化の壁、性差別、アフリカは「働く女性」にとって決して容易な場所ではありません。組織や自己の理想・見解を押し付けるのではなく、相手の声に耳を傾け、時間をかけてお互いを理解しあった上での決断と行動する力の大切さをつくづく考える今頃です。

(2007年5月12日掲載 担当:井筒)



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