月別アーカイブ: 2019年10月

キャリア勉強会 国連フォーラム関西特別企画 「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」

2019年10月22日実施

キャリア勉強会
国連フォーラム関西特別企画
「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」

開催報告

 

2019年10月22日(火・祝)に、関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1408教室にて、国連フォーラム関西特別企画「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」を開催致しました。そのご報告をさせて頂きます。

【イベント概要】 

《企画背景》

2019年8月に世界人道デー記念勉強会が開催され、国連や国の援助機関が人道支援において果たす役割を確認しました。しかし、人道支援の現場で活躍するのは、国家機関のみならず、NGO・NPOなど民間セクターによる活動の役割も重要であることが確認されました。そこで、民間セクターによる人道支援の活動に着目し、その役割や様々な人道支援の関わり方を学ぶため、本企画の開催を決定しました。

 また、国連フォーラム関西では学生やユース層の会員が多く、様々な組織でのご経験をお持ちの井上さんをお呼びするにあたって、国際協力のキャリアについて知る機会を設け、参加者のキャリア形成の一助となることを願って開催致しました。 

《企画目的》

1.人道支援における民間セクターの活動や、その役割を知ることで、様々なアクターの人道支援の関わり方について理解を深める。

2.人道支援における国際社会の議論を知り、その実現に向けてどのような活動や議論が行われているかを学ぶ。

3.国際協力分野のキャリア形成についてご紹介いただき、参加者がどのように国際協力分野におけるキャリアを形成していくかを考える一助とする。

《イベントプログラム》

【日程】20191022日 14001630

【場所】関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1408教室

【イベントプログラム】

  • オープニング

  国連フォーラム紹介、タイムライン説明

  • 第1部

- 講演  Peace Winds Japan 井上慶子氏/【シリア危機と人道支援】

  • 第2部

-【トークセッション】

【セクター間の人道支援の違いや共通点、NGOや国連などのキャリアについて】

Peace Winds Japan:井上 慶子氏

元UNICEF職員 :久木田 純氏

  • 閉会

 

《ゲスト》

井上慶子氏

【所属】Peace Winds Japan

 

【経歴】1986年 神奈川県生まれ。明治学院大学国際学部卒。神戸大学大学院国際協力研究科博士過程前期(経済学修士)、後期(学術博士)修了。専門は教育経済。2007年12月〜08年1月にシリアへ渡航。2015年にはヨルダンのシリア難民を訪問しインタビューを実施。大学院在学中、UNESCOアジア太平洋地域教育支局およびUNESCO-UISアジア太平洋地域教育支局(タイ・バンコク)、FHI360(米国・ワシントンDC)、UNICEFジンバブエ(ジンバブエ、ハラレ)でインターン。2016年9月 特定非営利活動法人PWJ入職しイラン、ハイチ、モザンビーク事業を担当。2017年1月 シリア事業に携わり現職。

 <パネリスト>

久木田純氏

【所属】元UNICEFカザフスタン所長、関西学院大学教授 及び 国連フォーラム共同代表

 

【経歴】1978年西南学院大学文学部英語専攻卒業。シンガポール国立大学社会学部留学(ロータリー財団フェロー)を経て、九州大学大学院で教育心理学修士号取得、同博士課程進学。1985年外務省JPO試験に合格、翌年から国連職員としてユニセフ駐モルディブ事務所に派遣され、駐日事務所、駐ナミビア事務所、駐バングラディッシュ事務所、ニューヨーク本部を経て、駐東ティモール事務所代表、駐カザフスタン事務所代表を歴任。2015年1月国連退官。2003年に世界銀行総裁賞受賞。2011年に東ティモール共和国勲章を受勲。


【開催報告】

  勉強会当日は、ゲストの方の講演とトークセッションの2部構成で行いました。

 ゲストは、Peace Winds Japanのç様をお呼びして、シリア危機と人道支援ついて説明していただきました。

 トークセッションは、元UNICEF職員の久木田さんにご登壇いただき、セクター間の人道支援の違いや共通点、そして関わりなど講演では聞ききれなかった部分や、NGOや国連などのキャリアについてもお話を伺いました。

《第1部 講演》
  • 講演①井上慶子氏/シリア危機と人道支援

  • 【講演要旨】
  •  

 井上さんが活動を行っているシリアでは、2011年を機に、今でも紛争状態が続いています。井上さんからは初めに、これまでのシリア情勢について説明をしていただき、長きにわたって人道危機が続いていることに言及されました。次に、PWJが行っている人道支援についてご紹介いただきました。

  PWJの人道支援では、主に食糧支援、給水支援、冬服配布支援、シェルター支援、学校修繕支援を行っています。

<食糧支援>

 PWJでは人道支援の段階に分けて2種類の食糧支援を用意している、と井上さんは述べます。1つは、人道危機から着の身着のまま逃げてきた人への「」。そして、人道危機から避難してきてしばらく経つ人へ向けた「General Food Bascket」です。避難してきた方々は、食糧、特に栄養価が高く現地での料理でもよく使うチーズなどを買うことが難しいため、少しでも栄養が得られるように栄養価の高いものが入っているそうです。Peace Winds Japanでは、生計手段の不安定によって収入が限られている人や、稼ぎ頭であった男性を亡くした家族、また経済的に脆弱な人々を中心に配布を行っていると井上さんは紹介しました。

<給水支援>

 井上さんが活動を行っているシリアを初めとした紛争地域では、空爆などによりインフラ設備が破壊され、人びとに水が届かないという状況が起こってしまう、と言います。そのような際に、Peace Winds Japanでは、給水タンクに水を補給し、人びとの生活に必要な水の支援を行っていることを紹介していただきました。

<冬服配布支援>

 冬服配布支援は、従来の先の2つの支援(食糧支援、給水支援)に加えて近年始まった支援だと井上さんは言います。Peace Winds Japanが人道支援のニーズを調査をした際、「欲しいけど買えないもの」として挙がったのが子ども服だったそうです。服は消耗品ではないので緊急支援の際に、必需品としての優先順位が低くなってしまいますが、生活の上で欲しいものとしての需要が高かったことが結果から分かった、と説明していただき、様々な支援のニーズがあることが分かりました。

 別のコミュニティに移動した避難民の方々は、服が汚れているため移住先のコミュニティで精神的に辛い思いをしてきたそうです。しかし、「きれいな服を着たことで、街をどうどうと歩けるようになり嬉しかった」と、実際に支援を受けた方から頂いた声をご紹介してくださいました。

<シェルター支援>

 避難民の方々は、避難先の地域よりも、自分たちの住み慣れた地域にいたいと思う人が多いことが、現場で活動をしていて感じる、と井上さんは述べます。「しかし、紛争で破壊され、住むには十分に安全な状態ではなく、住むに絶えないことが多くあります」と紛争地域の現状を述べ、「その人たちの家を直すことで、『生活再建の基盤となる場所をつくる』という目的を持った支援を行っています」とシェルター支援について紹介してくださいました。また、現地組織に委託を行い、現地の人々の収入源獲得にも役立てていることが、分かりました。

<学校修繕支援> シリアの3人に1人が学校に行くことができていないと言われており、「つまり、シリア危機が始まって8年間ほど学校に行くことができていない人がいる。」学校は、軍事目的や避難所として利用されており、なかなか授業が再会できない状況にある、と井上さんは述べます。この学校修繕支援は、「これから国を築いていく子どもたちが学ぶ場所を作る」という価値があると紹介してくださいました。 

 この他、Pecae Winds Japanでは、国連人口基金(UNFPA)と協力して、シリアから2人の子どもを広島に派遣し、子どもたちのグローバルリーダーシップと国際理解を深める目的で行っている事業があることを紹介していただきました。

 紛争が未だに続いており、街はがれきの山という状態ですが、そこで生きる人びとの姿勢が印象に残っている、と井上さんは述べます。「紛争の下で生きている人たちがたくさんいるんだ。だから、彼らを助けなければならない。」「シリアから離れることを選ばない。」「自分たちがシリアという国を作っていかなければならない。」


 NGOというキャリアでは、現場経験を積むのが一般的なキャリアステップアップだと言われています。しかし、井上さんは、これら現地の人びとの声や姿勢を見て、「自国のために頑張っている人がたくさんいる中で、自分のキャリアのために駐在することは正直考えられない。」と感じたそうです。この言葉に、井上さんの現地・現地の人びとに寄り添おうとする姿勢と、まっすぐな心、そして熱い想いを感じることができました。

 最後に、井上さんは今回の日本への岐路で、シリアの上空を通った際、シリアの街が空爆を受けたのを観たと述べました。
 「報道されないけれども戦火の中で生きている人がいます。また、紛争が終わっても、がれきの中で『自分たちは見捨てられるかもしれない』という恐怖と戦いながら必死で生活を送っている人がたくさんいます。皆さんにも日々、シリアの状況や人々を気にしてほしいと思っています。」

《トークセッション》

【パネルディスカッション】

Peace Winds Japan、井上 慶子氏と元UNICEF職員、久木田 純氏ご登壇いただき、セクター間の人道支援の違いや共通点、そして関わりなど講演では聞ききれなかった部分や、NGOや国連などのキャリアについてもお話を伺いました。

モデレーター:国連フォーラム関西 黒崎

黒崎  今まで久木田さんはどのような場所でどのような人道支援に関わってきたのでしょうか。

久木田 最初の赴任地であるモルディブでコレラが流行り、UNICEFとして支援を行ったのが最初でしたね。その後は、東京で1年ほど政府を相手に支援の交渉などに携わっていました。その他にも、ナミビアで帰還民の支援として、コミュニティ開発の仕事を行ったり、高波やサイクロンによるバングラデシュの緊急支援、インド洋で地震と津波が起こった際にはファンドレイジングのための政府交渉を行ってきました。

 このほか、久木田さんはUNICEFでの仕事を経験していく中で、緊急人道支援の現場には専門外の人が入ることは、迷惑になってしまう可能性があることから好まれないことや、危険な地域に脆弱な人が住んでいることが多いことが分かったとお話をしてくださいました。

黒崎  人道支援の際には、多額の資金を用意しなければならないと思うのですが、どのように資金調達を行っているのでしょうか。

久木田 人道支援の際に重要なのは、すぐに反応することです。国連では、コペンハーゲンに大きな倉庫を用意しており、緊急支援が必要な際には、ここから必要な物資を現場に送れるようにしています。国連では、これら人道支援に関する調達を国連人道問題調整事務所(UN OCHA)が中心となって行っています。UN OCHAが提供するリリーフウェブ(Relief Web)では、人道支援の情報提供を行っており、この報告にもあるように、すぐに使える支援と、その後に繋がる開発のための莫大な資金が必要です。

井上  多くは日本政府からの支援。国連からも協力を得て資金を貰って活動しています。募金サイトやReadyForなどでも資金募集を行っており、個人や企業から支援を貰っています。

黒崎  人道支援における、様々なアクターによる協力についてや、その際の役割分担を教えてください。

井上  OCHAがどこに、誰がいて何を行っているのか報告を集約し、支援の重複を防いでいる。より支援が必要な人に届くように、またUNDACが専門家を集めて人道危機の現場に派遣し、調査したものをNGOやパートナーに共有しています。国連内で、もともと誰が何を行うかは決まっています。これをクラスターアプローチと言います。比較優位(コンパラティブ・アドバンテージ)を観たうえで、決まっています。特に、NGOは現場に近いです。国連は全体の調整や資金調達、政府との調整を行っている。Humanitarian Coordinat(Resident Coordinator)が緊急支援の責任を追うことになります。

 給水支援は、他の支援団体が資金不足で撤退することを情報を得たため、PWJが支援を切らさずに、ギャップがないように支援をすることができました。特に、誰がどこで何をしているのかが分かる地図が重要だったと思います。

黒崎  どんなきっかけで、国際協力に関心を持ちましたか。

井上  ダイアナ妃がカンボジアの地雷原を歩いている姿を見て衝撃を受けました。ダイアナ妃のような仕事をしたいと思うようになりました。海外で苦しんでいる人、戦っている人がどのように過ごしているのだろう、では自分は何ができるだろうと考えて国際協力の道を志しました。シリアに行って、勉強に没頭しなければと想い、弓道部に入っていたが、辞めてシリアと学士論文に没頭していきました。

 中東の中でも女子教育に興味を持って、イエメンに学生派遣をしていた神戸大学を受験ししました。ウガンダにフィールド調査へ行き貧困層の教育状況についてインタビューをし修士論文を書き、ジンバブエに2年半ほど過ごし、博士論文を書きました。

黒崎  学生時代の勉強がどのように役に立っていますか。

井上  申請書を書く時に、「自分たちの事業がなぜ必要なのか、そしてやったことでどんな効果があるのか」を具体的な数値や指標を持って説明しなければならないが、その際のロジカル・クリティカルシンキングが鍛えられました。大学院で様々なバックグラウンドの方と勉強したことも役に立ちました。

黒崎  久木田さんに質問です。心理学はどのように役に立ちましたか。国際協力に関心をもったきっかけはどのようなことですか?

久木田 小さい頃は自然が大好きでした。その際に、自然や地球が危ないことに気づきました。まだ当時は国際系の学部がなかったため、世界にでるにはまずは英語だろう、と想い英語を勉強しました。「国際公務員への道」というような本があり、英語・修士号・2年の職務経験が必要なことを知り、シンガポール大学院へ進学を決意しました。その時バックパックで観た自然の危機を見ました。開発も世界の問題も、人間の心、人間の判断が影響していると考え、社会心理学を取りました。子どもが育つことが地球を救うのではないかと考え、UNICEFを志望しました。

【質疑応答】

道支援の場でも法整備の重要性や、社会保障システムの重要性を感じました。尊厳のためにしていること」というワードが出てきたが、心のケアはどのように行なっていますか。

心理ケアを専門にしている団体もあります。人道支援の場でも重要。人権の観点から心理ケアを行っています。

ー難民の子供支援は他にどのようなことをおこなっていますか。

 学校の数が足りなくなってしまうので、学校の修繕や増築支援を行っています。また、学校検診を行うことで栄養改善に役立てています。

 緊急支援の際に、教育は後にされがちだが、教育を早めに取り入れることで心理ケアになっています。学校などで、レクリエーション(絵や音楽)を通して自分が経験したことを分かってもらう練習などを行う心理ケアに繋がります。

 避難生活が長いと、親も何もできないことで精神的ストレスを抱えます。そうなると、家族中に影響が出てしまします。親と子どもを話してあげる時間も必要です。親も、自分たちの生計を立て直す事もでき、開発につながるに繋がります。

ー日本政府からの資金はどのような種類になりますか。

 緊急援助のための資金、NGO連携務所から開発向けの資金があります。プロポーサルを出して、審査委員会で自分たちの支援の必要性や効果などを説明することで資金が与えられます。

ー長期化すると受益者が支援に頼ってしまうと聞いたのですが、そのさいに気をつけていることはありますか。

 事業計画をするうえで、いかに支援する人たちを巻き込むか考えています。人道支援の後に、自分たちで生計が立てられるように農家の自律支援を行っています。

 内発的動機付けが重要です。外から与えられるものを減らし、Sense of Ownership/自分たちが考え選んで行う機械を増やし、参加の機会を増やすなどすることが、人道支援のみならず開発でも重要な問題になっています。

《参加者の声》

参加者の皆様からのアンケート結果を一部抜粋してご紹介致します。

 – シリア中東でのお話やネットワークのことお話聞けてよかったです、ありがとうございました

 – 若い時に学生時代に、もっと国際社会に目を向けて外国をたくさん知ればよかった。この年齢からできることを知るために学んでゆきたい。

 – 若い時に学生時代に、もっと国際社会に目を向けて外国をたくさん知ればよかった。この年齢からできることを知るために学んでゆきたい。

 – 人道支援について学べただけでなく、井上さんのシリアでの取組に対する熱意を感じることができたから。

 – 現場のリアルの一端を知れた。子どもの教育を確保することが大事だとわかった。今でも攻撃に晒されている場所で暮らしている人の事を少しでも知ることができた。


この度「国連フォーラム関西特別企画

「国際仕事人と考える!人道支援と国際協力のキャリア」にご参加いただいた皆さま、

誠にありがとうございました。

今回残念ながらご参加頂けなかった皆さまも、

次回以降の勉強会のご参加をお待ちしております。

 

国連フォーラムは引き続き皆さまに有意義な「場」を提供できるよう努めて参ります。

今後とも、国連フォーラム関西支部をどうぞよろしくお願いいたします。

 

国連フォーラム関西支部のFacebookグループページホームページでは、国連や国際協力に関する情報共有を行っております。関心のある方はぜひチェックしてみてください!