ネパール・スタディ・プログラム

第5項 ネパールの教育問題

執筆者:小野 好之

問題意識及び問題意識をめぐる議論
教育、人材の育成は、すべての課題を解決するための最も重要なベースである。その認識のもと、基礎的な情報(教育制度、機関、就学率/識字率などの統計情報等)、社会的弱者の就学状況、教育環境向上に向けた政府・国際機関・NGOの取り組み状況について、研究グループが行った調査研究結果が報告された。

1990年以降、就学率が上昇し、ミレニアム開発目標(MDGs)の目標は達成した。特に高等教育への進学者や、海外留学者が大きく増加している。
一方で、都市部(カトマンズ盆地)と地方では大きな格差があること、加熱ぎみの受験競争が学歴による格差拡大につながっていることなどが課題として見えてきた。
また、震災による学校施設の被害は大きく、多くの子供達が粗末な仮設校舎で学んでいる実態もある。

ディスカッション内容
就学率が向上している一方で、中途退学者が多いという事実に対して、議論がなされた。一つには家計の経済的な問題があげられる。学力不足で落第を重ね退学するケースも多いようである。これは教育の質、教員の質に起因していると考えられる。地方ではまだまだ女性の地位が低く、封建的な社会慣習が残っており、若年結婚で学校を去ることもあるようだ。また、学校を卒業しても、それを活かした職業に就業できないことも要因の一つではないかと思わる。
カースト差別による教育機会の格差については、仮説としては想定でき、おそらく影響は大きいと考えられるものの、日本で入手できる公のデータには現れてこないため、議論を深めることはできなかった。

問題意識に対する仮説
以上のような議論を踏まえ以下のような仮説にいたった。

  • 中途退学者を減らすことが重要課題。教育の質・教師の質の向上対策と、学校に行けなくなった子供達の受け皿が必要である。
  • 都市部と地方(特に西部山岳地域)での格差が大きい。これは経済環境を反映したものであり、外部からの援助が必要である。
  • 被災地での教育設備の復旧は未だ十分ではなく、さらなる支援が必要。

参加者コメント
子供たちは最も弱い立場であり、なかなか子供の視点での報道や議論はされないことが多い。ネパールでは厳然としてカースト制度があり、その影響は少なからず教育の問題に影を落としているはずだが、事前勉強会ではその核心に迫ることはできなかった。現地の学校や村を訪れ、実際に子供たちと接する中で、気づきがあるはずであり、それこそがスタディ・プログラムの狙いだと思う。現地での着眼点を整理する上で、有益な議論ができた勉強会であった。