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シリーズ
国連グローバル・コンパクト
プロローグ
1. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん)
2. 橋田さんインタビュー「グローバル・コンパクト 本部とローカル・ネットワークの連携」(橋田由夏子さん)
3. グローバル・コンパクト・セッション(野村彰男さん、甲賀聖士さん)

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フォーラムトップ > 国連とビジネス > シリーズ「国連グローバル・コンパクト」橋田さんインタビュー「グローバル・コンパクト 本部とローカル・ネットワークの連携」


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橋田さんインタビュー
「グローバル・コンパクト 本部とローカル・ネットワークの連携」

橋田由夏子さん

橋田由夏子(はしだ ゆかこ)
東京都町田市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、富士ゼロックス株式会社に入社。事業管理部門、海外営業部門等を経て、2010年から2012年まで国連グローバル・コンパクトに企業派遣として出向、Regional Managerとしてアジア・オセアニア地域のローカル・ネットワークを担当。現在は富士ゼロックスの商品開発部門に所属し、カラープロダクションプリンターの商品化推進を担当。


聞き手:前川昭平、柴土真季
※ 記事内の組織名称などは取材時のものです。「グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク」は「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン」に名称変更されました。



国連グローバル・コンパクトで働き始めたきっかけ

■橋田さんが国連グローバル・コンパクトで働くことになったきっかけ・経緯を教えて頂けますか?

私が国連グローバル・コンパクト(以下、UNGC)に勤務していたのは2010年の11月から2012年の12月までの二年間で、勤務先の富士ゼロックスからの出向としての勤務でした。当時は関連会社間の取引ルール策定のチームに所属し、会社間取引の価格設定、ビジネススキーム策定、そしてそれらの運用を推進する業務に従事しておりました。4年ほどこの業務に携わっていた際、UNGCへの出向の話を頂きました。UNGC本部からグローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク(GCJN)に対し、UNGC本部に人員を派遣出来ないかと打診を受けたのがきっかけだったようです。

■何故橋田さんに白羽の矢が立ったのでしょうか?

何故私だったのか、正直さっぱり分かりませんが(笑)、当時のUNGCは各国のローカル・ネットワーク(※詳細後述)を強化していくことを目標の一つとして掲げており、各国のローカル・ネットワークと連携できる即戦力人材を求めていました。そのため、企業での実務経験が一定以上あり、英語力がある人材が求められていたようです。私は中学3年生から高校3年生までアメリカに住んでいたこともあり、また海外関連会社との業務が多かったことから、適任だと考えられたようです。最初はてっきり日本のGCJNで働くものと思い、六本木で働けると喜んでいたのですが(笑)、あとから勤務地はニューヨークだと聞かされ、実際には仕事で本格的に英語を使ってきた訳ではなかったため、本当にやりきれるか大きな不安がありました。実際に渡航する前には、弊社のCSR活動の内容についてCSR部に研修をして頂いたり、GCJNのメンバーからグローバル・コンパクトの概要とローカル・ネットワークの業務内容を教えて頂きました。

■橋田さんはCSR関連の業務経験があった訳ではなかったのですね?

全くありません。ただ、企業での業務経験そのものが、非常に重視されたのでは、と思います。当時のUNGCは企業と話すことが多かった一方で、働いている人は研究者、学者、NGO出身者、業界団体など、比較的企業での業務経験が少ない方々が多かったと思います。そのため、企業の内部を知っている人材を必要としていたのだと思います。

国連グローバル・コンパクトでの仕事

■UNGCではどのようなお仕事をされていたのですか?

Local Networks Teamという、その名の通りローカル・ネットワークのサポートをするチームにおりました。ローカル・ネットワークとは、各国のUNGC加盟企業・団体が自主的に集まって作られた組織であり、その国固有の課題に取り組みながら、その国国内でUNGCの考え方を広め、UNGC加盟企業を増やしていく役割を担っています。加盟企業が増えれば、ローカル・ネットワーク活動の拡大と幅の広がりが見込めるのです。私はアジア・オセアニア地域のローカル・ネットワークの担当でした。当時アジア・オセアニア地域には17カ国(日本、中国、韓国、インドネシア、フィリピン、マレーシア、ネパール、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ベトナム、シンガポール、タイ、ベトナム、シンガポール、オーストラリア )でローカル・ネットワークが存在しており、私はこれら各ローカル・ネットワークのサポートを行っていました。余談ですが、ローカル・ネットワークはUNGCと覚書(Memorandum of Understanding。以下、MOU)を締結することで正式にUNGCにローカル・ネットワークとして承認される仕組みになっています。MOUが承認されると、UNGCが定めたローカル・ネットワークのロゴを使うことが認められる等、ネットワークの活動に必要なサポートを得ることが出来ます。


写真:UNGCローカル・ネットワークの同僚と

■ローカル・ネットワークのサポートとは具体的にはどのような業務だったのでしょうか?

サポートの業務は大きく分けると4つで、@各ローカル・ネットワークの地場の活動のサポート、AUNGC本部とローカル・ネットワークの連携促進、Bローカル・ネットワーク同士の連携促進、C新しいローカル・ネットワークの立ち上げ、です。私が着任した当初は、まだ体系だったサポート手段が確立していなかったため、どのような方法で何が出来るかを考え試行錯誤しながら、少しずつ仕組みに落としていくような仕事でした。これら4つの業務はそれぞれ大きく関連しておりますが、日常はローカル・ネットワークにとっての何でも相談センターのような感じでした(笑)。
ただ、日々相談を受け対応する中で、ローカル・ネットワークの悩みや活動内容を段々と把握出来るようになったと思います。ローカル・ネットワークの活動のサポートを目的としたLocal Networks Teamの中長期目標の設定や、その達成のための戦略・組織作りの支援をおこない、UNGC本部からローカルの活動を支援する体制作りを積極的に進めていました。また各ローカル・ネットワークの活動についても毎年確認・評価をおこない、活発に活動できているか・効果的な活動をおこなえているかなどの評価も実施していました。 UNGC本部との連携やローカル・ネットワーク同士の連携としては、例えばあるローカル・ネットワークが環境関連のイベントを立ち上げたいという相談が私にあった場合、UNGC本部内の環境担当チームに繋ぎ知見の提供や講演者の紹介をします。また、同様のイベントを開催したことのある別のローカル・ネットワークに経験をシェアしてもらうなど、ネットワーク間連携の促進を図ります。個別のローカル・ネットワークの活動状況を常に把握し、縦・横・斜めの連携が促進されるようにネットワークを駆使することが求められる仕事でした。またローカル・ネットワークが本当に必要としていることは何かを考え、過去の活動を体系化して記録したり、定期的な情報提供をおこなったり、UNGCに蓄積されているデータベースをよりローカル・ネットワークにとって有意義で利便性の高いものに改善していくことなどもおこなっていました。

■橋田さんが関わられたプロジェクトの例を教えて頂けますか?

  1. 私が担当した2つのプロジェクトをご紹介したいと思います。
    エクスチェンジ・プログラム:エクスチェンジ・プログラムは、あるローカル・ネットワークがホスト国となって様々なネットワークを自国に集め、異なるネットワーク同士がお互いのノウハウの共有するプログラムです。国・地域の枠組みを超えて、各ローカル・ネットワークが抱えるそれぞれの課題を共有し、互いのノウハウを提供することで、UNGC内での効果的なナレッジ・シェアリング(知識共有)の実現を目指すものです。ホスト国のローカル・ネットワークはサポート企業および団体からの協賛を集めてプログラムを運営します。例えば、協賛企業の生産工場やサプライチェーンの調達現場を実際に訪問し、その企業に対してローカル・ネットワークがどの様に関わっているのかをベストプラクティスとして共有します。私の仕事は、ホスト国と参加国の間に入ってのコミュニケーション、プログラム内容のチェックや協議、参加国のマッチング(似たような課題を抱える国を集めるなど)、UNGC主催セッションの開催などを行っていました。私は2011年9月にドミニカ共和国、2012年11月にスリランカで開催したエクスチェンジ・プログラムを担当しました。
  2. ミャンマーでのローカル・ネットワーク立ち上げに向けたUNGC紹介イベント:2012年5月にミャンマー商工会議所がUNGCのローカル・ネットワーク立ち上げのための事務局となることが決まり、潘基文国連事務総長がミャンマーを訪問されるタイミングでイベントを行いました。潘基文国連事務総長参加の下、UNGCについて紹介し、ミャンマーの14企業・1団体がUNGCに加盟しました。第二部として、参加して頂いたミャンマーの現地企業とUNGCに加盟している(ミャンマーへの投資やサポートを考えている)外資企業、そしてアジア・オセアニア地域のローカル・ネットワーク(韓国、中国、日本、オーストラリア)を繋げる場とし、ミャンマーの政治・ビジネス環境について理解を深める企画も実施しました。なお、UNGCは新たなローカル・ネットワークの立ち上げマニュアルを提供しています。また既存のローカル・ネットワークのストラクチャーを見本としたり、本部から提案したりする形で、ローカル・ネットワークとしてのガバナンスを確立して頂いています。


写真:ミャンマーのローカル・ネットワーク立ち上げ

国連グローバル・コンパクトの意義と課題

■UNGCで仕事をされる中で、どのような意義を感じられましたか?

正直に言うと、(上述の通り何でも相談所の様で)特に初期は日常業務においては日々何のためにやっているのかな、という感覚が多々あったのも事実です。ただ、ローカル・ネットワークの具体的なイベントを企画しサポートしていく中で、ローカル・ネットワーク側からポジティブなフィードバックがあった時にはとても嬉しく、UNGCの活動に貢献できていることを実感しました。特に、先ほど申しあげたミャンマーのプロジェクトは立ち上げから関わり、アジア・オセアニア地域のローカル・ネットワーク、UNGC加盟企業、国連の他の組織とも関わりながら作り上げたので、とても印象深いものとなりました。また、前年の2011年11月にGCJNがホスト国となり開催された第3回 日中韓ラウンド―テーブルにおいて、日中韓3つのローカル・ネットワークが協力し、ミャンマーのローカル・ネットワーク立ち上げをサポートすることがコミットされていました。12年5月のこのイベントにおいて、このコミットメントが実現されたこと、イベントへの参加呼びかけに、日本企業を含め多くのUNGC加盟企業に参加頂けたのも非常に嬉しい事でした。 UNGCという場を通じて、ミャンマーの現地企業とミャンマーで活動したいという外資企業のマッチングの場が提供できたのでは、と感じました。参加したミャンマー企業に対し、UNGCに加盟することで、その企業は少なからずsustainabilityやcorporate responsibilityを認識して事業活動を行っているということがグローバルに認識されるという、企業にとってのUNGCの意義について参加企業に伝えることができたと感じています。ミャンマーはこれから経済的に発展していく国であり、今後の成長・ビジネスの拡大という国家としての重要な経済目標との矛盾無く、UNGCの必要性をアピールできたことは非常に有意義だったと感じています。

■UNGCの課題としてはどの様なものがあると思われますか?

UNGCはそもそものスタートが国連としてのMDGs達成のためにビジネスをどのように活用していくか、という思想のもとに作られたもので、ビジネス側に積極的にUNGCに参画したり、UNGCを活用する強い動機やインセンティブを見出すのが難しいのではと感じます。ビジネス側がもっと強くコミットしたくなるような仕組みづくりが必要ではないかと思います。一方で、そういう状況に置いても非常に強くコミットする企業も多く存在します。特にグローバル企業で、UNGCに限らず、広くsustainabilityに関心の高い企業や、リスク管理意識の強い企業が、サプライチェーンマネジメントや労働者の権利確保などについて検討していく上で、自ら積極的に様々なコミュニティに所属し、それをリードしていく中で情報を集めていく姿勢を有しているように思います。UNGCでは、そのような貢献度の高い企業をLEAD企業と呼んでいます。これらの企業はUNGCの掲げる10原則の要素を積極的に取り込みながら企業活動を行うことで、企業価値を高めると同時に10原則への取り組みをさらに強化しています。企業規模によらず、企業側が本業と結びつけてUNGCの活動に参画できるような環境づくりはUNGCのこれからの課題の一つだと思います。

日本企業への期待とUNGCのこれから

■最後に日本企業への期待と、今後UNGCがどのように活動していくべきかお考えをお聞かせ下さい

日本企業も徐々に積極的な活動を始めており、例えば2012年にブラジルのリオデジャネイロで国連持続可能な開発会議(Rio+20)と並行してUNGCが開催したイベント「Rio+20 Corporate Sustainability Forum」には多くの日本企業の役員や社長の方々が出席されました。そしてセッションを主催しパネルディスカッションを行い、ブースを設置するなどし、参加者からも関心を得ており、存在感を高めておられました。日本企業による取り組みは確実に拡大してきており、今後それが更に発展していくことを期待しています。2年間のUNGCでの業務を通じて感じたことは、グローバル・コンパクトに関わる活動に限らず、CSRやsustainabilityに関連する企業活動においてはトップのコミットメントが極めて重要であり、それが無い限り企業の積極的な参加は望めないのでは、ということです。UNGC側から企業に提供できるメリットは、まだまだ拡大の余地があると思います。今後UNGCが企業側の更なる積極的参加を促すような魅力的なプラットフォームを作り訴求できるか、そして企業がこのプラットフォームを商機と捉え活用出来るかが鍵ではないかと考えている次第です。

2015年8月2日掲載
ウェブ掲載:藤田綾