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保田 由布子さん
国連世界食糧計画 (WFP) 日本事務所 広報官

 

保田由布子(やすだゆうこ):中学時代の3年間をアメリカで、大学時代の1年間をフランスで過ごす。東京大学教養学部アメリカ科卒業後、1998年、NHKにディレクターとして入局。名古屋放送局・岐阜放送局に5年間勤務し、社会番組や地域情報番組などを制作後、東京の放送センターに異動。「週刊こどもニュース」の制作を担当。2006年8月、NHKを退職し、WFP日本事務所の広報官に転職。

Q. 国連職員になるまでの経歴を教えてください。

国連職員になるきっかけは、育児休職中での偶然の出来事だったのです。ある日、夫に「由布子は国連職員に向いているよ」と言われたことをきっかけに、国際協力の人材募集HPを見ると、WFPが広報官を募集しているのを見つけました。そこにはメディア、マーケティングの経験7年以上、英語が堪能でもう1つ語学が出来ればなお良し、と書いてあり、これは正しく私のことだと思ったのです。

私は当時NHKでディレクターとして働いており、ちょうど8年目を終えたところでした。また、小6から中3までアメリカで生活をし、大学時にはフランスに留学してフランス語を勉強しました。NHKでは「週刊こどもニュース」を担当していたのですが、アフガニスタン難民、イラク戦争、不公正貿易問題といった国際問題をテーマとした特集を好んで作っていました。なので、この募集の話を親身になって聞いてくれた夫による後押しもあり、自分にとっていい経験になるのではと思い、応募をしたのです。

もしそのままNHKにいたとしても国際問題を扱っていこうと考えていました。ですので、WFPの広報官になっても日本のメディアに対し、今こういった問題があるよと提起するという点で同じこと、しかも自分がやりたいと考えていた問題に特化できるんだと思いました。また、私は自分の人生に波が来たと思った時は、必ずそれに乗ろうと思っています。なぜならその波は何かの導き、意味があって自分のところに来たのだと思うからです。そういった波に乗れないと、今後自分の人生においてどんなチャンスも手にすることができないのではないかと思います。ですので、私はWFPの広報官になることを決めました。 

Q. WFP広報官としてのお仕事を教えて下さい。

WFP日本事務所には10人が勤務しており、政府からお金を調達する部署、企業・個人からお金を調達する部署、広報の3つの部署があります。私は広報官として日本のメディアの方の問い合わせにお答えします。逆にメディアに対し、WFPではこういった話、ニュースがあるので取材していただけますかと「営業」もします。

もちろんただ単に事実がある、と言っただけではメディアに取り扱っていただけません。ですので、WFPが取り上げたい話を、なぜ今取り上げる意味があるのか、どういった角度から見ると面白いか、他にどういった事象に関連しているのか、といったところまで調べ、メディアに使っていただけるものに料理をしてから売り込みをするのです。メディアが求めているものを理解してつくるという点で、NHKで働いていた経験が役に立っていると感じます。

例えば、最近では「穀物の高騰」が世間を騒がせています。WFPは穀物を買って配っている機関ですので、高騰により当初予定していた予算では足りなくなり、現在追加資金を各国に緊急要請しています。ですので、この緊急要請の話を扱っていただくため、「穀物の高騰と飢餓」をテーマとした記者懇談会を先日行いました。この懇談会での発表内容や配布資料の準備、記者の方たちからの問い合わせ対応などが広報の仕事です。

記者の方には経済部の方や国際部の方といったそれぞれの専門があります。皆さんそれぞれに問題を見ている角度が違うので、そこを理解し、その記者さんが興味を持つだろうと思う部分を的確に提供することが大切です。なので、時間が許す限り、できるだけ個別にコミュニケーションをとるようにして、その人のニーズにあった情報を提供することを心掛けています。

また、国連WFP協会と合同で行うイベントでは、企画立案や案内の発送、スピーチの準備、メディアへの売り込みなどを行います。支援者にWFPが行っている援助を身近に感じてもらうため、実際に途上国で配っているビスケットやお粥を試食してもらうブースを作ったりもしました。

Q. 国連職員になってみてたいへんだった、難しいと感じたことを教えて下さい。

今でも苦労していることですが、国連職員の方は、相手の機嫌を損ねずに自分の意見を言うという、いわゆる外交官的な表現が上手です。しかし、私はマスコミ出身ということもあってか、「はい、私はこう思います」とストレートに意見を言い過ぎてしまうので、柔らかい言い方も使いこなせることが必要だなと思いますね。あとは、入った当初は膨大な量の英語の資料を読むことが大変でした。

また、私は国際協力、開発とは何かといった基礎知識がないまま国連の世界に入ってしまったので、もっと勉強をしたいと思います。知らない分、実際に仕事をやりながらたくさんのことを学べるという充実感はあるのですが、やはり知識は私に足りない部分だと思います。また、広報は伝えることが大切なのですが、私は現場のことが実際にはわからないので、たくさんの資料を読みこんでも伝聞になってしまいます。やはりものを伝えることは、自分の心にあるものを伝えるということが軸であると思うので、現地経験のなさはしょうがないことですが悩むところです。

Q.国連職員になってみてやりがいを感じたことを教えて下さい。

やりがいを感じるところは、私の経験がすべて活きて、私はこの仕事に生かされているなと思うことです。苦労して学んだ語学もそうですが、NHKでメディアの人のモノの思考、求めているものを学んだことによって、WFPの中にある、本当は伝えたら良いのだけれども、伝えられていないものを掘り起こせるかなと思います。そうやって、自分が今まで生きてきて学んだことすべてを使い、伝えたら良いものと伝えたい人の橋渡しになり、世の中にとって役にたっていると感じられることはすごく嬉しいことです。

そういったことを考えると、自分がやりたい仕事をやるというのも一つの考え方ですが、私の場合は仕事が自分を生かしてくれているのだと思います。仕事が私に求めてくれるものがあるということはとても素敵なことだと思いますし、やりがいを一層感じます。

子どもの存在もまた、私にやりがいを与えてくれます。今2歳半なのですが、母親になってみて子どもがいかに愛しむべきものなのかを再認識しました。また、例えば被災地の親子の写真を見ると今までより具体的に親の気持ちを感じるようになりました。今やっている仕事が少しでも世界の子どもたちの役にたっていると思うと嬉しくも思いますし、やらなくてはと思います。子どもを寝かしつけて夜中や早朝から仕事をすることも多く、余裕のない毎日ですが、疲れていても、朝起きて顔を見ると「こういうかわいい子達が、世界にはいっぱいいるんだから頑張らなきゃな」と思います。

Q. 将来は現場で活躍したいと思いますか。

そうですね、WFPという機関はそもそも最前線の現場で活動する機関ですし、今後モノを伝えていくためにも現場経験が大事だと思うので、ぜひ現場には行ってみたいと思います。

しかし一方で、小さい子どもがいる今、家族が離ればなれになっていいのだろうか、という私生活と仕事のバランスについても考えます。20代の独身時に現場経験を積んでおけば良かったと思いますが、そうではない道を通ってきて今の私があるわけで、今の私にできること、やりたいことは何であるかということを考えます。

国連の援助活動においては、現場ですごく活躍する人もいると思いますし、先進国で資金調達や人々にモノを伝えて現場の活動を支えている人もいる、この両輪があって成り立っていると思います。もちろん現場での活動もしてみたいですが、広報や資金調達にもとても興味があるんです。それでは、いま自分がやりたくてできる、両方を兼ね備えている場はどっちだろうかと考えると、それは自分の経験がすべて活かせる後者ではないかと思うのです。ですので、今は日本でできることを精一杯やろうと思います。けれども、フィールドに強い憧れはあるので、この気持ちは日々揺れ動いています。NHKからWFPへの転職を決めた時のように人生の波が来てくれたらいいなと思いますね。

Q. これから国際協力の場でどのように活躍したいですか?

実はあまり思い描けないんですよね。2、3年先のことまでじゃないと考えられないのです。なぜならあまり10年後の自分のことを思い描いて行動していくのもつまらないと思うからです。そうではなくて、今、目の前にあることを一生懸命やって、その結果として道が開けていくのではないでしょうか。もちろん受身なだけじゃだめですから、能動的に動き、目の前の近い目標を着実にこなすことによって、次の新しい自分が活躍している姿が見えてくると思います。

今はまず、家庭と仕事の両立が私の目標ですね。家族でいる時は100%家族に愛を注ぎ、仕事をしている時は一生懸命仕事をする。仕事の疲れは育児で癒し、育児の疲れを仕事で癒すことをモットーとしてこれからも行動していきたいです。

Q. これから国際協力の世界を目指す人へのアドバイスをお願いします。

私は、何でも良いのでこだわらずに飛び込んでみることが大切だと思います。組織を離れても人は変わらないと思います。私はNHKを離れてWFPに入りましたが、自分が大切と思うことを伝えるという自分の中の大事な部分は変わっていません。どこの場所に立っても自分が大切と思えることを、臨機応変に行動に移せる人になることが重要だと思います。例えば、国連じゃなくても、企業、メディア、NGO、どの場所でも国際協力はできますし新たな視点を手に入れることができると思います。臨機応変に、軽々と、自分自身を生かす場を見つけて生きていくことが素敵だと思います。


(2008年3月26日、聞き手:古市美奈、法政大学にて国際政治学を専攻。写真:田瀬和夫、国連事務局OCHAで人間の安全保障を担当。幹事会・コーディネーター。)

2008年6月24日掲載

 


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