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草道 裕子さん
国連児童基金(UNICEF)東京事務所・オペレーション・マネージャー

 

草道裕子(くさみち・ゆうこ):神戸出身。慶応大学および同大学院卒業後、ケ ンブリッジ大学にて開発学修士取得。1995年より2002年まで日本赤十字社国際部 にて海外事業調整等に携わり、2002年にはUNVとしてバルバドスにあるUNICEFカリ ブ地域事務所に勤務。2005年には、日本紛争予防センターより津波被害者支援の ためスリランカに赴任した。その後2005年から2007年まではUNICEFスワジランド 事務所にてJPO。2008年より現職。

Q. 国連に入るきっかけはどのようなものでしたか?

私の高校には、青少年赤十字クラブというものがあって、それに入ってボランティア活動をしていました。学生時代もレッドクロス・ユースの研修をしたり、学習障害児のキャンプを企画したりしていました。そして就職活動の時に、赤十字で働いてみようと決めて、日本赤十字の国際部に配属され、海外プロジェクトの調整をしました。そこでは7年間勤め、30歳になった時に日本で調整ばかりやっているよりも現場へ行きたいと思い、UNVに応募しました。その時ちょうど自分の赤十字での経験と国連で募集していた人材のニーズが合って採用され、バルバドスにあるUNICEFのカリブ海地域事務所に派遣されました。そこで青少年関係の保健教育のプロジェクトを担当したところ、とてもやりがいを感じて、「国連の仕事っておもしろい!」と思い、国連職員を目指すようになりました。

Q. UNVで派遣された時と赤十字で働いていた時ではどのように心持ちが違いましたか?

赤十字で働いていた時は、政治的に中立であることが求められていたので、自分の考えや立場は明らかにできませんでした。しかし逆にUNICEFでは子どもの権利条約推進が使命なので、人権重視をはじめとする原則を自ら打ち出していかないといけません。これは、コミュニティ・レベルで必要なノウハウやものを提供するだけでなく、その国の政府の政策形成に影響を与えていけるということを意味します。政治的に中立かそうでないか、どちらにもメリットはありそれぞれにやりがいは感じていました。

また、UNICEFの場合、組織の目的は明確であっても、その目的達成の手段は自分で柔軟に決められることが多く、そこがとても楽しいです。それにUNICEFでは創造的であること、革新的であることが重視されるので、周りの人たちも個性が強く刺激を受けています。

Q.草道さんは現在どのようなことに問題意識を感じていますか?

UNICEFのJPOとしてスワジランドの事務所に行ったことがあるのですが、そこはHIVの感染率が非常に高いこともあり、両親や祖父母を失って子どもたちだけで生活している世帯も多いところです。そこで私は、UNICEFの事業モニタリングおよび評価の担当官として、現地の子どもたちがUNICEFの活動をどう思っているのかを聞くワークショップを行いました。その時に11歳の男の子に出会ったのですが、栄養も足りていないせいか見た目も小さく、両親を失って妹と二人で生活をしているとのことでした。

彼はこういう風に言うのです。「お昼ごはんはUNICEFからもらえるけど、夜は自分で何とかしなきゃいけない。だから今は近所の人にごはんをもらって生活しているんだけれども、みんな貧しくて、家に病気の人がいたりするから、僕が行くと嫌がられるんだ。でも妹にも食べさせないといけないから、嫌がられても我慢してみんなの家をまわってる。だけど、僕は食べ物をもらって歩いているのではなくて、借りているだけなんだよ。将来返すつもりで借りているのだからみんな貸してくれたらいいのに…。」子どもの権利を保障してあげましょうと言うのは簡単だけど、一人ひとりの子どもの生活を実際に助けていくのは難しいですね。

また、幼いころに親と死別すると子どもたちだけで生計を立てていかなければならないので、お手伝いさんとして働いて、そこで性的搾取を受けたりするおそれがあります。このままではHIVが増加するばかりになってしまう。今は東京にいて、直接かかわっているわけではないけれども、なんらかの形でこのような問題とつながっていきたいと思っています。

Q.海外赴任でたいへんだと感じることってありますか?

スリランカにいた時、イスラム教徒のコミュニティに住んでいました。そこの人達はとても温かく、全然知らない人たちが日本人がいるということだけで間借りしていた民家に私を見に来たりして、「この人何しに来たんだろう!?」みたいな経験もありました。それから、ストライキで市場が閉まることがあって、その時は食べ物を買えないのですが、そういう時は、母屋のおばさんが食べ物をくれるのです。だから玄関はいつも開けっぱなしじゃないといけないんですよ。こうしたことはたいへんっていえばたいへんでしたが、ストレスには感じなかったですね。

もちろんこういうことが苦に感じる人もいると思うのですが、私はけっこう平気です。というのも、最初に途上国へ行ったのが日本赤十字社の時の、フィリピンのサマールというへき地の村への派遣だったんです。そこでは車で西サマールの主都から車で5時間くらいかけて移動して、そこからボートでさらに2時間くらい川をさかのぼって、やっと村についてそれだけでドッと疲れたものでした。最初にショック体験をしたことで慣れたのでしょうね。

あとは、ものすごくお腹をこわして這うようにして飛行機に乗った時は辛かったです。でも、それで嫌になることはなかったですね。確かにその時はつらいけど、私の場合あとから笑い話にしてしまえるし、フィリピンでお腹をこわしたときは、現地の赤十字の人がずっとお腹をさすってくれて、優しいなぁと感じました。

Q.いま取り組んでいるプロジェクトは何かありますか?

私はいまオペレーション・マネージャーというポストについていて、日本事務所の人事、財政、総務全般を担当しているのですが、それ以外にUNICEFの日本人職員を増やす役割を担っています。日本人職員の数は年々増えているのですが、数が増えるだけでなく質も重要で、例えば上級ポストに日本人がつけた方がよいということがあります。国連のキャリアに興味を持っている方も多くなってきたことから、UNICEFの人事部長が来てキャリア・セミナーをしたりしています。

Q.これは忘れられないという経験はありますか?

世界の子どもたちの現実を見ることは辛いことです。それに、私たち国際職員がどんなにある子どもをかわいそうだと思っても、2年前後のUNICEFの異動サイクルの中では関与し続けることはできません。でもこういうこともあるんです。スワジランドにいた時、現地雇用のスタッフは国連で働いていて他の人よりは給料があるので、自分の子ども以外も何人かの子どもたちの学費を払っていました。また、ワークショップに参加した子どもをそのまま帰してしまうのではなく、その子が学校に通えていないのであれば、職員が通える学校を探したり、通学ための靴や机や椅子を揃えるために、お金を出し合って買ってあげたりしていました。また、孤児たちのための炊き出しのボランティアをかってでたコミュニティのおばさんたちは、WFPから支給される食糧には調味料は含まれていないので、自宅から持ってきたりします。こういう風に、それぞれの国で必死でみんな助け合っているのを見るととても明るい希望だと思います。

それから、日本紛争予防センターというNGOの仕事でスリランカの津波救援に行った時に、被災者の為に生計の手段を提供する事業をやっていました。漁船を失った漁師さんには船をあげたり、魚売りの人には自転車とアルミのケースをあげたりしていたのですが、それらをあげる前にワークショップを開いて、津波の体験を振り返ってこれからどうやって生活していきたいかを話し合いました。その時に、今回自分は選ばれて道具をもらえるので仕事を再開できるけど、同業者でまだ仕事に復帰できない人たちに何かできないかという話がよく出ました。そこで、みんなで毎週働いてお金を持ってきて、今回仕事道具を受け取れなかった人々に順々に備品をあげるための基金をつくりました。その時私は、何もかも失った人たちに毎週お金を持ってきてもらうのは酷だと思ったのですが、ふたを開けてみるとみんなちゃんと持ち寄るのです。外部の人間は一時的に何かをしてあげることしかできないんですけど、現地の人達がお互いに助け合ってよくなろうとする気持ちは素晴らしいと思っています。

Q旦那さまとはどんな方ですか?また、お仕事と育児の両立はたいへんですか?

主人はキューバ人の医師で、スワジランドにいた時に知り合いました。現在は東京で子どもと3人で生活しています。仕事と育児の両立はたいへんなところはありますが、自分のなかで本来やらなきゃいけないことを決め、取捨選択してやっています。週末は家事と育児に追われていますよ。これから先どこかに派遣されるとしたら、子どものためにもあまりにも無謀なことはできないのでよく調べてから行きたいですね。

Q.ご趣味はなんでしょうか?

昔バルバドスにいたときは島国で、他にやることがなくて、住んでいたところの近くに空手道場があったので空手をやり始めました。でもさすがに今は育児に体力を使われているので、もう一度やろうとは思えませんね。でも、子どもがもう少し大きくなったら一緒に空手を習うのもダイエットにいいかなぁとは思います。

Q.学生へのアドバイスをお願いします。

NGOのスタディ・ツアーとか海外ボランティアなど、いろんな経験をするべきです。旅行者としていくのとはまた違うと思います。以前上司に言われたのは「仕事のできる人のことは社会がほっとかないから、自然に仕事の方からやってくる」ということです。学生の時は焦って、どうやったら国連職員になれるのか考えるでしょうが、あんまり若いうちにこれは私のしたいことではないからやらないなどという計算はしない方がいいと思います。どんな経験にも意味はあるので、いろんな経験をした方がいいです。そして、やっていて楽しいなぁ、興味がわくなぁということはとことん追求して深く知ること、なんでもチャレンジすることが大切だと思います。

 

 

 

(2008年7月30日。聞き手:望月麻衣、池川遥、長島啓輔、ともに法政大学長谷川祐弘ゼミ。写真:田瀬和夫、国連事務局人間の安全保障ユニット課長、幹事会コーディネータ。)

2008年9月20日掲載

 


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