ネパール・スタディ・プログラム

第4節 国際労働機関(ILO)

2016年11月21日 13:00-14:00 ブリーフィング(カトマンズ事務所)
          14:30-17:00 企業支援活動現場見学(ラリトプル郡、Lalitpur)

執筆担当者:柳沼孝宗、藤井理緒

概要
国際労働機関は1919年にベルサイユ条約によって国際連盟とともに誕生。1946年には国際連合と協定を結んだ最初の専門機関となった。主要な戦略目標は、「労働における基本的原則・権利の推進や実現」「男女が人間的な雇用を確保できるより多くの機会の創出」「社会保障の範囲・効果の増大」など。
ネパールでは急速に拡大するインフォーマル経済(経済活動が行政の指導の下で行われておらず国家の統計記録に含まれていないもの)において働きがいのある人間らしい仕事(ディーセントワーク)が達成されておらず、GDPの約3分の1を占める農業部門の99%がインフォーマルな状態となっている。このためそのような労働現場での仕事・雇用関係の形式化が急務となっている。


主要な論点
1.プロジェクト概要
ネパールは南アジアの中で2番目にインフォーマル経済が広く浸透しており、GDPの38.4%を占めている(世界銀行、2012)。このような状況はネパール国内でディーセントワークを達成する上での大きな障害となっている。この課題に対するILOのプロジェクトが「インフォ―マリティからの脱却(WOI、Way Out of Informality)」で、2012年6月から4年半にわたって実施されている。主な対象は農家や正規雇用に就けない労働者、主婦など。具体的な援助の例として、ネパール女性企業家協会連合(FWEAN、Federation of Woman Entrepreneurs’ Associations of Nepal)が実施している女性企業家向けのマーケティング研修などがある。同種の援助にUNDPによるものも存在するが、ILOの援助はより小規模なものに焦点を当てている点に特色がある。

2.ネパール女性企業家協会(WEAN、Woman Entrepreneurs’ Associations of Nepal)について
カトマンズに隣接するラリトプル郡のNGO団体・WEANを訪ね、女性就業支援の取り組みを見学した。生産拠点はハーブ部門(Herbal sector)と手工芸部門(Handcraft sector)に分かれていた。ハーブ部門の作業所では、20人ほどの女性が様々な果実から40種類ものピクルスを手作業で生産していた。また、WEANの事務所にはハーブ部門と手工芸部門で作られた多くの商品類を販売するスペースが2フロア設けられ、女性店員が販売対応に当たっていた。
なお、WEANは1994年から手工芸品の生産をスタートし、1989年からは日本へローソクの輸出を開始するなど、先進国への販路拡大を進めている。

3.ネパール地震時の対応
ネパールではそもそも夫が出稼ぎのために海外に行くことから、女性だけで活動を始める必要に迫られる状況があり、WEANの活動拠点には多くの女性が集まっていた。さらに地震後は夫の出稼ぎのみの“片働き”では足りず、女性の労働機会の増進がより一層求められている状況にある。WOIプロジェクトにはILOや日本などの2国間・多国間プログラムとして500万ドルが拠出されていて、2016年末までの期間で起業活動・建設・旅行業の各分野に注力した援助が行われている。現在WEANでは年間売上が1.8億ルピーにまで成長しており、海外輸出の販路拡大などでさらなる売上増加を見込んでいる。

所感
FWEANで農産品を加工する現場を見学したが、作業にあたっている女性労働者らには笑顔があふれ、自信に満ちた表情も伺え、前向きに取り組んでいる印象を受けた。手工芸品も手織りのスカーフやコースター、アクセサリーの他、金工・木工細工や文房具など多岐にわたり、タグには“handmade in Nepal”と手作りを強調する工夫が凝らされていた。先進国の趣向を意識した商品作りのシステム構築が進んでいて、今後のネパール経済発展の力強い柱の一つになる可能性を感じた。