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第29回
芦田 明美さん
国連学生ボランティアプログラム
キルギス共和国

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第29回 芦田 明美さん

国連学生ボランティアプログラム(キルギス共和国)


あしだあけみ:京都府出身。関西学院大学総合政策学部総合政策学科在籍。2007年本学の国連セミナーに参加し、現地での活動に興味を持つ。その後国連学生ボランティアのプログラムに参加、キルギス共和国にて約4カ月間、現地のNGOで英語トレーニング提供のボランティアに従事。2010年大学卒業予定。

1.日本と馴染みの深い、キルギス共和国

キルギス共和国という国をご存じの方はいらっしゃるでしょうか?おそらくほとんどの方があまり耳にされない国名だと思います。キルギス共和国は中央アジアに位置し、カザフスタン、中華人民共和国、タジキスタン、ウズベキスタンに囲まれた内陸国です。国土はおよそ日本の半分程度で、美しい山々に囲まれています。その美しい様子から中央アジアのスイスと呼ばれることもあります。

日本では認知度の低い、キルギス共和国。しかしキルギスでは、日本はとても広く知られている国の一つです。JICAなど日本からの支援も活発に行われ、首都ビシュケクには日本センターという施設があり、そこで日本語や資本主義型のビジネスが学べるようになっています。社会人や学生の多くの方が日本語、ビジネスを学んでいます。また、日本人に対してとても友好的です。なぜならキルギス人には日本人に対して特別な思い入れがあるからです。キルギス人は、キルギス人と日本人は昔同じ民族だったと考えています。そこで肉好きがキルギス人に、魚好きが日本人になったというのです。実際、キルギス人と日本人は外見がとてもよく似ていて、一見どちらがどちらかわかりません。中国という国を挟んでいるのにここまで顔は似ているのか、と最初はびっくりしてしまいました。でもそのおかげでキルギス人に見られることもあり、抵抗なく現地に溶け込めました。

2.英語トレーニングの提供

次に、キルギスでの私の仕事についてご説明したいと思います。私は2008年5月から9月までの約4カ月間、国連学生ボランティアとして、現地のUNVから医療機関NGOに派遣され、病院のスタッフや患者さんたちに英語トレーニングを提供するという活動に携わってきました。国連学生ボランティアとは、大学が国連ボランティア計画(UNV)と協定を結び、情報格差、教育、環境、健康などの重要問題に取り組むため、学生を途上国へ派遣するプログラムです。アジアの大学では初めて、世界でも3校目に関西学院大学は協定を結びました。現在、日本では本学のみが行っている活動です。選考に合格した関西学院大学の学生のみが参加できます。選考では語学力、自分が強みにできる分野を中心に面接や書類審査が行われます。選考に合格後はICTに特化した事前研修を受けます。それと同時期にUNVのボンに英文履歴書を送り、その履歴書によって現地からのボランティア要請とマッチングが行われ、電話インタビューを受けることになります。電話インタビュー合格後、現地へすぐに派遣されます。この活動には、日本に限らずスペイン、韓国の学生なども参加しています。報酬は発生しないのですが、正規の国連ボランティアと同じような条件下で現地での活動を行います。

さて、英語トレーニングについてなのですが、トレーニングの対象となる方は主に病院のスタッフの方々で、その中には英語が全く話せない方、少し単語が分かる方、議論できるまで話せる方など幅広いレベルの方々がいらっしゃいました。また彼らの仕事は忙しく、連日患者さんが診察に訪れます。そのような忙しい中でも英語を身に付けたいという向上心の高い方々が多く、私のトレーニングを心待ちにされていらっしゃいました。また、私の代から患者さん、特に子どもたちへのトレーニングを始めることにし、周りの期待が高い中でのトレーニング開始となりました。

<ぶつかった困難>
英語トレーニングを提供していく中で特に困難だったことが2点あります。それはお互いの母国語無しでの授業となったこと、習慣の違いによるトレーニング時間の確保の難しさです。

まず、私のトレーニングは英語で英語を教える、母国語無しの語学トレーニングを提供する必要がありました。なぜならキルギスでは公用語はキルギス語とロシア語であり、街中でも英語が話せるのは一部の人だというほど、英語は話されていない国なのです。また、私は公用語であるロシア語を勉強したことが無く、キルギスに行って初めてその言葉に触れた程度でした。そのような環境の中で私が取った方法は「独自の視覚教材を作成、活用する」ことでした。派遣前、日本で留学生向けの語学の授業を見学した際、視覚に訴える授業がなされていたことからヒントを得て、聴覚だけでなく視覚で楽しめる授業を提供しました。私はもともと工作が好きだったので、アルファベットを頭文字が当てはまる動物の絵にしたり(DogのD)、日常動作を表した単語と絵のカードを作ったりしました。そういったものを使った授業は学習者の方の興味を引くことができ、絵に対するコメントなどを通して会話の幅が広がりました。

また、日々の生活の中でロシア語を身に付けることも始めました。英語トレーニングの中でロシア語について学習者の方から教えてもらい、それを街中で実践し、うまくいった、いかなかったなどの報告をするといった形で、英語でのコミュニケーションをどんどん取ることにしました。

次にトレーニング時間の確保についてです。学習者であるスタッフの方々は前述したように毎日来る多くの患者さんの診察をし、なかなか自由に使える時間がありません。また、日本人とは異なる時間感覚を持っています。トレーニングを始めた当初は決まった時間になかなか集まってもらえず、思うように授業が進められませんでした。その中で私が行ったのは「積極的な声かけ」と「トレーニングの時間に幅を持たせること」です。朝、病院で会うたびに今日はトレーニングの日だよとロシア語混じりの英語で伝え、トレーニングの開始時間に来ないスタッフがいれば、来ているスタッフに誰誰を呼んできて、など声かけをするようにしました。また、きっちりとしたタイムスケジュールを組むのではなく、ある程度時間に余裕を持たせた時間割を組みました。そうすることでトレーニングに参加する人が増え、また欠席する場合にも私に一言かけてくれるようになりました。

<目に見えて出た結果>
そのようにして約4か月の英語トレーニングは終わりました。4か月だと飛躍的な英語力の向上はなかったであろうと思われる方が多いかもしれません。私も初めはそう思っていました。しかし結果を見た時に私は驚き、感動してしまいました。初めはアルファベットも分からなかった方が読めるようになり、簡単な挨拶ができるようになりました。ロシア語でしか話しかけてくれなかった人が、私の授業で使ったノートを見ながら覚えたての単語で英語のみで話しかけてくれるようにもなりました。特に大きな効果が表れたのは子どもたちです。初めは通訳を介してしか話が出来ない状態であったのに、最後には通訳なしで、英語と少しのロシア語のみで会話が成立するようになりました。このことで人々の学習意欲の高さ、それに伴った努力によってもたらされる大きな結果を再認識しました。

<なぜ日本人である私が英語を教えるのか>
ここまで私の話を読まれた方の中で、上記のような疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。なぜ日本人の私が日本語ではなく、英語なのか、英語を教えるのならネイティブがするべきではないのか。

渡航前は正直、私自身もこう思っていました。それゆえ他の人に聞かれても自信を持って答えることのできない自分がいました。しかし4か月間現地でトレーニングに携わる中で一つの自分なりの答えを見つけることができました。

それは、私は第二言語を学ぶものとして、学習者と同じ立場に立って考えることができるというものです。私自身、大して留学などをして英語を身につけたわけではなく、日本において日々の学習、生活の中で苦労して身につけました。それゆえ学習者の方の躓くポイント、疑問に思う点などによく気づくことができたのです。自身も経験したことであるからゆえに、適切なアドバイスをすることができました。

だから今は自信を持って英語トレーニングをなぜ私が提供したのか、それにどんな意味があるのかを答えることができます。この経験を胸に、これからも現状に満足することなく、より高い英語力を私自身、身につけていきたいと思っています。


3.これからの目標

私は2007年度の本学主催の国連セミナーに参加し、そこで国連スタッフの方々の話を直接聞く中で、物事が起こっている現場である現地に興味を持ち、そのことがきっかけで国連学生ボランティアとしての活動に参加しました。この貴重な経験はこれからの私の人生にとっても大きなターニングポイントになり、軸になったと思います。特に感じたのが「専門性」です。何か世界に貢献したい、と漠然と思っていても、自分に何かしら専門性がないと何もできないということを改めて実感しました。特に私は学生ですし今では何も誇れる専門性はありません。しかし将来は世界というフィールドで活躍したいという漠然とした夢があります。その夢を現実にするために、大学卒業後、自分にしかできないと誇れるような専門性を社会の中で身に付けたいと思います。そしてその専門性を持って、いつの日かまたこの国際というフィールドに辿りつけることができれば、いや辿り着きたいと思っています。

4.国連に興味のある大学生へのメッセージ

私と同じように、国連に興味のある大学生は多くいることと思います。現地へ飛び込んできた経験のある者として、そういった大学生にはぜひ頭で考えるだけでなく体で動いてもらいたいと思います。現場へ飛び込むといった挑戦をしてもらいたいです。実際に体験してみないと分からないことはたくさんあるということをこの活動を通して私は実感しました。体験したからこそ、自分の進むべき道が見え、また国連に対して見る目もいい意味で変わりました。国連を憧れだけで見ていた自分と今の自分とは大きく変わったと思います。

私の場合はたまたま通っている大学がUNVと提携していたおかげで国連学生ボランティアとなれましたが、大学がそういった環境でなくでも、やる気さえあればいろんな方法を見つけられると思います。実際に手段はたくさん転がっています。ほんの少しの勇気を振り絞って世界に飛び込み、自分の目でしっかりと国連を捉えてほしいと思います。

(2009年4月27日掲載 担当:内田 ウェブ掲載:秋山)

 


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