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灘本 智子さん
バングラデシュ国連調整官事務所(国連開発計画(UNDP)所属)

Q.国連で勤務することになったきっかけを教えてください。

灘本智子(なだもとさとこ):
南山大学外国語学部英米学科卒。国連地域開発センター(UNCRD)での7年間の勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学国際関係修士号、サセックス大学開発学研究所(IDS)ジェンダーと開発修士号を取得。ロンドン大学政治経済大学院(LSE)ジェンダー研究所博士課程在学中。2006年10月よりJPOとしてバングラデシュ国連調整官事務所に勤務。

大学時代に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で働いておられた石川幸子さんの「東南アジアの風に吹かれて」という本を読んだのがきっかけで、漠然と国連に関わる仕事が将来したいなと考えるようになりました。その後、大学卒業してすぐに名古屋の国際連合地域開発センター(UNCRD)で旅行担当として勤務を開始し、1年後に人事兼総務部長秘書を任されることになり、その後6年間勤務をしました。初めての仕事がたまたま国連で運が良かったと思います。

その後、国連で専門職を目指すためには修士号が必要と考え、ジョージ・ワシントン大学国際関係学科に留学をしました。在学中に、世界銀行のジェンダーと開発グループでインターンをする機会があり、ナレッジ・マネジメントのサポートと「ジェンダーと情報コミュニケーション技術(ICT)」の研究の補佐をさせていただきました。世銀でのインターンを通じて、ジェンダーという学問にさらに興味を持つようになり、英国サセックス大学開発学研究所(IDS)ジェンダーと開発の修士課程に進学しました。その後、「ジャマイカのテレセンターにおける女性のエンパワメント」について研究するため、LSE(ロンドン大学経済政治大学院)ジェンダー研究所博士課程に進学をしました。

LSEに在籍中、西洋におけるジェンダーという学問と途上国の女性の暮らしのギャップに疑問を感じ、博士課程を終える前に今まで学んできたジェンダーという学問が途上国の女性の生活の向上に実際にどのように役立っているのか自分の目で確認するためにJPOに応募し、バングラデシュに赴任することとなり現在にいたっています。

Q. 今なさっているお仕事はどのようなことでしょうか。

バングラデシュでは 国連常駐調整官事務所(ORC: Office of UN Resident Coordinator)に所属し、主にジェンダーと人権を担当しています。具体的には、バングラデシュには12の国連機関があるのですが、これらの機関のジェンダー関連のプロジェクトまたは活動の調整をしています。現在特に取り組んでいるのは、「女性に対する暴力防止共同イニシアティブ」の事業提案作成です。このプログラムが実現すれば、今後3年間、バングラデシュでほぼすべての国連機関が参加して女性に対する暴力、特に家庭内暴力を防止するための様々な活動を共同で実施することになります。

ジェンダーの分野では、国連機関の間の調整を担当しているため、直接にプロジェクトの実施に携わる機会が少なく残念に思っていますが、今後バングラデシュの女性のための国連共同プログラムを計画また実施することにより、開発の受益者である現地の貧しい女性と話をする機会がもっと増えるといいなと感じています。特にバングラデシュの女性は男性に比べて、教育、保健、政治への参加などすべての面で差別されているので、国連という組織を通じてバングラデシュの男女平等を推進していきたいと考えています。
また、バングラデシュでは女性に対する暴力の問題がとても深刻なので、被害者の自立を支援するような形で長期的な解決策を政府に提案していきたいと考えています。

実は私は最初はUNDPのジェンダー担当官としてバングラデシュに赴任する予定だったのですが、到着してみたら常駐調整官事務所に配属されていました(笑)。人権や人間の安全保障など他の分野も担当することになりましたが、ジェンダーについては私が担当ということになっているので満足しています。バングラデシュの国連機関を代表して、スリランカとネパールで行われたジェンダー会議にも出席させていただき、毎日がとても充実というか、ますます忙しくなってきています。しかし、常駐調整官事務所での仕事は国連改革の一環としてこれからさらに重要になる分野だと思いますので、国連常駐調整官の下で直接働けることも含めて、今の仕事を得られてとても幸運だったと思います。

現在の勤務先に配属されてまず初めにしたことは、現地の各国連機関のジェンダー担当者に会い話をすることでした。その結果わかったことは、彼女たちは自分のプロジェクトを運営することに毎日忙しく、お互い何をしているのかも知らず、交流もあまりないということでした。この問題を解決するために、各国連機関のジェンダー担当者からなる分野グループを作る準備を現在しています。今年に入り、スペイン政府がMDG達成基金として今後3年間に7億ドルをUNDPを通じて提供することを決定したので、バングラデシュでもジェンダー分野で国連共同プログラムを実現して、各国連機関がこの分野で協力を行うインセンティブを提供できればと考えています。

現在、バングラデシュは暫定政府(Caretaker Government)の下でいろいろな改革が行われています。この政権がいつまで続くかわかりませんが、前政府と比べても開発コミュニティからの提案に関して非常に協力的で、いろいろなことが実現しやすい状況にあります。また、UNDPによる支援については選挙が最重要事項になりつつありますので、この分野でどれだけ国連常駐調整官をサポートできるかということも私の課題です。

国際社会から見るバングラデシュと、現地の開発関係者が見るバングラデシュとの間では大きな違いがあるので、現地の正確な情報を伝えていくことも国連の役割だと思います。また、警察や軍による非合法の拷問や殺人といった前政権から継続する問題もありますので、人権保護を提案また要請していくことも国連の重要な役割です。

バングラデシュで興味深いのは、国連常駐調整官(RC: UN Resident Coordinator)の役割がUNDP常駐代表(RR: Resident Representative)の時代から進化してきていて、責任が政治や人権など今までは踏み込まなかったようなことにまで広がり、また現地のすべての国連機関を代表することにより政府に対する影響力も大きくなっているように見えます。まさに、一国の大使と同じ立場にあります。その常駐調整官をサポートする事務所には仕事の幅に限界がなく、常駐調整官が必要とする情報は何でも提供しなければなりません。その常駐調整官事務所をUNDPを始め各国連機関がどうやってサポートしていくかということが、今後の課題です。

Q. 現在のバングラデシュの状況を現地の人々・支援国・国連はそれぞれどのように捉えているのでしょうか。

そうですね、現在の状況をバングラデシュの多くの人たちは肯定的にとらえているように思います。ハルタル(ゼネラル・ストライキ)がなくなったので治安は安定していますし。あと、お米など生活に必要な物資の価格を統制する政策を採り入れたり、前政権で汚職に関わった大臣を逮捕したりと、政府に対する国民の支持はまだ強いと思います。国連を含む開発コミュニティの現政権に対する態度も好意的です。しかし、警察や軍隊による拷問や殺人など前政権の時代からの継続する問題もあるので、今までと同じ間違いを犯さないよう人権の保護を提言していくのも国連の重要な役割だと思います。

これまでのバングラデシュでは、法律があってもそれを実施するシステムがありませんでした。女性に対する暴力に関しても、「女性と子どもに対する暴力防止法」(2003年)があるのですが、警察や法的機関の汚職のため、まったく効果がありませんでした。UNDPが支援できることはたくさんありますが、まず土台となる法律や国会など国家制度を改革できる立場にあることは非常に重要だと考えています。

選挙で選ばれていない政府が選挙で選ばれた政権よりもより機能しているバングラデシュのような特別なケースでは、民主主義というシステムに疑問を感じることもあります。ただ、現在の暫定政府は民主主義で選ばれた政権ではないので、その点で非難されることは仕方のないことなのかもしれません。次の選挙がいつになるのか、どうやって欠陥のない民主主義を実現するのかがこれからの注目点になると思います。

前政権までは汚職が蔓延し、バングラデシュへの援助の成果が目に見えることが少なく、現地の開発コミュニティは大きなストレスを抱えていました。しかし、今年1月に現在の暫定政権が誕生してから、多くの開発プロジェクトが順調に進み始めたので、今後数年間バングラデシュで援助に携わることはとてもやりがいがあると思います。

Q. これまで一番たいへんだったことは?

国連に入ってというより途上国勤務で一番困っていることは、インターネットが遅いことです。日本のような先進国に比べると、バングラデシュのインターネットはとても遅いです。インターネットだけでなく、組織の機能するスピードもとても遅い気がするのですが、このような環境の下でも効率的に働く方法を見つけるのが私の課題です。また去年までは、ハルタルで事務所が休みになり仕事にならない日も多くありましたので、そのような緊急事態に対処することもたいへんでした。職務上、ミーティングのため他の事務所を訪問する機会が多くあるのですが、タクシーなどを使ってそこへ移動することも結構たいへんです。

Q. 国連で働く魅力はなんでしょうか。また、これまでで思い出に残った仕事はありますか。

バングラデシュに赴任してまだ半年なので特に思い出に残った仕事は残念ながらまだないのですが、これから多くの国連機関が関わるようなかたちで、女性に対する暴力防止のプログラムをバングラデシュで実現したいと考えています。そのような自分が関わったプログラムが、実際に収入が増えたり、健康状態が改善したりと一人ひとりの女性の生活を向上させたり、死産を減らして子どもの命を救えたりと、そのような変化を実際に現場で見ることができれば、きっと一番思い出に残る仕事になると思います。

Q. 将来はどのような分野でキャリア・アップされていくおつもりでしょうか。

常駐調整官事務所の仕事をする前は、ジェンダーの専門家として一生仕事をしたいと考えていました。しかし現在の仕事の範囲がジェンダーから人権・政治・民主主義・コーディネイションと広くなってしまったので、これからどの分野でキャリアを積んでいくのか考えているところです。ジェンダーとコーディネイションという専門性を活かして、ジェンダーという分野でどこまで国連機関が効果的な手段ができるのか追求していくのもやりがいがあるような気がしています。国連改革の一環として、国連女性開発基金(UNIFEM)や国連人口基金(UNFPA)や女性の地位向上部(DAW)などの機関をまとめて一つのジェンダーの機関をつくろうという動きがありますので、機会があればその政策づくりにも携わりたいと思っています。それから、バングラデシュ以外の国でもジェンダー関連のプログラムの担当者として働いてみたいと思います。

Q. バングラデシュにおける日本の印象および今後どのようなことを期待するか教えてください。

バングラデシュでは、日本政府は自らの機関を使った二国間援助の割合が多いようですが、英国国際開発省(DFID)やECはUNDPを通じて非通常財源(ノンコア)への拠出を使った支援を多く行っています。そういう意味で、残念ながらバングラデシュにある国連機関での日本の存在感は薄いように思えます。デンマークなど常駐調整官事務所に既に経験のあるJPOを派遣して、フィールド・レベルでの「一つの国連」に向けての試みを支援している政府も出てきています。今後多くの国で日本からも「一つの国連」に向けての支援が増えていくと良いなと思います。「一つの国連」に向けて、各国レベルで国連機関がどのように協力を行うのが一番理想かという問には国連の中でもまだ答が出ていないので、その方向性を決める常駐調整官事務所への支援というのは有益なのではないでしょうか。また、現地でのノンコアでの事業への日本からの支援が増えれば、邦人職員としてはとても仕事がしやすくなります。

私の場合、たまたま常駐調整官事務所に配属されて幸運だったと思います。通常UNDPのJPOは、ガバナンスや環境など特定のプログラムに派遣されることが多いのですが、常駐調整官事務所で働くことは国連改革を含め国連全体について学ぶためにとても勉強になります。また、国連常駐調整官を直接上司に持てるということは、とても貴重な経験になると思います。

Q. グローバルイシューに取り組むことを考えている若い人たちへ贈るメッセージをお願いします。

グローバルといってもやっぱり身近なところからはじまると思います。開発という問題を考えるためには、まずは身近で困っている人がいたらその人たちを助けていくような努力ができたら良いのではないでしょうか。海外に出て行くのももちろん重要だと思うのですが、基本は周りの人を幸せにしていく日々の小さな努力から始まるのではないかなと思います。そこから想像力を使って、例えばジェンダーでしたら、家庭内暴力やレイプなど日本でも途上国でも共通した問題があると思うので、そのような共通の問題を一緒に解決していくような努力をしていけばいいのではないでしょうか。

また国連でのキャリアを考えておられる方には、国連で働くということを目標にするよりも、自分が興味のある分野で勉強なり職歴なりを積み上げていく過程の結果として国連に就職された方が、就職されてから自分の専門性を活かして意味のある仕事ができるのではないかと考えています。国連には、私の同僚や上司も含めて女性管理職のよい手本となる方が多くいるので、ぜひがんばって挑戦してください。


(2007年5月3日、聞き手:稲垣朝子、コロンビア大学SIPA。幹事会ウェブ担当。写真・編集:田瀬和夫、国連事務局OCHAで人間の安全保障を担当。幹事会・コーディネーター。)

 

2007年5月14日掲載


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