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ポスト2015開発アジェンダ:日本のリーダーシップを期待

 

国連開発計画(UNDP)駐日代表・総裁特別顧問
弓削 昭子さん


略歴:弓削 昭子 (ゆげあきこ)さん
米国コロンビア大学教養学部卒。ニューヨーク大学大学院で開発経済学修士号取得。UNDPタイ事務所で勤務を始め、ニューヨークUNDP本部に転勤。1983年に帰国、社団法人海外コンサルティング企業協会で勤務後、フリーの開発コンサルタントとして活動。1988年にUNDPに復職、タイ事務所常駐代表補佐を経て、1990年UNDPインドネシア事務所常駐副代表、1994〜98年UNDPブータン事務所常駐代表を務める。1999年からフェリス女学院大学国際交流学部教授として3年間勤務。2002年からUNDP駐日代表を務め、2006年に国連事務次長補兼国連開発計画(UNDP)本部管理局長就任。財務、総務、人事、法務、安全管理などを統括する管理部門の総責任者として、世界各地でのUNDPによる開発協力活動の効率性・透明性を高めることに尽力した。2012年4月より現職。

はじめに
1. 国連におけるポスト2015開発アジェンダ策定プロセスの概観と現状
 1−1.これまでの経緯
 1−2.アジェンダの内容
 1−3.今後の見通し
2.課題
 2−1.課題
 2−2.先進国の役割
3.提言
参考文献


はじめに

ミレニアム開発目標(MDGs)に続く2015年以降の開発アジェンダ策定プロセスは、今重要な時期を迎えています。この記事では「ポスト2015開発アジェンダ策定の流れと内容がわかりにくい」という多くの声に応えて、様々なプロセスと論点の整理を試みた上で、ポスト2015開発アジェンダに関するいくつかの提言を行います。

1.国連におけるポスト2015開発アジェンダ策定プロセスの概観と現状

1−1.これまでの経緯

はじめにポスト2015開発アジェンダに関しての国連の役割について簡単に触れます。新しい開発枠組みは、政府、市民社会、企業、学界等幅広いステークホルダーが参加し、国連加盟国間で協議し、合意されるものです。国連は、この合意形成に向けた議論のファシリテーションと、実証にもとづいた提言、分析、現場での経験を提供し、加盟国間の協議をサポートする役割を担っています。

ポスト2015開発アジェンダ策定に関しては様々なプロセスがあり、主に次のものが含まれます。まず、「ポスト2015開発アジェンダに関する国連システム・タスクチーム(UN System Task Team on the Post-2015 UN Development Agenda)」は2012年1月に国連事務総長の委任により発足しました。国連開発計画(UNDP)と国連経済社会局が共同議長を務め、国連諸機関および世界銀行グループの専門家で構成されています。2012年6月に、報告書『私たちが望む未来の実現に向けて(Realizing the Future We Want for All)』[1]を、事務総長有識者ハイレベル・パネル(後述)へのインプットとして国連事務総長に提出しました。その後も作業部会を通じ、モニタリングおよび指標とグローバル・パートナーシップについて国連システム内外からのインプットを取りまとめ、2013年3月と7月に報告書を発表しています。

次に、UNDP総裁が議長を務める国連開発グループ(UNDG)によるコンサルテーション・プロセスがあります。本プロセスは、包括的で透明性の高い議論の場を幅広いステークホルダーに提供する重要な意義を持っています。このコンサルテーション・プロセスには、次の3つが含まれます。1) 80か国以上の途上国での国別コンサルテーション、2) 11のテーマ別コンサルテーション、そして3) ウェブ上で意見・提言ができる取組み(情報プラットフォーム「The World We Want 2015」と一般の人々が目標を選定する「マイワールド(My World)」)。これらのプロセスには194か国から75万人以上がこれまでに参加しました。その結果は、2013年3月に中間報告書[2]としてハイレベル・パネルに提出されており、9月には最終報告書として発表される予定です。

そして、国連事務総長が2012年7月に設置した「ポスト2015年開発アジェンダに関する事務総長有識者ハイレベル・パネル(The Secretary-General’s High-Level Panel of Eminent Persons on the Post-2015 Development Agenda)」があります。27名で構成される同パネルは、事務総長に対し助言を行う役割を担い、2013年5月、報告書『新たなグローバル・パートナーシップ:持続可能な開発を通じ、貧困の根絶と経済の変革を (A New Global Partnership: Eradicate Poverty and Transform Economies through Sustainable Development)』[3]を国連事務総長に提出しました。

これらと同時並行して進められているもうひとつの取り組みは、持続可能な開発目標に関するオープン・ワーキング・グループ(Open Working Group on Sustainable Development Goals: SDGs)という政府間協議プロセスです。同ワーキング・グループは、国連持続可能な開発会議(リオ+20)で設置が決定され、2013年1月に発足しました。地域毎に配分された30のメンバーシップは、ひとつのメンバーシップにつき1-4か国により共有され、計96か国が参加しています。

この他にも多様なアクターが提言活動を行っています。各国政府の取組みとしては、日本政府主導による「MDGsコンタクトグループ(政策担当者の非公式会合)」が挙げられます。また民間セクターでは、国連グローバル・コンパクトが報告書をまとめています。これ以外に、国連事務総長のMDGs特別顧問であるコロンビア大学ジェフリー・サックス教授が事務総長の要請を受けて立ち上げた「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」が、科学的・技術的見地から研究・提言活動を行っています。ポスト2015開発アジェンダとSDGsは別個のプロセスで検討されていますが、両プロセスは調和をとりながら、最終的には統合され、単一のアジェンダの合意に至る見込みです。

1−2.アジェンダの内容

これらのプロセスの成果にもとづき、ポスト2015開発アジェンダの輪郭が形成されつつあります。ハイレベル・パネル報告書[3]では、すべての国を含む単一の普遍的アジェンダが提唱されており、途上国・先進国や政府・民間・市民社会の垣根を超え、あらゆるステークホルダーが貧困撲滅と持続可能な開発を目指すことが必要とされています。更に、目指すべき5つの変革として、雇用創出(特に若年層向け)と包摂的成長のための経済変革等を提示し、これらの実現に向け12項目からなる目標体系を提案しています。また、UNDGコンサルテーション・プロセスからは、未達成のMDGsへの取組みを継続する必要性、量的側面のみならず質的側面にも配慮した目標設定の必要性、格差への取組み、ガバナンスの重要性等が示されています。

その他のアクターの成果物としては、国連グローバル・コンパクトが2013年6月に4つの分野で達成すべき10の目標とともに企業・投資家が持続可能な開発に取り組む上での指針を提案した他、「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」も同月、SDGs策定に向けた貢献として、持続可能な開発を4側面から分析し、環境の持続可能性に配慮しつつ農業生産量を増加すること等、10の優先事項を提示しています。

1−3.今後の見通し

各プロセスの成果は、国連事務総長報告書(A life of dignity for all: accelerating progress towards the Millennium Development Goals and advancing the United Nations development agenda beyond 2015, Report of the Secretary-General)[4]に集約され、国連総会におけるMDGs特別イベント(9月25日)で議論されます。SDGsに関してのオープン・ワーキング・グループは、テーマ別会合等を通じて2014年2月までインプットを集め、その後、参加国による作業を経て2014年9月の国連総会に報告書を提出する予定です。

なお、国連非政府組織連絡サービス(UN Non-Governmental Liaison Service)は、市民社会との対話を促進すべく、1)ハイレベル・パネル、2)国連システム・タスクチーム、3)UNDGコンサルテーション、4)国連グローバル・コンパクトの4つの報告書に対するコメントをまとめ、2013年9月に国連事務総長に提出予定です。

2.課題

2−1.課題

ポスト2015開発アジェンダは議論の形成段階にあるため、いくつかの論点でまだ方向性が明確になっていません。例としては、1)すべての国を含む単一の普遍的アジェンダの下でいかにして貧困や格差への焦点を保つか、2)財源を含む、実施手段・実効性をどう確保するか、3)測定困難な課題に対する指標をどう設定するか、4)モニタリングは誰がどのように行っていくのか、等が挙げられます。また、各種プロセスの成果物に対するこれまでの市民社会の反応は様々です。ハイレベル・パネルの報告書に対しては「困難な課題への取組みを回避している」、「具体性に欠ける」、「経済成長や市場原理に頼りすぎている」等の批判が寄せられています。

2−2.先進国の役割

ポスト2015開発アジェンダがSDGsと統合され単一の普遍的なアジェンダになれば、日本を含む先進国の役割が変化します。先進国には従来通り、途上国の貧困撲滅と持続可能な開発を支援するコミットメントに取り組むことが求められる一方で、途上国の貧困と環境劣化を助長させている自国の制度や国民・企業等の行動や生産・消費パターンの是正、更には国内における格差と環境の持続可能性確保への取組みも求められることになります。

3. 提言

ポスト2015開発アジェンダ策定のこれまでの動きを踏まえ、いくつかの提言をしたいと思います。

  1. MDGsの達成:MDGsの達成期限を迎える2015年までは、その達成を最優先し、全力を尽くすべきです。UNDGは現在、UNDPが考案した「MDG加速フレームワーク(MAF:MDG Acceleration Framework)」を推進しています。これは、国ごとに進捗が遅れているMDGについて期限内達成に向けた方策を特定し、各アクターの協力を促す仕組みです。2015年まではこうした努力を一層加速し、それでも達成できない目標は、ポスト2015開発アジェンダで継続的に支援していかなければなりません。

  2. 開発分野と環境分野のアクター間のより密接な対話が不可欠:上記のとおり、ポスト2015開発アジェンダとSDGsについての2つのプロセスが並行して進められていますが、新たな開発アジェンダが適切でバランスのとれたものになるためには、開発分野のアクターと環境分野のアクター間のより密接な対話が不可欠です。両者が完全に調和・統合された目標の合意は困難だという見方もありますが、自然災害や気候変動の最も大きな影響を被るのも、海洋・森林資源により直接的に依存しているのも貧困層です。最終的に合意される目標は、生態系を破壊しないグリーンで包摂的な経済成長と同時に貧困撲滅への道筋を示すものになることを期待します。

  3. 異なる目標や分野間のシナジー効果を高める:UNDPが2010年6月に刊行した「MDGs達成のために何をすべきか?国際評価(What will it take to achieve the Millennium Development Goals? An International Assessment)」でも述べられている通り、一つの目標における進捗は他の目標の進展を促すというシナジー効果が見られました。今回のグローバル・コンサルテーションでも、自然環境が教育レベルに与える影響、食糧の安全保障と母子保健等、異なる分野が相互に強い関連性を持っていることが明らかにされています。従って、ポスト2015開発目標では、相互関係(inter-linkage)をより強化し、シナジー効果をさらに高めることが重要です。

  4. 新しく含まれるべき分野・課題:ポスト2015開発アジェンダにおいては、平和構築、良いガバナンス、不平等の是正、防災、若者なども取り扱われることが望ましいと考えます。紛争や自然災害は一瞬にして開発の成果を後退させてしまいます。信頼のおける効率的な立法、司法、行政組織や、政治への参加の重要性は世界各地で起きていることからも明白です。不平等の是正には、地球規模での目標の設定に加え、各国レベルでの政策と実施が必要です。世界の人口の4分の1を占めている若者こそはポスト2015開発目標における当事者であることを踏まえ、若年層の雇用なども重要な課題として取り上げられることが必要だと思います。

  5. 実施のためのグローバル・パートナーシップ:2015年以降の開発目標をいかに効果的なものにするかということと同時に、その実現を可能にするための強いコミットメントと実施体制が必要です。これには、政府のみならず、様々なアクターが目標達成への強い意志を表明し、資源を動員していく必要があります。これまでMDGs達成に携わってきた人々や組織だけでなく、世界中のあらゆる分野の人々へとパートナーシップをさらに拡大し、従来の方法にとらわれない斬新な発想で取り組んでいくことが求められます。先進国、新興国、途上国、政府、市民社会、企業、学界が一体となり、それぞれの強みを生かした形で、新たなグローバル・パートナーシップを組み、相互に好循環を生み出す変革を図ることで、課題解決に大きく貢献できるはずです。

  6. 日本のリーダーシップに期待:日本は引き続き積極的にポスト2015開発アジェンダ策定に向けた議論をリードし、国際的な開発政策合意形成プロセスにおいて強い存在感を示すことを期待します。日本政府は、MDGsの原型ともいうべき国際開発目標(IDGs:International Development Goals)の採択に主導的役割を果たしました。日本は、途上国の発展に必要な技術、資金、人材などに加え、豊富な経験を持っていることも踏まえ、2015年以後の新たな開発の枠組み形成においても、日本政府が力強いリーダーシップを発揮し、また、日本の市民社会、企業、学界などもそれぞれの強みを生かし積極的に参加されることが期待されます。

  7. 最後に
    2015年以後の世界に向けて私たち一人ひとりが団結して行動すれば、貧困のない世界は必ず実現できます。私は開発協力に携わってきた一人として、貧困撲滅に向けての決意を新たにしています。日本にはより強く広く世界に発信、貢献できる力があります。その力が最大限に発揮されるための更なる努力が今必要とされています。読者の皆様には是非、平和で安全で持続可能な世界を実現するためにこの貴重なチャンスを生かし、ポスト2015開発アジェンダに対する意見を発信するとともに、積極的な行動をとって頂きたいと思います。


    注:本記事に記載された提言は、必ずしも国連開発計画(UNDP)の意見を反映させたものではなく、筆者個人の意見です。

参考文献

  1. ポスト2015開発アジェンダに関する国連システム・タスクチーム報告書(2012年6月)
    Realizing the Future We Want for All
    http://www.un.org/en/development/desa/policy/untaskteam_undf/untt_report.pdf
  2. UNDGコンサルテーション中間報告書(2013年3月)
    The Global Conversation Begins: Emerging Views for a New Development Agenda
    http://sustainabledevelopment.un.org/content/documents/841global-conversation-begins-web.pdf
  3. ポスト2015年開発アジェンダに関する事務総長有識者ハイレベル・パネル報告書(2013年5月)
    A New Global Partnership: Eradicate Poverty and Transform Economies through Sustainable Development,
    http://www.ifla.org/files/assets/hq/news/documents/high-level-report.pdf
  4. 国連事務総長報告書(2013年7月)
    A life of dignity for all: accelerating progress towards the Millennium Development Goals and advancing the United Nations development agenda beyond 2015, Report of the Secretary-General
    http://www.un.org/millenniumgoals/pdf/A%20Life%20of%20Dignity%20for%20All.pdf



2013年8月24日掲載
担当:久保山敬太
ウェブ掲載:田瀬和夫

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